51.化け物になった日
やっとこさ50話です。これからもよろしくです。
「ははは!!!! あぁそぉびぃまぁしょぉぉぉぉ!!!!!!!!」
そう言って面田は5、6個の机を憂に向かって投げつける。だが遠距離攻撃は憂にとって無意味だ。
「【黒鱗】!!」
【黒鱗】の黒い衝撃膜によって軌道がずれ、飛び散った机が他の机を巻き込み吹き飛んでいく。
「ぁは!! ゃはりその力は素晴らしぃ!!!!」
「くッ!!」
遠距離攻撃が通じないと察した面田はすぐさま攻撃を近距離に切り替える。出鱈目なフォーム故、避ける事自体はそう難しく無いが問題はその"威力"。彼が叩きつけた床は拳がめり込み"ピキキッ"と亀裂が入り、一度でも食らえば致命傷になりかねない。
「魔眼起動ッ!!」
左目を紅に染め、あえて三割程の力で拳を振りかざす憂。力のコントロールを練習した結果、肉体に掛かる負荷を「骨折」から「筋肉痛」程度に調整する事が可能になったのだ......しかし。
「ふんぬッ!!!!」
面田は足を地面に埋め込み、その衝撃波を"真っ正面"から受けきったのである。しかもダメージがあるようには見えず、これには流石の憂も驚きを隠しきれなかった。いくら手加減したとは言え、生身の人間が耐えられる衝撃ではないのだ。
「嘘だろ......ッ」
「まだまだぁ、我が神の力はぁこんなモノではなぃでしょぅ!!!!」
複数の机を片手で投げる怪力に衝撃波を受けきる頑丈な体。想像以上に手強い相手に憂は顔を顰める。
「くッ、馬鹿にしやがって」
「はははぁ。ぅいくんも中々の化け物でしたよぉ?」
「黙れェェェ!!!!」
「……ぉよ?」
悍ましい経験をしてきたはずなのに、何故"たかが言葉一つ"でこんなにも怒り狂うのか。面田は理解出来ず、不思議そうに憂を見つめる。
憂がここまで激怒する理由__それは「母の言葉を否定された」から。
「母さんはこんな俺でも"人間"だって言ってくれた!! だから"化け物"だなんて言うんじゃあねぇ!!!!」
どんな時でも味方で居てくれた母が否定される……そんな事、到底許せされる行為ではなかったのだ。
「てめぇを殺して、僕は日常に帰るんだァァァ!!!!!!」
母との約束、そして何でもない日常を取り戻す為、憂と面田の攻防はより苛烈さを増した。だが【黒鱗】に頑丈な肉体と、お互い攻撃が通らず決め手に欠け体力だけが削れていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「楽しぃ、楽し楽し楽し楽し過ぎるぅぅぅう!!!!」
憂の息が切れている一方で、面田のテンションは非常に高い。このままでは憂の体力負けになるのも時間の問題だ。
「ッ、くそがッ!!」
(何か、何か良い策は無いか……ッ!!)
必死に対抗策を考えるが何も思いつかない…………しかし、今の憂にはアガレスが居た。
(アガレス、何か良い策は無いかッ!!)
『そうだな……一つ良い策がある』
(何でもいい、早く教えてくれ!!)
『頑丈とは言え人間、中は脆い。直接衝撃波をぶち当てて、"奴を殺せ"』
「ぶち当てて……殺すッ!!!!」
かつては選べなかった"覚悟の選択"を憂は迷わずに選ぶ。
「これでッッ」
「ははは……ぁ?」
「終わりだァァァァァ!!!!!!」
憂は衝撃波で一気に加速し、その勢いのまま殴り掛かった。面田は耐えきれると思ったのか避けずに受け止めようとする。
しかし、拳がぶち当たった瞬間、自分の身体全体に衝撃波の振動が広がった。骨が折れ、内臓がぐちゃぐちゃにまざりあい、脳が激しく揺さぶられる。
「ぐふぁヵsこいfdppcs!!!!」
内部崩壊を起こした面田は堪らず血を吐き、その場に倒れ込む。
そして、床に倒れた衝撃で男の仮面が外れた。
「母、さん……?」
仮面によって隠されていた素顔は瀬流 亜梨実____憂の母さんだった。
「何で、何で母さんがここに!? 面田じゃなかったのか!?」
慌てて駆け付け、亜梨実を慎重に抱え込む憂。
先程外れた拍子に裏返った仮面、その内側には小型マイク、ボイスチェンジャーが付いていた。これによって声を変える事により亜梨実を面田だと誤認させていたのだ。
だがそんな事、今はどうでも良い。
「母さん!! 返事してくれよッ!! 母さん!!!!」
「…………ね」
「!! 母さん!! 良かった、今救急車を」
「ごめん……ね…………」
その言葉を最後に亜梨実の身体から力が抜けた。
「ぇ、何言って……母さん? ねぇ!! 母さん!! 母さん!!!!」
必死に体を揺さぶるが、瞳に光が戻る事は無かった。
瀬流 亜梨実が、母さんが____死んだ。
「あ、ああ、ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
亜梨実を抱え、大声で泣き叫ぶ憂。大切な家族の突然な死に溢れる涙が止められない。
「……許せねぇ」
母の腕を強く握りしめる。どす黒い憎悪に染まった憂はこれまでにない殺意を覚えていた。
「誰が、誰が母さん、を……………………」
「殺した」
そう言おうとしたが何故か違和感があった。何故違和感があるのか、それとても簡単な事だった。
「…………ぁ。殺したの、僕じゃん」
ようやく、憂は誰かが殺したのではなく自分が殺した矛盾に気が付いた。
罪悪感の無い憂はもう「自分が母を殺した」と言う罪悪感すら感じる事が出来ない。あるのは「自分ではない、瀬流 憂と言う人間が母を殺した」と言う他人的な感覚のみ。
母が死んだショックよりも、初めての感覚の方が憂を困惑させたのである。
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「第二契約の代償はやりようによって人間性が失われるわ。瀬流君、貴方が知ったらいつか必ず契約する。そして絶対に後悔するわ」
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人を殺し、第二契約で罪悪感を失った。「ひとごろし」の罪から逃れる為だ…………だが、結果はどうだ。
自分が母を殺したのに他人事のようにしか考えられない。
自分の母を殺したのに辛くも悲しくもなく、自覚が無い。
「何だ、化け物じゃん。俺」
ようやく、憂は自分が化け物になっている事に気が付いた。
その事実を知った所で、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも何も感じない。
「はは、ははは、はははははははは」
誰も居ない教室に、ただ乾いた笑いが響き続ける。
…………ガタ
否、一人だけ観客が居た。
「何を、しているんだ…………憂」
その観客は柚子だった。
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