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43.壊れてしまった

 学校から無我夢中に逃げた憂はいつの間にか自分の部屋に立っていた。「自分が安心出来る場所はここしか無い」と心が理解していたからだ。


「はぁ、はぁ、はぁ…………」


~~~

「ひとごろし」

~~~


「ッ、違う!! 僕は人殺しなんかじゃない!!」


 顔を引っ掻く勢いで両耳を抑え付けるせいで顔や髪がボロボロになる。いつまで経っても頭から出珠の呪言(遺言)が消えず、心を休める暇が無いのだ。


 そもそも、何故憂は誰かを殺す覚悟を持てなかったのか____その原因は"魔眼使い"にある。


 アガレスと契約して以来、憂は散々な目に会って来た。

 親友に目玉を抉り取られ、殺人鬼におもちゃ扱いされ、母親を人質にされ…………

 憂は魔眼使いであると同時に、魔眼使いのことを心の底から嫌っていた。


 しかし、そんな魔眼使いと憂は一つだけ大きく異なる点がある。


 それは"人を殺していない事"。

 「人を殺さない限り自分は化け物じゃない」、無意識に憂はそう思っていた。


 それが余計に自分を苦しめる事になるとは知らずに。


「はぁはぁはぁ……!!!!」


 その瞬間、"治らない心的障害"と"初めて人を殺した興奮"は混じり合い、憂が今一番見たくない(現実)を見せた。

 自分の体が血塗れになり、何処を見てもバラバラで血塗れの死体、死体、死体。


「あ、ぁあ」


 ようやく憂は理解した、「自分は人殺しなのだ」と。

 「自分の嫌う化け物と何も変わらないのだ」と。


「ぁああ!!!!」



 僕は、化け物だ。



「ああああああああ!!!!!!!!」


 考えることを放棄し、ただただ叫び続ける。そして、気力が燃え尽きた瞬間、その場に力無く倒れ込んだ。廃人のような虚ろな目は最早生きているか分からない。



 瀬流 憂の精神は壊れてしまった。






『____楽になりたいか』






 誰かの声が頭に響く。


『苦しいだろう? 楽になりたいだろう?』


 何も考えない脳に誰かの声が入り込む。


『願え、楽になりたいと』

「……………………僕、は」


 無となった頭の中に一つの選択肢が生まれた。


『何も考える必要は無い……俺達は"相棒"だ』

「僕は……()()……ッ!!!!」



「楽に…………なりたい」



 見えない誰かが__笑った。




~~~~~




「おはよう」

「おはよう。憂、風邪ひいたんでしょ。体調はもう大丈夫なの?」

「? 特に変わりはないな」


 次の日。学校に着くと昨日まであった憂を睨む視線は消え、普通の日常へと戻っていた。どうやら害虫は出珠で間違いないようだ。因みに、ちらほらと"出珠の投身自殺"について聞こえてくるが、憂は気にする事無く教室に入った。


「おはようございます憂くん、廷出君」

「おはよう冬木さん」

「おはよう」


 先に教室に来ていた柚子と話をしていると、そこにやや不機嫌な冬木が現れた。冬木は挨拶をすると、憂に近づき小声で話しかける。


「昨日はどうしたんですか? 探しちゃいましたよ」

「帰った。あの後どう処理した」

「全く……急熱で帰宅にしておきましたよ」

「ふーん」

「……それじゃあ、また放課後」

「へい」


 あっけらかんとした態度に何か言いたげにする冬木だが、事を大きくしたくない為渋々席を離れた。


「憂、もっと話さなくて良かったの?」

「問題ない。それより今日の一限は移動教室だろ、早く行こうぜ」


 冬木の様子に助言するものの流されてしまい、「やれやれ」と溜め息をつく柚子。

 そうして憂と柚子は教科書を持って移動しようとしたその時、前方から二人組の女子生徒の話声が聞こえてきた。


「____でね、キャッ!!」


 話に夢中になっていたのか、女子生徒の一人が憂に気付かずぶつかってしまう。

 女子生徒も移動教室だったのか、辺り一面に教科書の類が散乱とするが、憂は()()()()()()()()()()先に進もうとしていた。


「憂!! 彼女にぶつかったよ!!」


 ぶつかって来たとは言え、女子生徒を無視する憂の態度に堪らず注意する柚子。

 憂は少しの沈黙の後、「あぁ」と返事をする。柚子はその一言に「ぼーっとしていただけか」と安堵する……が。


「ほらよ」


 憂は足元に散らかった教科書を拾い、ぶつかって来た女子生徒に雑に渡す。まるで「拾ってやったんだから感謝しろよ」と言いたげに。

 女子生徒は顔を顰めながら受け取ると、女子生徒達は憂を警戒するように早足でその場を去った。


「感じ悪」

「……今のは憂が悪いよ」

「そうか?」

「憂、今日何か変だよ」


 柚子は憂のことを友達だと、親友だと思っている。

 だから、「間違った方向に進んでいるなら連れ戻すことは当たり前だ」と本気でそう思っていた。


 だが、それは今の憂にとって"耳障り"でしかない。


「お前も…………"俺の敵"なのか?」

「…………えっ」


 柚子は親友の突然の言葉に思わず呆然としてしまった。そんな言葉を言うなんて思いもしていなかったからだ。


 対する憂は柚子の驚き様を見ても特に反応せず、再び歩き始めた。

 そんな憂の行動に柚子はその場からしばらく動くことが出来なかった…………




おまけ(設定説明)

約半年間魔眼使い関連でトラウマを覚えた結果、憂の精神状態は限界ギリギリになりました。(第5話参照)

「人殺し」と言う行為によって、憂の精神がついに崩壊したって感じです。

一応言っておくとⅤ章まだ続きますので。。。


感想☆ブクマお待ちしてます。

Twitter→@iu_331

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