42.出珠 虎
話し合った結果、練られた作戦は「放課後一人になった所を襲う」。
出珠は全校生徒を洗脳する為か毎日登校している。その為出会うタイミングはいくらでもあるのだが、生徒を盾にされたら捕まえようがない。故に一人きりになる帰り際で囲い襲おうと言う訳だ。
「はぁ……」
『どうした。沈鬱な顔をして』
「あぁ。何だか、気が進まなくて」
『殺すことにか? 憎くないのか、散々お前を苦しめた元凶だろう?』
「お前がそれ言うのか……」
杉江曰く作戦は早めの方が良いらしく、今日の放課後に作戦を決行する事となったのだが、先程から憂は先程から浮かない顔をしていた。一般人である憂にとって"人殺し"は忌避すべき行為。受け入れられないのも無理はない。
「確かに、出珠の野郎は憎いよ......でも、だからって殺すのは」
『違うな。お前は自分の手を汚したくないだけだ』
「な......そんな、事は」
アガレスの言葉が何故か心に突き刺さる。
そして、憂がどうにか反論しようとした__その時。
「おいお前、瀬流 憂だよな」
「ッ!? 誰だ!!」
背後からの呼び掛けに勢い良く振り返る。そこに立って居たのは今一番出会ってはいけない人物。
「お前は、出珠......ッ」
「今暇だろ? ちょいとツラ貸せよ」
~~~~~
「......」
「はっ、そう警戒すんなって。今から全部話してやっからよぉ? ギャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
出珠に連れられて来た屋上だが授業中の為、他に生徒の姿はない。
警戒心を露わにする憂を尻目に、出珠は塀の端に立ち何処か演技臭く語り始めた。
「本題に入る前に言っとくが、お前らが必死こいて探してる魔眼使いは俺だ」
「ッ……!!」
「お? その反応は......なんだ知ってたのか。俺の契約悪魔、《アンドラス》は人の噂が大好きでなぁ? 魔眼で面白可笑しく広めたってわけ」
「何でこんな......僕に恨みでもあんのかよ!!!!」
「何でって、"面白いから"に決まってるじゃん」
「……は?」
言葉が出ない憂。散々自分を苦しめて来た黒幕の動機はまさかの「面白いから」。そんなふざけた理由で灯央を殺しただなんて理解したくなかった。
「そうだ!! 今からお前に良いモン見せてやるよ」
そう言って更に煽らんとばかりに懐から種のような物を取り出す出珠。何かの能力か、見ているだけで心がかき乱される。
「コイツは【洗脳の種】っつう俺の魔具でな。「相手を洗脳する」つぅ便利な力があるんだわ」
「洗脳って……まさかそれで灯央をッ」
「あぁアイツか、アレは傑作だったわ。やめろーしにたくないーってなぁ???」
「…………」
「情けねぇことありゃしねぇ!!!! アハハハハハハハ!!!!!!!!」
その瞬間、"プツン"と何かが切れる音がした。
ドンッ__
「......ぁ」
気付いた時には、何故か出珠が落ちていた。
「_____」
背を地面に向け、何かを呟く出珠。
その顏は____笑っていた。
ひ と ご ろ し
ぐしゃっ____
「キャー!!」
「ひぃぃぃ!!!!」
「だ、誰か先生を呼べ!!」
あっという間に落ちて行き、コンクリートに強く叩きつけられる出珠の身体。頭蓋骨が割れ、中身が辺り一面に飛び散っている。
「何だ何だ?」
「あれ、ヤバいんじゃね」
「飛び降りだってよ」
生徒の飛び降り自殺にどんどん増える野次馬達。しかもそのスピードは授業中であるにも関わらず速く、それ所か初めから見ていたかのように情報が知れ渡っていた。
ここで、出珠は憂に一つ"嘘"をついていた。
それはアンドラスの魔具が洗脳の種ではなく、【不和の種】だという嘘。「憎悪を集める」その能力は全校生徒を出珠に注目させ、"出珠が死ぬ瞬間"を目撃させたのだ。
「え、あ、嘘……だろ」
一歩二歩、ふらふらと後ろに足を動かす憂。別に、出珠を今ここで殺す気は無かった......いや、正しくは"誰かを殺す覚悟"は無かった。
しかし灯央を馬鹿にされた瞬間、気付いた時には出珠を突き落としていた。思考が憎悪に染まり、"出珠を殺す事"しか考えられなかったからだ。
衝動的に殺してしまった____そんなどうしようもない事実だけが憂の手元に残ったのである。
「おい上見ろ!! 誰か居るぞ!!」
「っ!!」
一人の生徒が叫び、驚いた憂は咄嗟に隠れてしまう。
「はぁ.....はぁ.....はぁ.....!!!」
荒れる呼吸。両手で頭を抱え落ち着かせようとするが上手くいかない。周りの音が聞こえなくなり、思考も感情もめちゃくちゃな一色に染まる。
~~~
「ひとごろし」
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あの時の言葉が、表情が、頭の中からこびりついて取り除けない。
ひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろしひとごろし
「ぁ、あぁ、あぁあああぁぁぁ!!!!」
出珠の死体から逃げるように走り出し勢い良く飛び降りると、魔眼の衝撃波で落下スピードを緩和する憂。凄まじい音が周囲に響き渡ったが、不幸中の幸いか、【不和の種】によって出珠に注目が集まっている今、その異音に気付く者は誰も居なかった。
しかし今の憂には現状を把握する程の精神的余裕などあるはずも無く、溢れ出る感情をそのままに、がむしゃらに足を動かしてそのまま学校から立ち去った。




