40.酷い既視感
「......ん、聞き間違えかな?」
「聞き間違えじゃないよ瀬流君。だから私を」
「いやいやいや!!!! 何急に死のうとしてんの? 何で僕を巻き込もうとしてんの!?」
「それは……アナタが魔眼使いだからです」
「!!」
元々冬木が魔眼使いの関係者である可能性は聞かされていたとは言え、実際に言われると動揺せざるを得ない。しかし、全てが予想通りという訳ではなかった。
「契約悪魔は《モクラス》......私は【肉を消費する】魔眼使いなの」
「肉を……消費する?」
「見てもらった方が早いかな?」
「ちょ、何で脱い……ッ!!」
突然、その場で上着を脱ぎ出す冬木。勿論止めに入ったが真っ赤に染まった肌着が見えた途端、憂は目の前の光景に酷い既視感を覚えた。
「うッ、おえぇぇ!!!!」
そこに肌色が無く、赤い皮と白い骨だけ。腹の中は空っぽ。
あの時の灯央と瓜二つの姿に吐き気が襲い来る。
「私はモクラスと【自殺をしてはならない】肉体制約を結んでるから、死ぬには他の魔眼使いに殺してもらわなきゃ」
「待て、待ってくれ……冬木、さん。あんたの言ってること全部分かんねぇよ」
「……そうだよね、ちょっと慌てちゃった」
口元を汚しながら冬木に待ったを掛ける憂。自分が焦っている事を自覚したのか、冬木は深呼吸を挿み改めて説明し始めた。
「肉体的制約はね。魔体を一時的に借りる代わりに一つだけ行動を縛る、第三契約の代償なの」
「成程……って怖」
「それで、何で瀬流君が魔眼使いって分かったのかだけど……あんな可笑しい噂聞いたら誰だって疑うよ」
「返す言葉もありません」
ある程度の説明が終わり、落ち着きを取り戻した憂と冬木はようやく本題に入った。
「私が死にたい理由……それはこの魔眼が関係しているの」
「肉を、うっぷ……何とかするやつか」
「【肉を消費する】魔眼、コレを持っている限り私の体は永遠に減り続ける」
「それ、は......」
魔眼による肉体の変化、異形型だ。まさかこんな身近に、こんなに苦しんでいる人が居るとは気づきもしなかった。
「それでもね。私は"あること"をすれば、お腹が無くなって骨だけになっても、限り死なない」
「あること……?」
「人を____"食べる"の」
「…………人を、食べる?」
その言葉の意味が理解出来なかった、いやしたくなかったのだ。人が人を喰う気持ちも感触も味わいも、理解してしまえば自分が壊れてしまう。
「食べたくなくてもね、食べなきゃ死んじゃうから……肉体的制約で結んじゃったから……だからッ!!」
あぁ、どうして自分は気付かなかったのだろう。
「ねぇお願い、私を殺して!! 瀬流君しか頼れる人は居ないの!! もう人を食べたくないの!!」
間近に迫る冬木の顏はとても綺麗で、狂気に染まっていた。
今まで憂はどんな絶望的な目に会おうとも「死にたくない」と死を拒絶していた。
だが、冬木は違う。冬木は「死を望んでいる」、死を自ら受け入れていたのだ。
そんな瞳の濁った狂人など、憂が相容れられるような存在ではなかった。
しかし、だからと言って「いいえ」と言う訳にもいかず、かと言って人殺しにはなりたくない。
そうして、憂が必死に悩んだ結果…………
「い、今ある人を探しているんだ。その人を」
「分かった、協力する」
「探して……あぁ、ありがとう」
「協力するわ……だから」
夕陽をバックに冬木は振り返り、憂に微笑む。
「私を殺してね____憂くん」
その表情はまるで恋する乙女のように紅潮していた。
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「全く、面倒な女が来たわね」
(お前だけには言われたくないなぁ......)
冬木と別れた後、生徒会室にて反省会が行われていた。
事前に持たせていた小型カメラにて「冬木が動き出した瞬間に隣の部屋で待機している杉江が駆け付ける」作戦であったのだが、結果は予想の斜めを上回る。
「まぁ害虫が減って味方が増えたと考えれば上々なのかしら」
「このサイ効率厨め……」
「それじゃあ明日顔合わせするわね」
「そうだな……そうしてくれ」
考える気力も無く、適当に相槌を打つ憂。
こうして波乱の二学期初日は幕を閉じたのであった。
新ヒロインやぞ、よろこべよ。
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