13.白い手紙
引き篭もり続けた憂の容姿はそれは酷いものだった。目のクマが酷く、髪はボサボサ。何よりも顔が絶望しきっている。
しかし悪魔と契約した以上、精神が死ぬ事は無かった。
「……おい悪魔」
『何だ?』
「何で、僕を騙した」
『騙したぁ? 何を言っているのか理解出来んな』
「ッ!!」
"魔眼持ちに魔眼の力は通じない"
その絶対的ルールを悪魔が教えなかったせいで自分は死にかけた。だというのに、惚けるような態度を取る悪魔に苛立ちを隠せない憂。
それに加え、結果だけ見れば心的障害を残したあの怪物に憂の命は救われていた。あのイレギュラーがいなければ今頃舞楽に殺されていただろう。
「ふざけんなよ……あの時お前が嘘をついたせいでッ!!」
『言いがかりはよせ、あれは"言い忘れ"だと何度』
「ざけんなァ!!!!」
憂は手元に会った目覚まし時計を怒り任せに投げつける。目覚まし時計は壁に当たり、大きな音を立てながら砕け散った。
「それだけじゃねぇ。あの時、アイツは、自分の魔眼のことをベリドっつってた……あるんだろ。てめぇにも"名前"が!!」
右目が紅に染まる。絶望を憎悪に、それは無意識で魔眼を起動してしまう程に感情が荒ぶっている証拠であった。
『……驚いた、まさかこうも早くバレるとは』
対して悪魔はまるで他人事のように淡々と憂の疑問に答える。
「ッ!! お前の名前は何だ‼ 答えろ!!」
あまりにもあっさりとした自白に憤慨する憂。
しかし、その感情に意味の無い。何度振り回され情緒をぐちゃぐちゃにされようとも、それは悪魔を無駄に刺激するだけだ。
『"答えろ"だと……あまり図に乗るなよ人間ッ!!』
「くッ……!!」
『……ふ、まぁ良い。そんなに知りたいのなら人間を止めろ。そうすれば教えてやる』
「……は?」
一瞬、悪魔の言った事が理解出来なかった。
「人間を、止める? どうして」
『それが契約だからだ。"悪魔の名前を知る為に人間を止める契約"……さぁどうする、憂?』
「……ッ」
契約__かつて悪魔は「自身の力を人間に貸し与えるモノだ」と言った。つまり、"悪魔の名前"にはそれだけの価値があるという事。
名前を知っていた例の殺人鬼も、力を手にする為に契約をしていたと考えれば一応の筋は通る…………だが。
「…………それも、嘘じゃないのか」
その話を信じるには、あまりにも信頼が欠如していた。
『さぁ……どうだろうな?』
「ッ!‼ 僕は、お前を絶対にッ」
"トントントン"
その時、部屋の外から足音が聞こえて来た。亜梨実がご飯を運びに来たのだ。
「ご飯、ここに置いといておくわね」
「……」
母の登場にすっかり興が削がれてしまった憂。
仕方がないので扉を開けて、目の前に置かれたおぼんを持ち上げる…………と、おぼんの下には白い手紙が敷かれていた。
「何だこれ……手紙?」
おぼんを一旦机の上に置き、白い手紙を開いた。
しかし、その行為を憂はすぐに後悔することになる。
[明日から 学校に 登校せよ 従わなければ お前の母を 殺す]
それは____脅迫文だった。
「ッ!! これは、何で」
頭が理解を拒む……否、理解が出来ないのだ。
だが、その感覚には一つだけ覚えがある。
『間違いなく"魔眼持ち"の仕業だろうな』
「どう、して……」
『お前はコレを母親が持ってきたとでも?』
「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
理解したくない……あんな狂人共にまた襲われる事に頭が、心が理解したくない。
「何で、何で僕ばっかり……ッ!!!!」
外には出たくない……でも行かなければ母が殺される。そんな二択を心的障害を持った憂が選べるはずも無かった。
『どうする、憂。自分の母親を贄に出すか?』
「そんな事ッ、出来る訳ないだろッ!!!! クソッ……いったい僕に、どうしろってんだよ……!!」
『何を悩む必要がある、学校に行けば済む話ではないか』
「だからッ!! 魔眼持ちがいるかもかもしれないだろうがッ!!」
『力ならいくらでも貸してやる。俺はお前の相棒……そうだろう?』
「そんなの信じられるもんかッ!!」
いくら悩んでも答えは出ない。
一体どうすれば良いんだ……そう考えていると"コンコン"とドアを叩く音が憂の部屋に響く。
「憂……ちょっといい?」
ノックをした犯人は母の亜梨実、いつもの健康診断をしに来たのだろう。今の憂にとって、これが唯一の親子のコミュニケーションであった。
しかし、今日の亜梨実は健康診断が終わっても、その場から離れる気配がなかった。
「少し……昔話をするわね」
「……昔話?」
「震災のとき、お父さんが命を懸けて守ったときの事よ」
憂の父、普吾は十年前の震災でビルの崩壊から自分を庇って死んだはず。それを何故、今になって話すのか憂には分からなかった。
「あの時は憂を絶対に守るんだって必死になったわ」
「…………」
「でも、たまに思うの。もしかしたら……あの時、お父さんを助けられたんじゃないかって。お父さんを見捨てたんじゃないかって……」
「ッ!! そんな」
誰もが憂を犯人扱いする中、母である亜梨実だけは自分を信じてくれた。心が荒んでしまった憂にとって、母の存在だけが心の拠り所なのだ。そんな母を非難なんて、出来るはずが無い。
「ふふっ。心配してくれてありがとう、憂。お母さんは家族のことを、憂のことを愛しているわ。大切に思っている」
「…………」
「お母さんはいつだって憂、貴方の味方よ。全力で助けになるわ……頼りにならないかもしれないけれどね」
「____ううん、そんなことない。頼りに思っている」
憂は扉を開け、三ヶ月振りに母親との対面を果たす。
「ッ!? う、憂!!」
突然の対面と変わり果てた姿に亜梨実は一瞬動揺したものの、すぐさま憂を抱きしめ涙を流した。憂は抵抗する事もなく亜梨実に身体を委ねる。
「憂まで居なくなったら私、私……」
"トクントクン"と心臓の音が聞こえ、心が安心するのが分かる。
「大丈夫、大丈夫だよ。母さん……」
そうだ、そうじゃないか。
自分か家族か、どちらを天秤に掛けるかなんて悩むまでも無かったんだ。
「母さん、俺……学校に行くよ」
母さんは巻き込ませない……絶対に守ってみせる。
憂は、覚悟を決めた。
Q.執筆おせーよ
A.スンマセン……
Q.改稿し過ぎじゃないですか?
A.連れていきなさい
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