表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の魔眼~悪魔に憑かれた僕は普通になりたい~  作者:
Ⅱ 魔眼使いの殺人鬼
12/74

12.最悪の下策

(ば、化け物……ッ!!)


 あれは人間じゃない、"人間を殺す怪物"だ。勝ち負けとかそういう次元ではなかった。


 憎悪渦巻く本気の殺意に怯え、涙を流す。

 顔に血肉が飛んで来ても口を押さえ必死に息を殺す。


 声を出せば潰されるのは自分……あんな姿にはなりたくない。


 そして……永遠に続くかに思えた槌の振り下ろしがようやく止んだ。

 怪物は夕暮れになるまで"舞楽だったモノ"を殺し続けていた。その足元にどろどろした液体が出来上がっているにも関わらず。


 しかし、それでもなお…………怪物の殺意は止まる事を知らない。


「殺ス……殺ス……」


 怪物は殺意のままに歩き出す。

 その進路の先には____自分()が居る。


「来るな、来るなぁああ!!」

「殺ス……殺ス殺ス殺ス!!!!!!!!」

「ぁぁあああああ!!!!!!!!」


 怪物の持つ大鎌から必死に逃げようとするが、腰の抜けた足では走る事も出来ない。


(い、嫌だぁ、死にたくないぃ!! 何か、何か無いの!? 誰か助けてよぉぉおおお!!!)


 現実逃避するかの如く辺りを見渡す憂。だが目に映り込んだのは鬼ごっこ開始時に投げ捨ていた()()()()()()だけ。どうやらいつの間にか最初の位置に戻ってきてしまったようだ。


「はぁはぁはぁ……ッ!!」

(もう、アレしかない!!)


 無論、カバンの中身が強力な武器ではない事は理解している。

 しかし、そんな事はどうでも良かった。追い詰められた憂にとって例えどんなに薄い希望だろうと、それに縋るしか他に方法は無かったのだから。


 だがカバンまでは2~3m距離がある。これでは取りに行く途中で殺されてしまう。

 「カバンを取る・攻撃を回避する」。その二つを両立させる方法が思い浮かばず、息がどんどん粗くなる。


「ど、どうすれば……ッ」

『何をしている。さっさと魔眼を使え』

「ふ、ふざけんな……元はと言えば、全部、全部お前がァ!!」

『馬鹿め、"自分に"だ』

「……ぁ」


 "魔眼使いに魔眼は効かない"


 悪魔(クソ野郎)の助言に憂は()()()()を思いつく。

 それはあまりにもローリスクハイリターンな"最悪の下策"。



 魔眼の反動で自分を吹き飛ばす"自殺"だ。



「ぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」


 瞳を紅に変え衝撃波を放つ。ここで運が良かった点は"カバンが怪物の後ろではなく右側にあった"こと。真っ直ぐ吹き飛んでいれば、今頃肉ミンチになっていたであろう。

 魔眼は今度は不発する事無く発動し、反作用の力で憂はカバンに近づいた。


「ぁあああああああああ!!!!」


 とはいえ、運と言っても悪運である事に変わりない。ボロボロの肉体が衝撃波の反動に耐えられるはずも無く、体中が悲鳴を上げ血が溢れ出す。

 だが、どれだけ血反吐を吐こうとも憂は意識を落とす訳にはいかなかった。


 そして、遂にカバンに手を掛ける。


(よし!! これで)

「殺スゥゥ!!!!」

「ッ!?」


 カバンを手に入れた事に夢中で殺意の怪物が目の前に来るまで気づけなかった憂。咄嗟にカバンで防ごうとするが、大鎌を防ぐにはそれはあまりにも脆すぎた。


「ぐぁあああああ!!!!」

「殺ス殺ス殺ス!!!!!!!!!!!!!」


 ようやく手に入れた唯のカバン(心の拠り所)……しかし、無慈悲にも大鎌はカバンを貫通し憂の腹を切り裂いた。痛みを和らげる為の脳内麻薬が分泌され、腹が熱湯を掛けたかのように熱い。


(もう……駄目、だ…………)


 怪物は止まらない。一歩、また一歩と近づき、獲物の目の前に立ち高々と槍を上げ、激痛と絶望の中、憂は目を瞑った。






 だが、いつまで経っても死が襲って来る事はなかった。



「………………()()()


 憂が恐る恐る目を開くと、何故か怪物はプリンから目を離さなかった。先程までの狂いようと違い、まるで子供が宝石を見つけたかのような純粋な目をしながらただ静かに見つめていた。


「何が……起きて…………」


 周囲には破けたカバンの中身が散らばっており、その中には当然柚子から貰ったプリンもあった。

 どうして怪物がプリンを見ているのかは知らない。だが"襲われていない"という事実に安心したのか、既に限界を迎えていた憂の意識は消えてしまったのだった。




~~~~~




 結果だけ言えば、憂は生き延びた。


 意識を失った後、騒音を聞きつけた近隣住民が通報し、憂はすぐさま救急搬送された。

 舞楽の殺害スポットは人通りが少なく気付かれにくかったのだが、どうやらあの怪物が壁という壁を破壊したおかげで気付いたようだ。相変わらずの悪運である。


 しかし、運が続いたのはここまで。今回の戦いで憂の悪評がまたも広まってしまったのだ。

 辺り一面の血だまりの中に黒毛や骨の破片、極めつけの虚ろな頭部。二つ目の猟奇殺人事件、それも両方憂が関連している。そんなネタの塊をマスコミが騒がないはずが無かった。

 だが、ただの人間に悪魔の存在が分かるはずもなく、残された事実が憂を苦しめるだけ苦しめた。


 結局捜査は難航、事件はまたしてもお蔵入りである。


 そして、あの地獄の鬼ごっこから三か月という月日が過ぎた。

 肉体的状態は回復したのだが、度重なる精神的苦痛よって憂は心的障害(トラウマ)を抱えてしまった。

 その影響は食にもろ出ており、肉を食べようとするとあの時の"人間がミンチにされる光景"を思い出してしまい肉製品が食べれなくなっていた。それも、見ただけで吐き気がしまう程に……今は足りない栄養素はサプリで賄っているものの不健康な生活をしている事には変わりない。


 そんな憂がまた自室に引き籠ってしまうのは仕方のない事だと言えるだろう。

 引き籠る理由が"悪魔が監視しているから"では無い、純粋に"外に出ることが怖いから"だ。


 「また外に出て狂人たちが殺しに来るかもしれない」と憂は恐れていたのだ。


 やりたいこともなく、だが惰眠を貪る訳でもなく、ただ何もせずに時間だけが過ぎていった。




モチベアップの評価お願いします。

Twitter→@iu_331

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ