俺が救った侵入者
《第4層 原生林》
骨塚へ向かう道中、まずはここからだな。
ここは俺の大森林で最も戦力が分厚い層。
外部の人間達もそう安々と踏み込めはしないだろうが、実態はどうだろうか。
ここについて聞くなら狂える亜人か森神に聞くのがいいだろう。
簡単に見つかってくれるといいんだが。
そうしてしばらく歩くと剣戟の音が聞こえてきた。
近いな。外部の人間だろうか?
……なら丁度いいかもしれない。
人間側から話を聞ける機会なんてそう無いだろうしな。
音のする方へ向かうと狂える亜人がトドメとばかりに1人の人間に斧を振り下ろさんとする所だった。
「ちょーっと待ったぁ!」
「……何のつもりだ。こやつは正真正銘の害獣。外部の人間だぞ」
「だからこそだ。そいつは俺の知らない鍵を握ってるかもしれないからな。どうだ?そいつの処分は俺に任せてくれないか?」
「……好きにしろ。だがこれで借りは無しだ」
借り?何のことだ?
……もしかしてあいつ解毒したことを気にしてたのか?
はは、律儀な奴だ。
「ありがとう、助かる。ああ、そうだ。出会ったついでに聞いておくが森神、知らないか?」
「我が師に何用だ」
「お前の師匠なのか。だったら話を通しておいてくれないか?近いうちに話がしたいんだ。この森の現状についてな」
「……いいだろう。我が師もお前と話したがっていた」
「そうなのか、助かるよ。色々ありがとうな。次会う時には何か土産を用意しておくよ。何かリクエストはあるか?」
「…………」
俺がそう言うと、狂える亜人は黙って自らの斧を差し出した。
「随分とボロボロだな。……もしかして新調したいとか?」
「違う。だが我は師の牙だ。牙は常に鋭く無くてはならない」
「そうか。分かった。手入れキットと人材を連れてこよう」
「…………」
狂える亜人は頷くと黙って得物を背負い去っていった。
「……予定変更だな。まずはこいつから話を聞こう」
気絶した人間を担ぎ、歩き出す。
コイツから色々情報が聞き出せるといいんだが……
《第5層 ギルド館》
「ハイド様、おかえりなさいませ!」
「ハイド様……?随分とお早いお戻りですね?」
「ああ……ちょっと事情があってな。コイツの手当てを頼む」
「まあ、人間ですか?分かりました。テイル、彼を客室へ。薬草と包帯の準備も忘れずに」
「はい!ではハイド様、後は我々にお任せください」
「ああ、頼む」
「ハイド様、人間を連れ込むとはどういうおつもりですか?」
「いやな、奴は外部の人間だろう?なら俺達が知らない人間側の都合とか知ってるんじゃないかなって思ってさ」
「……成る程。では彼が目覚めたらお呼びしますね」
「頼む。俺は部屋でちょっと休むとするよ」
「はい。では後ほどハーブティーをお持ちしますね」
1時間程だろうか。アイリスのハーブティーを飲みながら自室でゆっくりとしていると……
「失礼します。ハイド様。彼が目を覚ましました」
「おお!そうか。念のため、番人……ガルドを呼んできてくれ。暴れられても困るからな」
「承知しました。テイル、ガルドを呼んできて頂戴」
「承知しました!」
「では、ハイド様。こちらです」
案内された客室へ入るとぼんやりした様子の男がベッドにいた。
客室の壁際にはガルドが腕を組んで立っている。
「……よお、身体の調子はどうだ?」
「……おかげ様で大分良くなった。感謝する。だがここはどこなんだ?アルヴェインでは無さそうだが……」
「ここは大森林第5層。お前が死にかけてた所の奥だ」
「……まさかこんな形で訪れることになるとはな。それにこんなにも文明的だとは。全く、世の中分からないものだな」
男は微笑み、少し嬉しそうだった。
「さて、俺がお前を拾ったのは残念ながらただの善意からじゃない。……聞きたいことがある」
「ああ。俺が話せる内容なら話そう」
「助かるよ。まずは名前と目的から聞こうか。お前は何故大森林に踏み込んだんだ?」
「俺はアラン。冒険者をしている。俺自身の目的は大森林の探索だ。俺は今まで様々な魔窟を渡り歩いて来たが、いずれも攻略は出来なかった。だから最後の魔窟くらいは、と挑んだがご覧の有り様さ」
「俺はハイドだ。よろしくな。ところで最後の魔窟と言ったか。やはり他の魔窟は陥落したのか……?」
「……知らないのか?数百年前に突如として現れた魔窟は既にその大部分が攻略され、残るはこの大森林だけだ」
やはり、そうなのか。あいつらの作った、魔窟が。
動揺を隠しきれない。あいつらがどれだけ攻略されまいとこだわり抜いていたか、俺は知っている。
そうして魔窟にまでなったのだ。……なのに。
「……そうか。では何故お前達は魔窟に、大森林に踏み込んでくるんだ?アランみたいな冒険が目的の奴らばかりじゃないだろ?」
「そうだな。多くの冒険者の目的はギルドコアだろう」
「やはりか。でもどうして?」
「詳しいことは俺も知らない。だがあらゆる国家が大金を出してギルドコアを欲しがっている。何か大きな利益があるのだろう。そしてここは最後の魔窟だ。つまり最後のギルドコアだ。だから大勢集まると言う訳だ」
成る程。人間達の目的はこれではっきりした。
ギルドコア。アイリス曰くギルドの心臓。
これを差し出せばどれ程の被害が出るか分からない以上、渡す訳にはいかないだろう。
「成る程な。ありがとう。大体分かってきたよ。さて、アランはどうする?俺達にお前を殺す理由は無い。だから傷が癒えるまでゆっくりしていっても別に構わないが」
「いや、それは遠慮しよう。だがもし、許可が出るなら。ここ、第5層をゆっくり見させてくれないか?俺は長らくここに辿り着くことを目的にしていた。だからこの目に焼き付けておきたい」
「それくらいはいいぞ。何なら案内するけど?」
「本当か?」
「ああ。なんたって製作者だからな。じゃあ、アラン、行けるか?」
「ちょっと待て。製作者?どういうことだ?」
「あれ、言ってなかったか?この大森林は俺が作ったんだよ」
「……まさか魔窟に創造主がいようとはな。ここに来てからは驚きの連続だよ」
「そうか。お前らは知らないもんな……」
「聞きたいことが山積みだがまずはここの探索からとしよう。いいか?」
「ああ。じゃ行こうか」
そうして俺達は5層を歩き回った。
5層の農村では丁度俺の帰還を祝う帰還祭2日目の真っ只中だった。
最初は皆アランを警戒していたようだったが、俺の客人と分かると警戒を解いてくれた。
そしてここの穀物で出来たであろうパンと見たこともないスープを配ってくれた。
「なあ、ハイド。このスープは何だ?俺はこれでも色んな所を旅してきたがこれと類似するものは見たことが無い」
「……すまん。俺にも分からん」
配ってくれたエルフ曰く、ここのエルフ達の伝統的なスープだそうだ。
……これは俺の設定には無かった物だ。
アランが他のエルフ達との会話に夢中になっている隙に5層の現状把握も兼ねてここに詳しそうなエルフの老人に話を聞いてみた。
「おお……ハイド様。ご帰還、心よりお祝い致します……」
「あなたも俺を待ってたのか?」
「勿論ですとも。あなたの居たかつてを知る者は少なくなりましたがあなたのことを忘れるエルフはおりません」
「……そうか。ここの様子はどうだ?」
「平穏そのものですよ。今年も豊作で滞りなく冬を越せそうです。あなた様のご帰還でこの平穏は安泰でしょうな」
「……尽力するよ」
「おーいハイドー?これについて聞きたいんだがー?」
「アラン。すまんがここについて俺が答えられることは思ったよりも少ないかもしれん」
アランは念願だった5層を訪れた冒険者として、俺は創造主でありながらエルフ達の現在をほとんど知らないただ1人として、帰還祭2日目を共に楽しんだ。
アランは森を踏み荒らす害獣では無かった。
少なくとも、大森林に入ってくる人間が皆、森を荒らしに来ている訳ではないらしい。
アランのように、ただ未知を見てみたい奴だっている。
……森に入ってくる冒険者が皆、アランみたいな奴なら、話は簡単なんだけどな。




