俺の帰る場所
ふぅ、何とか最大の山場は超えたな。
そして見えてくるのが……
《第5層 農村》
「はは……ここも懐かしいな」
さて、まずはギルド館に向かわなくては。
そこでここ数百年の大森林のこと、この世界のこと、そしてあわよくば俺自身のこと……色々聞きたいことが山積みだ。
麦畑の中、整備された農道を歩く。
道中、ここで暮らすNPCとして配置したエルフ達が見えた。
彼らもここで1つの命として暮らしてるようだった。
しかし彼らは俺を見るなり一目散に走り去って行く。
……警戒されているのだろうか?
無理もないかもしれない。
亜人達曰く数百年ぶりだ。
彼らは覚えていたが、エルフ達は覚えてないかもしれない。
それにエルフ達は戦闘出来る様にはしてない。
外部からの訪問者は滅多にいないとはいえ知らない奴を見たら逃げるのが無難だろう。
……そうしてエルフ達に避けられながらギルド館へやってきた。
一呼吸置いて扉を開ける。
すると……
「ハイド様!おかえりなさいませ!」
沢山のエルフ達が出迎えてくれた。
あれ?俺って避けられてたんじゃ……?
「みんな……俺を覚えている、のか?」
「当たり前ですよ!ハイド様を忘れる大森林の住人はいません!今、副官様を呼んでます。しばらくお待ちください」
「……そうか。ありがとう」
少し目頭が熱くなる。
……俺って愛されてるんだな……
しばらくして見慣れたメイド服の女性が現れた。
ギルドNPCの管理官、アイリスだ。
「ハイド様、おかえりなさいませ。ご帰還、心より歓迎致します」
「……ただいま、でいいのかな。早速で悪いんだけど聞きたいことが山積みなんだ。……いいかな?」
「勿論です。なんなりと。私室へ案内致しますね」
アイリスの案内のもと、私室……俺の部屋へと通された。
何百年と使っていない筈なのに手入れは行き届いていた。
「ハイド様、こちらいつものハーブティーでございます」
「おお、そういえばあったなぁ……頂くよ」
ゲーム時代では一応効果はあったが、それはゲーム上の話。こうして実際に飲むのは初めてだ。
……美味い。こんな上等な茶は今まで飲んだことが無い。
「美味しいよ。ありがとう」
「いいえ。お口にあったようでなによりです。……さて、何処からお話しましょうか」
「……そうだな。まず……ここは何なんだ?」
「何、と申しますと?」
「俺の知ってる大森林ではある。でも、俺が知ってる大森林はゲームの中にあったんだ。お前達だってそうだ。それがなんでこうなってる?それに俺はどうしてここにいる?」
「……申し訳ありません。それは私にも分かりません。我々にとって、この大森林は生まれた時からこの地に存在するものです」
「……そうか。まあ、そうだよな」
期待していなかったと言えば嘘になる。
ここまで来れば何か分かるかもしれないと思っていたから。
だが、アイリスにも分からないなら仕方ない。
他に当ても無いしな。
「じゃあ、分かることから聞かせてくれ。俺がいなくなってから、どれくらい経った?亜人達から数百年らしいことは聞いた。ただ、その……俺はどれくらいお前達を独りにしたんだ?」
「……200年。200年間、我々はただあなた様の帰還を信じてこの日を待ち続けました」
……200年。想像もつかない長さだ。
きっと沢山の不安があったことだろう。
疑念もあったかもしれない。
それでも信じて待っていてくれたようだ。
知らず知らずの内にそんな重荷を背負わせていたことに少し心が苦しくなる。
「……そうか……すまない」
「いいえ、いいのです。こうして戻って来てくれたのですから。……エルフ達とは話しましたか?皆喜んでいます。今日はきっとお祭りですよ」
「ははは、そうか。……俺の部屋、ずっと手入れをしていてくれたんだな」
「ええ。いつ戻られてもいいように」
「…………」
「さて、まだお聞きになりたいことがあるのでは?」
「……そうだな。じゃあ、俺がいない間の大森林はどうだった?」
「概ねは変わらず、何1つ取りこぼすことなく生命は廻っています。ですが多くの人間が出入りする様になりました」
「ああ、俺も第1層で見たな」
「なら話は早いでしょう。彼らは時に手段を問わずこの大森林に入って来ます」
「……何のために?」
「それは人間により様々でしょう。ですが皆一様に深層を目指している所、何か大きな目標がある様に感じます」
「ふむ……大きな目標……ギルドに溜め込んでる物資とかか?」
「さて、我々には測りかねます。確証はありませんが私は、他の魔窟は既に陥落したものと考えております。そのことから、ある程度は予想が付きます」
「つまり?」
「ギルドの心臓、ギルドコアです」
「ギルドコア……確かにGVGでは防衛目標だったな。でもただそれだけだっただろ、あれ」
「……ハイド様はそう認識なさっているのですね。今の我々にとってギルドコアとは、先ほども申し上げた通り心臓、無くてはギルド設備のほぼ全てが麻痺してしまう、そんな代物です」
「どうしてそんなものを……?まあいいや。これは考えてても仕方が無い。で、サラッと流したが他の魔窟が陥落?俺はアイツらの熱量を知ってる。そう簡単に落ちるとは思えないんだけど……何か根拠はあるのか?」
「長年続いていた通信と交易が、ある時を境に途絶えたままです。そして今なお応答はありません。それだけで陥落を断定することはできませんが……六つ全てが、となれば」
「……そうかぁ……そうだ、他の魔窟の主が帰ってきたとか聞いてないか?」
「いえ、そのような情報はありませんでした」
「……ふむ、ありがとう」
つまり帰ってきた魔窟の主は現状俺だけなのか?
なんでまた俺だけ……?
依然として分からないことだらけではあるが分かったこともある。
大森林に踏み入ってくる人間達はどうやら大森林のギルドコアを狙ってるらしい。
理由は分からないが何か利益があるんだろう。
そうして時には手段を問わない。
……黙って見てられるか。
「アイリス」
「はい」
「俺は決めたぞ。この大森林は俺が守る!ここは俺の庭だが、それだけじゃなさそうだしな。好き勝手させるかよ……!」
「それでこそハイド様です。では、何から始めましょうか」
「まずは現状把握から始めよう。ここまで軽くは各層を見てきたけど、もっとくまなく、全体的に」
「はい。では全体マップを開きましょう」
アイリスが何やら操作をする。
すると大森林の全体マップが現れた。
「おお……これが今の大森林か。……ん?ここ何だ?」
第3層の端に、何やら白いエリアがある。
……こんなエリアあったか?
「これは骨塚ですね。ある亜人が王を名乗っています」
「……なんだそれ、俺知らないんだけど……」
「無理もありません。ここ数百年のことですから」
……ここは訪れる価値がありそうだ。覚えておこう。
他は見た感じ大きな変化は無さそうだった。
だが第1層の被害が酷い。これでは森番達は大変だろう。……これも覚えておこう。
「ふむふむ……さて、後は実際に行ってみてかな」
「でしたら出発前にはギルド倉庫へ立ち寄ることをお勧めします。荷物を整理すれば森も歩きやすいでしょう」
「……そうだな。モック爺にも顔を出すついでに寄っておくよ」
「ですが、まずはお休みください。ここまでお疲れでしょう?隠しても無駄ですよ」
「はは……バレてたか。うん。じゃあ1日くらいゆっくりさせて貰うよ」
「では、何かありましたらお申し付けください。失礼します」
アイリスは綺麗な所作で部屋から出ていった。
……さて、俺も休むとするかな。
そうして部屋のベッドに潜り込む。
するとこれまでの疲れがどっと押し寄せてきた。
思えば長い道のりだった。
いやぁ……頑張ったなぁ!俺!
だから今は……休もう……それ……くらい……許される……筈……だ…………




