俺に牙を剥く守護者
《第4層 原生林》
ここからは少しの油断が死に繋がるかもしれない。
そんな我が大森林最大の魔境、原生林。
野良感覚でいる神の化身、大型昆虫、そしてネームドエネミー狂える亜人。
いずれも強敵ばかりだ。
幸い、ハイドは生存特化の構成だ。そう安々と死ぬことは無い……と思いたい。
だが今の俺に戦闘経験はない。どこまで通用するか……
そうして慎重に歩を進める。
道中、神の化身達を目撃したが、様子を見ているのか襲いかかっては来ない。彼らには彼らの考えがあるようだ。
昆虫達も同様だった。だが、奴は違った。
木々をかき分け、その巨体が姿を現す。狂える亜人だ。
「……よお。お前も元気そうでなにより。……通してくれたりはしないか?」
「我が師の領域を侵すものは全て害獣。お前も例外では無い」
「ハッ……そうかよ……!」
……戦闘態勢を取る。さて、何処までやれるか……
咆哮をあげ、突撃してくる狂える亜人。まずは……
『サモン・ヒールフラワー』
土を突き破り、1輪の黄色い花が咲く。
この花が俺の生命を保ってくれる。
『アックスストライク』
ちょ……速っ……!
「ぐっ……!」
想定外の速さで繰り出された斧の一撃をモロに食らい、吹き飛ばされる。痛いものは痛いが体力的には軽微だった。
そして、ヒールフラワーの回復が機能し、裂けた肉体を修復する。
……およそプラマイゼロ。これならやれる。
このままヒールフラワーを増やせば千日手だ。
『過増殖』
これでヒールフラワーを一気に増やす。
ヒールフラワーの小さな花畑が形成される。
そしてヒールフラワー達が一斉に回復の光を放つ。
俺のビルド構成は回復、それも過剰回復を起点に様々なバフを得るものだ。
余剰分の回復力が身体に力を与えてくれるのを実感する。
……これで盤石なはずだ。
『狂える咆哮』
く、狂える咆哮!?そんな技知らないぞ!?
鼓膜が痛い。周囲の葉が震える。ヒールフラワーが一斉にあらぬ方向へ首を振り始める。
そして、俺も……なんだか思考が纏まらなくなる。
あれ……?俺は、何を……?
『アックスラッシュ』
「ぐっ……ああ!!」
さっきよりも……痛い……?
つまり……?えっと……うーん?
「…………」
あれぇ?痛くない……
アイツ、なにを……?
花を攻撃して……?うん?花?
『アックスストライク』
「ぐはっ……!」
吹き飛ばされ、樹に叩きつけられる。
だが、痛みで頭がスッキリした。
……あれからどうなった?
周囲を見回す。ヒールフラワーは1本もない。
まずい。このままでは押し切られる。まずは距離を取らなければ……!
『バインドソーン!』
地面から棘の蔓が這い出し、狂える亜人の脚へ巻き付く。
「…………!」
よし!一時的には隙ができた!この間に……!
『サモン・ヒールフラワー』
再度ヒールフラワーを展開する。
また1からになるが、なんとかするしかない。
……狂える亜人の次の行動が勝負の分かれ目かもしれない。
持ってくれよ……俺の体力……!
『狂える一撃』
「ぐぅ……ああ……!」
耐え、た……!
めちゃくちゃ痛いが耐えた!
危ない橋はなんとか渡りきった。
……これなら!
『過増殖!』
再びヒールフラワーの花畑が形成される。
一斉に光が照射されボロボロの身体を修復していく。
……さあ、反撃開始だ!
「ふぅ……ここからは俺のターンだな」
「グルル……」
『狂える咆哮』
「ハッ!今更遅いぜ!」
ヒールフラワー数本が混乱状態になった。だが必要な回復量は確保できてる。
……冷静になった今はわかるが、どうやらあのスキルには混乱効果があるようだ。そして幸い、今回は俺に混乱はつかなかった。
なら攻勢に移ってもいいだろう。
『サモン・ポイズンブルーム!』
土を突き破り、紫色の花が姿を現す。
正直、俺の構成では攻撃力は大したことが無い。ならば、毒を蓄積させてチマチマ行く方がいいだろう。
『アックスラッシュ』
「ああ、クソ、痛えなぁ……!」
回復するとしても痛いものは痛い。
このビルド構成で1番の難点はこれかもしれない。
だが、これで終わりだ!
『過増殖』
ポイズンブルームの小さな花畑が完成する。
これで奴の毒蓄積も相当になるだろう。
そして俺のダメージはヒールフラワーが回復してくれる。
……交渉するなら今だろう。
「……まだやるか?お前の出せるダメージには回復が追いついてる。そしてお前は毒が蓄積してる。お前、死ぬぞ」
「……死は恐れるものでは無い……我が死すとも我が死は森へと還り、我は森と1つになる……」
「だからって今、俺相手に死ぬことはないだろ。ここを通してくれるだけでいい。お前の庭は荒らさない。俺が誰だか分かってるならそれくらい信用してくれてもいいだろ?」
「…………いいだろう。だが我は見ているぞ」
そう言うと、毒に蝕まれた身体を引きずって狂える亜人は去っていった。
だがその去り際に俺は引き止めた。
『キュアーポイズン』
毒を解除する魔法を唱える。
狂える亜人の顔色が少し良くなったようにも見える。
「……何のつもりだ」
「言ったろ。今死ぬ必要はないって」
「…………」
そうして狂える亜人は去っていった。
「ふぅ……初めてにしては上出来、か?」
それから体力を万全に整えてから再び歩を進めた。




