第81話 癖
放課後。
本子は、委員会で一緒になった男子生徒を呼び出していた。
「この前の返事なんだけど」
「うん」
男子生徒の表情が緊張する。
本子は少し迷った後、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「付き合えません」
男子生徒はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「そっか」
「うん。本当にごめん」
「いや。ちゃんと考えてくれてありがとう」
男子生徒は少し残念そうに笑い、その場を離れていった。
本子は遠ざかる背中を見送る。
嫌な人ではなかった。
むしろ、優しくて誠実な人だったと思う。
それでも。
その人と一緒に帰ったり。
休日に出かけたり。
隣を歩いたりする姿を想像しようとすると。
なぜか、縁之丞の顔が浮かんだ。
「……何で」
今は顔も合わせづらい相手なのに。
◇
帰り道。
本子は一人でコンビニへ寄った。
飲み物が並ぶ棚の前に立ち、自分の好きなものを一本取る。
そして、その隣にある飲み物へ手を伸ばした。
縁之丞がよく飲んでいるものだった。
二本を持ったところで、本子は動きを止める。
「……いらないじゃん」
今日は一人だった。
縁之丞の分を買う必要なんてない。
本子は飲み物を棚へ戻す。
ただ一本戻しただけ。
それだけなのに。
少しだけ、寂しくなった。
◇
夜。
本子はベッドに寝転がりながら、スマートフォンを眺めていた。
画面に、犬が転んで慌てる動画が流れてくる。
思わず笑った。
「縁之丞、こういうの好きそう」
共有ボタンを押す。
送り先の一番上に、縁之丞の名前が表示された。
指が止まる。
以前なら、何も考えずに送っていた。
返事が来なくても。
既読だけでも。
別に気にしなかった。
けれど今は、送っていいのか分からない。
本子は共有画面を閉じた。
「……何してるんだろ」
スマートフォンを伏せる。
送らなかった動画のことが、しばらく頭から離れなかった。
◇
翌朝。
本子は一人で家を出た。
いつもの道を歩く。
何も考えずに足を進めていると、見慣れた角が近づいてきた。
曲がった先には、いつもの待ち合わせ場所がある。
本子は足を止めた。
縁之丞がいるかもしれない。
そう思った瞬間。
会いたいと思った。
けれど。
昨日までのことを思い出す。
会っても、何を話せばいいのか分からない。
本子は角を曲がらず、別の道へ向かった。
縁之丞の飲み物を選ぶこと。
面白いものを見つけたら送ること。
朝、一緒に学校へ行くこと。
どれも特別なことではないと思っていた。
「……癖になってたんだ」
そう呟いてみる。
けれど。
本当は、ただの癖ではなかった。
それはずっと、本子の日常そのものだった。
直そうと思っても。
何度も縁之丞を探してしまう。
それが少しだけ悔しくて。
同じくらい。
寂しかった。




