↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/121

第79話 普通がない朝

 朝。


 本子は家を出ると、いつもの待ち合わせ場所へ向かいかけた。


 何年も通ってきた道。


 考えなくても、足が勝手にそちらへ向かう。


 けれど。


 昨日の帰り道を思い出し、足を止めた。


『もう知らない!』


 縁之丞へ投げつけた言葉。


 あんな別れ方をしたのに。


 いつも通り待ち合わせるなんてできない。


「……行かなくていいか」


 本子は小さく呟き、別の道へ曲がった。



 その頃。


 縁之丞は、いつもの待ち合わせ場所に立っていた。


 来るつもりなどなかった。


 気づけば、ここまで歩いていただけだった。


 無意識に時計を見る。


 いつもなら、本子が現れる時間。


 縁之丞は何度も道の先へ目を向ける。


 けれど。


 本子は来なかった。


「……そりゃ、来ないよな」


 誰に聞かせるでもなく呟き、一人で学校へ向かった。



 二人は、ほとんど同じ時間に教室へ入った。


 扉の前で目が合う。


 いつもなら。


「おはよう」


 その一言が、何も考えずに出ていた。


 けれど今日は。


 二人とも口を開けない。


 本子は小さく目を逸らし、自分の席へ向かう。


 縁之丞も何も言わず、その後を通り過ぎた。


 近くにいた生徒が、不思議そうに尋ねる。


「今日、一緒じゃないんだ?」


「……たまたま」


 本子が答える。


 少し離れた場所では、縁之丞も同じことを聞かれていた。


「霧島、鬼灯と来なかったの?」


「……たまたま」


 同じ答え。


 けれど。


 二人とも、その声は少しだけ沈んでいた。



 昼休み。


 いつもなら、どちらから声を掛けるでもなく一緒に昼食を取る。


 今日は、本子がクラスの女子生徒に誘われた。


「鬼灯さん、一緒に食べない?」


「うん」


 本子は笑って頷く。


 縁之丞も男子生徒たちの輪へ入った。


 どちらも会話に参加する。


 笑うこともできた。


 それでも。


 本子は何度も、縁之丞の方を見てしまう。


 縁之丞もまた、気づかれないよう本子へ視線を向けていた。


 本子は楽しそうに笑っている。


 縁之丞も友人と話している。


 自分がいなくても。


 普通に楽しそう。


 二人は同じことを思い。


 同じように、少しだけ胸を痛めた。



 放課後。


 縁之丞は剣道部へ。


 本子は委員会へ向かう。


 以前なら。


「何時に終わる?」


「今日は少し遅いかも」


 そんな会話をしていた。


 今日は、何も言わない。


 縁之丞が教室を出る直前。


 何となく振り返る。


 本子も、こちらを見ていた。


 一瞬だけ目が合う。


 けれど。


 二人とも、すぐに視線を逸らした。


 登校も。


 昼食も。


 放課後も。


 今まで当たり前だったものが。


 一日で、すべてなくなった。


 ただ話しかけないだけ。


 それだけなのに。


 その一日は。


 いつもより、ずっと長く感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。