第76話 今度は私
数日後。
昼休み。
委員会の仕事を終えた本子は、教室へ戻ろうとしていた。
「鬼灯さん」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると、委員会で一緒の男子生徒が立っていた。
「少し話せる?」
「うん」
二人は人気のない校舎裏へ向かった。
男子生徒は深呼吸を一つして、本子を見つめる。
「鬼灯さんのことが好きです」
「委員会で一緒に活動してきて」
「もっと一緒にいたいって思うようになりました」
「付き合ってください」
本子は目を丸くした。
自分が告白されるなんて、思ってもいなかった。
断ろう。
そう思う。
答えは最初から決まっていた。
この人と付き合うことはない。
でも。
ふと。
縁之丞の顔が頭に浮かぶ。
(どうせ……)
(私なんて)
(ただの幼馴染なんだよね)
数日前。
縁之丞は、自分の意思で告白を断った。
あの時。
本子がどれだけ苦しかったかなんて、きっと知らない。
もし。
今度は自分が告白されたと言ったら。
縁之丞は、どんな顔をするんだろう。
少しは困るのかな。
少しは止めてくれるのかな。
そんな期待をしてしまう自分がいた。
だから。
「……ごめん」
そこまで言って。
言葉が止まる。
男子生徒は少しだけ笑った。
「返事は急がなくていい」
「少しだけ考えてくれたら嬉しい」
本子は小さく頷く。
「……分かりました」
本当は。
もう答えは決まっている。
それでも。
少しだけ保留にしてしまった。
◇
放課後。
帰り道。
二人は静かに歩いていた。
本子が口を開く。
「私も、告白された」
縁之丞の足が止まる。
「……え?」
「委員会の人」
その一言だけで。
胸がぎゅっと締め付けられた。
苦しい。
嫌だ。
なんで。
理由は分からない。
でも。
本子が誰かと付き合う姿なんて、想像したくなかった。
「返事は?」
気付けば、口が動いていた。
本子は縁之丞を見る。
少しだけ意地悪をするように。
少しだけ試すように。
「少し考えるって言った」
縁之丞の表情が曇る。
その顔を見て。
本子の胸が少しだけ痛んだ。
(困ってる)
(少しは気にしてくれたんだ)
嬉しい。
でも。
それだけじゃ足りない。
本当は。
『断って』
そう言ってほしかった。
それでも。
その言葉だけは、口にできなかった。
「縁之丞なら、どう思う?」
数日前。
自分が聞かれたのと同じ言葉。
今度は、本子が問い掛ける番だった。
縁之丞は答えられない。
数日前。
本子へ投げ掛けた問い。
今度は。
自分が答えられなかった。
言葉が出ない。
二人の間に、静かな沈黙が流れる。
夕焼けに伸びる二つの影だけが。
静かに並んで歩いていた。




