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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第67話 迎え

 放課後。


 本子は放送委員の打ち合わせを終え、教室へ戻ってきた。


「思ったより早く終わったな」


 机の横から鞄を持ち上げる。


 時計を見る。


 いつもなら、まだ剣道部の練習が終わる少し前だ。


「……迎えに行こうかな」


 誰に言うでもなく呟く。


 一緒に帰れるかもしれない。


 そう思うと、自然と足取りが軽くなった。



 本子は剣道場へ向かう。


 夕日に照らされた校舎を歩きながら、小さく笑う。


 縁之丞は驚くだろうか。


『もう終わったの?』


 きっと、そんな顔をする。


 少しだけ驚いて。


 少しだけ笑って。


 それから、いつものように一緒に帰る。


 そんな帰り道を思い浮かべながら、本子は歩いていた。



 剣道場へ着くと。


 ちょうど練習が終わったところだった。


「ありがとうございました!」


 部員たちの声が道場へ響く。


 縁之丞も竹刀を片付けながら、部員たちと話していた。


 本子は入口の前で立ち止まる。


 もう少し近付こう。


 そう思った、その時だった。


「お疲れ様です」


 女子マネージャーがペットボトルを差し出す。


「ありがとうございます」


 縁之丞は笑顔で受け取った。


「今日も助かりました」


「いえ。また明日もお願いします」


「ああ」


 二人は自然に言葉を交わす。


 特別な雰囲気ではない。


 部員とマネージャー。


 ただ、それだけのやり取りだった。


 それなのに。


 本子は、その場から動けなかった。


 胸の奥が、ざわつく。


 小さな棘が刺さったような。


 何かをぎゅっと掴まれたような。


 説明のできない違和感が、胸いっぱいに広がっていく。


(……何?)


(この感じ)


(何で……)


 縁之丞は、ただ部活を手伝っているだけ。


 マネージャーも、自分の仕事をしているだけ。


 何もおかしなことなんてない。


 頭では分かっている。


 それでも。


 目の前の光景から、どうしても目を逸らせなかった。


 女子マネージャーが笑う。


 縁之丞も穏やかに笑い返す。


 普段なら、何とも思わないはずの光景。


 なのに。


 胸の奥が、少しずつ苦しくなっていく。


「……」


 本子は小さく息を呑む。


 迎えに来ただけだった。


 一緒に帰ろうと思っただけだった。


 それなのに。


 一歩が踏み出せない。


 声を掛けようと思っていたのに。


 今は、その勇気さえ出てこなかった。


(……何なの)


(この気持ち)


 理由は分からない。


 けれど。


 昨日よりも。


 一昨日よりも。


 胸のもやもやは、確かに大きくなっていた。

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