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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第65話 帰り道

 放課後。


 剣道部での練習を終えた縁之丞は、一人で校門を出た。


 夕日が校舎を赤く染めている。


 県大会が近いこともあり、今日の練習はいつも以上に熱が入っていた。


「ありがとうございました!」


 元気な部員たちの声が、まだ耳に残っている。


 縁之丞は軽く肩を回しながら歩き始めた。


「……静かだな」


 ぽつりと呟く。


 いつもなら。


 本子が隣を歩いている。


 学校であった出来事を話したり。


 夕飯は何だろうと話したり。


 テレビの話や、新しくできた店の話。


 気付けば他愛もない話をしながら帰っていた。


 それが、いつの間にか当たり前になっていた。



 住宅街へ入る。


 見慣れた景色。


 毎日のように歩いている帰り道。


 ふと、通学路の脇を見ると、小さな柴犬が散歩をしていた。


 飼い主の足元を元気よく歩きながら、尻尾を大きく振っている。


「かわいいな」


 思わず笑みがこぼれる。


 その瞬間。


 縁之丞は無意識に隣を振り向いた。


「……」


 誰もいない。


 いつもなら。


「見て、本子」


 そう声を掛けていた。


『かわいい!』


 本子ならきっと、しゃがみ込んで嬉しそうに笑っていただろう。


 その姿まで頭へ浮かんできて。


 縁之丞は少しだけ苦笑した。


「癖になってるな」


 そう呟いて歩き出す。



 商店街を通る。


 新しくできたパン屋から、焼きたての香りが漂ってきた。


「そういえば」


 昨日、本子が甘いパンを食べたいと言っていた。


 買って帰れば喜ぶだろうか。


 そんなことを考えてから、縁之丞は首を振る。


「いや、今日は委員会だったな」


 帰る時間が違う。


 もう家へ着いているかもしれない。


 それなら明日でもいい。


 そう考えながら店の前を通り過ぎる。


 少し歩くと、今度はゲームセンターの前を通った。


「新作、今日からだったか」


 昼休みにクラスメイトが話していたことを思い出す。


 本子はあまりゲームはしない。


 でも。


 クレーンゲームだけは妙に上手かった。


 昔、一緒に遊びに行った時。


 一回でぬいぐるみを取っていたことを思い出す。


『えへへ』


『取れた』


 嬉しそうに笑っていた本子の顔が浮かぶ。


「……また行くか」


 思わず口に出していた。


 それに気付いて、自分で少し笑う。


「今度誘えばいいか」



 歩きながら、今日一日を思い返す。


 部長がまた頭を下げてきたこと。


 今回で最後と言いながら、何度も頼みに来ること。


 本子なら。


『また?』


 と笑うだろう。


 そのやり取りを想像すると、自然と笑みが浮かんだ。


 学校では面白いこともあった。


 話したいこともある。


 けれど。


 今日は隣に本子がいない。


「明日話せばいいか」


 毎日学校で会う。


 家だって隣同士。


 少し帰る時間が違うだけだ。


 それなのに。


 話そうと思っていたことが、一つ、また一つと増えていく。



 家まであと少し。


 見慣れた公園の前を通る。


 小さな子どもたちが元気に遊んでいた。


 鬼ごっこをする子。


 ブランコを漕ぐ子。


 砂場で遊ぶ子。


 その光景を眺めながら歩いていると、不意に思い出す。


 小さい頃。


 本子と二人で、この公園で遊んでいたことを。


 鬼ごっこをして。


 ブランコで競争して。


 日が暮れるまで遊んで。


 母親たちに迎えに来られていた。


「懐かしいな」


 自然と笑みがこぼれた。


 あの頃から。


 本子はずっと隣にいた。


 幼稚園も。


 小学校も。


 中学校も。


 そして高校も。


 隣にいることが当たり前だった。


 だからだろうか。


 今日の帰り道は、少しだけ静かに感じる。


 理由はよく分からない。


 ただ。


 本子がいない帰り道は、いつもより少しだけ長く感じた。


 そんなことを考えながら。


 縁之丞は夕日に染まる住宅街を、一人ゆっくりと歩いていった。

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