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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第43話 また来週

 夕方。


 窓の外が、少しずつ暗くなり始めていた。


 テレビ番組が終わり、次の番組の予告が流れる。


 本子は縁之丞の肩から頭を上げ、壁の時計を見た。


「あ」


「どうした?」


「そろそろ帰らないと」


 縁之丞も時計を見る。


「もうそんな時間か」


「早かったね」


「ああ」


 朝からゲームをして。


 一緒にカレーを作って。


 昼食のあとは、並んでテレビを眺めていた。


 特別なことは何もしていない。


 それでも、気付けば一日が終わろうとしていた。


「片付けるか」


「うん」


 縁之丞はテレビを消した。


 二人はテーブルの上に置かれていたコントローラーを元の場所へ戻し、飲み終えたコップを台所へ運ぶ。


 本子は縁之丞の部屋へ戻ると、ベッドの横に置いていた鞄を手に取った。


「忘れ物ないか?」


「大丈夫」


「スマホは?」


「ある」


「財布」


「あるよ」


「ならいい」


 本子は鞄を肩へ掛けた。


「何か、お父さんみたい」


「忘れ物したら取りに戻ってくるだろ」


「すぐ隣なんだから、いつでも取りに来られるよ」


「だったら確認しなくてもよかったな」


「でも、また来る理由にはなるね」


「理由なんかなくても来るだろ」


「それもそうだね」


 本子は楽しそうに笑った。



 二人は一緒に階段を下りた。


 リビングには、買い物から戻ってきた清之丞と楓がいた。


 本子は二人へ頭を下げる。


「お邪魔しました」


「もう帰るの?」


 楓が少し残念そうに尋ねる。


「はい。そろそろ帰らないと」


「またいつでも遊びに来てね」


「ありがとうございます」


 清之丞はソファに座ったまま、軽く手を上げた。


「まあ、隣だからいつでも来られるけどな」


「そうですね」


 本子は小さく笑う。


 縁之丞はそのまま本子と一緒に玄関へ向かった。


 本子はいつものように靴を履く。


「今日は楽しかった」


「ほとんどゲームしてただけだけどな」


「料理もしたよ」


「俺は手伝っただけだろ」


「足を引っ張ってたとも言う」


「ひどいな」


「人参、大きかったもん」


「ちゃんと食べられただろ」


「私が直したからね」


 本子は笑いながら立ち上がった。


「でも、美味しかった」


「ああ」


「また作ろうね」


「今度はもう少しまともに切る」


「練習しておいて」


「一人で作れってことか?」


「私が教えてあげる」


「厳しそうだな」


「優しく教えるよ」


「今日も厳しかったけど」


「気のせい」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 本子が玄関の扉へ手を掛ける。


「また来週?」


「ああ」


「またゲームしよう」


「今度は負けない」


「望むところだよ」


「協力する方もな」


「次は絶対成功させる」


「ちゃんと回復してね」


「お前が勝手に突っ込まなければな」


「今度はちゃんと相談する」


「本当か?」


「多分」


「信用できないな」


 本子は玄関の扉を開けた。


 冷たい夕方の風が、家の中へ少しだけ入り込む。


 外へ出た本子は、扉を閉める前に振り返った。


「またね」


「ああ」


「また来週」


「来週な」


 本子は手を振り、隣に建つ鬼灯家へ向かって歩き始めた。


 霧島家と鬼灯家は、塀一枚を挟んだ隣同士。


 玄関から玄関まで、ほんの少し歩くだけだった。


 縁之丞は玄関先に立ったまま、その背中を見送る。


 本子は自宅の玄関へ着くと、もう一度振り返った。


 縁之丞がまだ立っていることに気付き、小さく手を振る。


 縁之丞も片手を上げて応えた。


 本子が家の中へ入る。


 扉が閉じたのを見届けてから、縁之丞も自分の家へ戻った。



 本子は自宅の階段を上り、自分の部屋へ入った。


 窓の向こうには、縁之丞の家が見える。


 幼い頃から毎日のように眺めてきた、見慣れた景色だった。


 今日一日を思い返す。


 ゲームをして。


 一緒にカレーを作って。


 隣に座って、何となくテレビを眺めた。


 どれも昔からしてきたことばかり。


 恋人ごっこを始めたからといって、何かが大きく変わったわけではない。


(今日も普通だったな)


 そう思う。


 けれど。


 自然と口元が緩んでいた。


「また来週か」


 週が明ければ、学校で会う。


 家を出る時間が合えば、一緒に登校するだろう。


 窓を開ければ、すぐ隣には縁之丞の家がある。


 それでも。


 次の休日に、また二人で過ごすことが楽しみだった。


 一方。


 本子を見送った縁之丞は、自分の部屋へ戻っていた。


 テレビは消えている。


 ゲーム機も片付けられ、部屋の中はすっかり静かになっていた。


 縁之丞はソファへ腰を下ろす。


 隣には誰もいない。


 ついさっきまで本子が座り、肩へ寄りかかっていた場所だった。


 普段と変わらない自分の部屋。


 それなのに。


 いつもより少しだけ広く感じた。


(今日も普通だったな)


 縁之丞も同じことを思う。


 ゲームをして。


 料理をして。


 テレビを見ただけ。


 いつもの休日と、ほとんど何も変わらない。


 ただ。


 もう少しだけ、一緒にいてもよかった。


 縁之丞は窓へ目を向ける。


 すぐ隣にある本子の部屋には、明かりがついていた。


 たった今まで一緒にいて。


 今も、ほんの少し離れた場所にいる。


 それでも。


「また来週、か」


 口にすると、不思議と少しだけ楽しみになった。


 毎日のように顔を合わせる二人にとって。


 また来週という約束は、会えない時間を埋めるものではない。


 次も二人で過ごそうと確かめ合う、小さな約束だった。

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