↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/121

第39話 お昼ご飯

 昼前。


 何度もゲームを繰り返しているうちに、二人のお腹がほとんど同時に鳴った。


「……」


「……」


 二人は顔を見合わせる。


 本子が壁の時計を確認した。


「もうこんな時間」


「ずっとゲームしてたからな」


「お腹空いた」


「昼飯どうする?」


「何か作ろうよ」


「俺が?」


「一緒に」


 本子は当然のように答えた。


「せっかくのおうちデートだし」


「一緒に料理するのも、おうちデートなのか?」


「多分」


「また多分か」


「やったことないから仕方ないでしょ」


 本子は立ち上がり、縁之丞へ手を差し出す。


「ほら、行こ」


「ああ」


 縁之丞はその手を取り、立ち上がった。



 リビングでは、清之丞と楓がテレビを見ていた。


「母さん」


「何?」


「キッチン使うぞ」


 楓が振り返る。


「あら、お昼なら私が作るわよ」


「今日はいい」


 縁之丞は隣にいる本子へ目を向けた。


「本子と一緒に作るから」


 楓は少しだけ目を丸くする。


 それから、柔らかく微笑んだ。


「そう」


「じゃあ、今日は二人にお願いしようかしら」


 清之丞もソファから二人を見る。


「ちゃんと食べられるものを作れよ」


「カレーにするつもりだから大丈夫だろ」


「まだ決めてないよ」


「カレーなら失敗しにくいだろ」


「縁之丞がいるから分からない」


「俺の信用なさすぎだろ」


 本子は小さく笑いながら、楓へ頭を下げた。


「キッチン、お借りしてもいいですか?」


「もちろん。好きに使ってね」


「ありがとうございます」


 楓は立ち上がると、バッグを手に取った。


「私たちは買い物へ行ってくるわ」


「ついでに外で食べてくるか」


 清之丞も立ち上がる。


「別に気を遣わなくてもいいぞ」


「気を遣っているわけじゃないわよ」


 楓はくすっと笑った。


「帰ってきた時に残っていたら、少し味見させてね」


「頑張ります」


「縁之丞は本子ちゃんの邪魔をしないように」


「俺も作るんだけど」


「火事だけは起こすなよ」


「起こさねえよ」


 清之丞と楓は、笑いながら玄関へ向かった。


「行ってくるわね」


「行ってらっしゃい」


「二人とも、ごゆっくり」


「親父、その言い方やめろ」


 清之丞は答えず、楽しそうに手を振る。


 玄関の扉が閉まった。


 本子は少しだけ間を置いて、縁之丞を見る。


「二人きりになったね」


「昔から何度もあるだろ」


「今日はおうちデートだから」


「言い方が変わっただけだろ」


「それが大事なの」


「そういうものか?」


「多分」


「結局分かってないじゃん」


 二人は顔を見合わせて笑った。



 キッチンへ入ると、二人は並んで冷蔵庫を開けた。


 中には肉。


 玉ねぎ。


 人参。


 じゃがいも。


 本子が中を覗き込む。


「カレーにする?」


「やっぱりカレーじゃん」


「失敗しにくそうだから」


「さっき俺が言っただろ」


「縁之丞が作ることを考えたら、安全な方がいいかなって」


「俺を何だと思ってるんだ」


「料理初心者」


「間違ってないけど」


 二人は材料を取り出し、調理台へ並べた。


 本子が玉ねぎの皮を剥く横で、縁之丞は包丁を握る。


「俺が切る」


「大丈夫?」


「馬鹿にするな」


「指も一緒に切らないでね」


「子どもじゃないんだから」


 縁之丞は人参へ包丁を入れた。


 一つ目。


 大きい。


 二つ目。


 さらに大きい。


 三つ目は、妙に細い。


 本子は玉ねぎを剥く手を止め、切られた人参を見つめた。


「大きさ、全部違うよ」


「食べれば同じだろ」


「火の通り方が変わるの」


「長く煮込めば何とかなる」


「ならない」


「なるだろ」


「大きいのが柔らかくなる頃には、小さいのが崩れるよ」


「細かいな」


「縁之丞が雑なの」


 本子は縁之丞の隣へ立った。


「もう少し小さく切って」


「これくらい?」


「まだ大きい」


「じゃあ、どれくらいだよ」


 本子は少し考えたあと、縁之丞の後ろへ回った。


 包丁を握る手へ、自分の手を重ねる。


「このくらい」


「近いって」


「横からだと見えないから仕方ないでしょ」


 本子の身体が、縁之丞の背中へ触れる。


 顔もすぐ横にあった。


 少し動けば、頬が触れそうな距離。


 けれど、本子が見ているのは人参だけだった。


「指を曲げて」


「こう?」


「そう」


「包丁は真っすぐ下ろすの」


「分かってる」


「分かってないから教えてるんでしょ」


「お前、料理になると厳しいな」


「危なっかしいから」


「お前がくっついてる方が切りにくい」


「じゃあ、一人でちゃんと切って」


 本子は手を離した。


 縁之丞は教えられた通り、もう一度包丁を入れる。


 先ほどより、少しだけ大きさの揃った人参が切れた。


「どうだ」


「うん」


 本子は満足そうに頷く。


「やればできるじゃん」


「最初からできた」


「嘘」


「少し大きかっただけだろ」


「全部ばらばらだったよ」


 二人は言い合いながら、残りの野菜も切っていった。



 鍋へ油を引き、肉と野菜を炒める。


 本子が木べらを動かし、縁之丞が横から鍋を覗き込んだ。


「もう水入れていい?」


「まだ」


「結構炒めただろ」


「玉ねぎがまだ」


「同じ色に見える」


「ちゃんと見て」


「料理って面倒だな」


「食べるのは好きなくせに」


「作るのと食べるのは別だろ」


「じゃあ、覚えて」


「何で?」


「私がいない時でも作れるように」


 何気なく言われた言葉に、縁之丞は少しだけ黙った。


「……お前、いつもいるだろ」


「毎日は来ないよ」


「それでも結構いる」


「なら、私がいる時は作ってあげようか?」


「それは助かる」


「代わりに片付けは縁之丞ね」


「やっぱり自分で作る」


「何でよ」


 本子は笑いながら鍋へ水を注いだ。


 しばらく煮込んだあと、いったん火を止めてカレールーを溶かしていく。


 ルーが溶けたのを確認すると、縁之丞が火を強くした。


「何してるの?」


「早くできるように」


「強すぎ!」


 本子が慌てて火を弱める。


「焦げるでしょ」


「沸騰させた方が早いと思って」


「料理は力技じゃないの」


「難しいな」


「普通に作ればいいの」


「その普通が分からん」


「最初はみんなそうだよ」


 本子は鍋をゆっくりとかき混ぜる。


「一緒に作れば、そのうち覚えるでしょ」


「また作るのか?」


「嫌なの?」


「別に」


「じゃあ決まり」


「何が?」


「次も一緒に作る」


 本子は楽しそうに笑った。


 縁之丞も、それ以上は何も言わなかった。


 しばらくすると、鍋からカレーの香りが漂い始める。


「いい匂い」


「ああ」


 本子は少量を小皿へ取り、スプーンですくった。


「味見して」


「本子がすればいいだろ」


「熱いの苦手」


「知ってる」


 縁之丞は差し出されたスプーンを受け取り、一口食べた。


「どう?」


「美味い」


「本当?」


「ああ」


「薄くない?」


「ちょうどいい」


 本子は安心したように笑う。


「よかった」


 縁之丞が食器棚から皿を取り出す。


 本子は炊き上がったご飯を盛り、その上へカレーをかけた。


 大きさの揃っていない人参やじゃがいもが、いかにも二人で作ったものらしい。


「完成!」


「見た目は悪くないな」


「縁之丞が切った野菜以外はね」


「まだ言うのか」


 本子は楽しそうに笑う。


 二人は完成したカレーを手に、並んで食卓へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。