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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第38話 協力プレイ

 何度か対戦を繰り返したあと。


 縁之丞はコントローラーを床へ置いた。


「疲れた」


「負けすぎて?」


「違う」


「悔しくて?」


「それも違う」


 本子は楽しそうに笑いながら、ゲームの一覧を眺める。


「次は協力するゲームにしよう」


「いいな」


「モンスターハンティングやろ」


「新作持ってるでしょ」


「もちろん」


 モンスターハンティング。


 架空の異世界で冒険者となり、巨大な魔物を狩る大人気ゲームだ。


 縁之丞はソフトを起動する。


 二人はそれぞれのキャラクターを選び、武器や防具を整えていった。


「本子、武器何にする?」


「大剣」


「扱えるのか?」


「大きくて強そうだから」


「絶対使いにくいやつだろ」


「縁之丞が助けてくれるから大丈夫」


「最初から頼るなよ」


 準備を終えると、縁之丞は床にあぐらをかいた。


 本子はその隣へ座ろうとして。


 少し考えたあと、当然のように縁之丞の足の間へ腰を下ろした。


 膝を抱えるような姿勢で、正面の画面を見つめる。


 本子の背中が、縁之丞の胸元へ触れた。


「前見にくいって」


「頑張れ」


「お前が横へ行けば見える」


「ここが一番楽」


「はいはい」


 昔から、本子はこうだった。


 座る場所がなければ隣へ。


 眠ければ肩へ。


 楽な場所を見つければ、縁之丞の都合など気にせず居座る。


 縁之丞も、今さら追い払おうとは思わなかった。



 クエストが始まった。


 二人のキャラクターが、巨大な魔物の待つ森へ降り立つ。


「いた!」


「まだ突っ込むなよ」


「先に攻撃した方が有利でしょ」


「準備してからだ」


 本子は縁之丞の忠告を聞かず、そのまま魔物へ駆け寄った。


「えいっ!」


 大剣を振り下ろす。


 しかし、攻撃はあっさり避けられた。


「外した」


「だから言っただろ」


「動くと思わなかった」


「魔物だから動くに決まってるだろ」


 巨大な尻尾が振り回される。


 本子のキャラクターが吹き飛ばされた。


「痛い!」


「本子が痛いわけじゃないだろ」


「見てるだけで痛いの」


「回復しろ」


「縁之丞がして」


「自分でやれ」


 縁之丞が魔物の注意を引きつける。


 その隙に、本子は回復薬を使った。


「右から来る!」


「分かってる!」


「避けて!」


「間に合わん!」


 今度は縁之丞のキャラクターが攻撃を受ける。


 体力が一気に減った。


「回復! 回復して!」


「今やってる!」


「あ、また来る!」


「ちょっと待て!」


 回復薬を使おうとした瞬間、魔物の突進が直撃した。


 画面いっぱいに文字が表示される。


 ――力尽きました。


「おい!」


「死んじゃったじゃん!」


「お前が横で騒ぐからだろ!」


「私のせい?」


「半分くらい」


「縁之丞が下手なだけでしょ」


「お前を助けてたんだよ」


「頼んでないよ」


「さっき助けてくれるって言っただろ」


 言い争っている間に、本子のキャラクターへ魔物が迫る。


「あ」


「避けろ!」


「どっち?」


「右!」


「右ってどっち!?」


「箸持つ方!」


「今コントローラー持ってる!」


 次の瞬間。


 本子のキャラクターも勢いよく吹き飛ばされた。


 ――クエスト失敗。


 二人は画面を見つめたまま、しばらく黙り込む。


 そして。


 ほぼ同時に吹き出した。


「あははっ!」


「全然協力できてない」


「お前が勝手に突っ込むからだろ」


「縁之丞が守ってくれないから」


「無茶言うな」


「次はちゃんと守ってね」


「まず俺の指示を聞け」


「考えておく」


「聞く気ないだろ」



 コンコン。


 扉が軽く叩かれた。


「入るわよ」


 楓が箱を持って部屋へ入ってくる。


 その後ろから、なぜか清之丞も顔をのぞかせていた。


「おやつ持ってきたわよ」


 楓が箱を開ける。


 中には色とりどりのケーキが並んでいた。


 本子の目がぱっと輝く。


「ケーキ!」


「ありがとうございます、おばさん!」


「二人で食べてね」


「どれにしよう」


「本子ちゃんの好きな苺もあるわよ」


「本当だ!」


 本子が嬉しそうに箱をのぞき込む。


 その様子を見ていた清之丞が、何度か頷いた。


「しかし――」


「何だよ」


 縁之丞が嫌そうに尋ねる。


 清之丞は二人の座っている姿を眺めた。


 本子は縁之丞の足の間。


 背中は胸元へ預けられたまま。


 縁之丞の腕も、本子を囲むような位置にある。


「もう夫婦だな」


「違うよ!」


 本子が振り返って叫んだ。


「親父、変なこと言うな」


 縁之丞も苦笑する。


 楓は二人を見て、楽しそうに微笑んだ。


「昔からずっと一緒だものね」


「軽い前祝いだな」


「何の?」


「結婚」


「しないから!」


 本子はすぐに否定する。


 清之丞は満足そうに腕を組んだ。


「そう言うわりには、随分くっついてるけどな」


「え?」


 そこで初めて、本子は自分の座っている場所を確認した。


 縁之丞の足の間。


 背中は胸元へぴったりと触れている。


「……」


 少しだけ頬が赤くなる。


 だが。


 本子はその場から動かなかった。


「これはゲームしやすいだけ!」


「俺は前が見にくいけどな」


「縁之丞は黙って」


「理不尽だろ」


 清之丞はにやりと笑う。


「まあ、仲がいいのは何よりだ」


「あなた、からかいに来たなら出ていきましょうね」


 楓が清之丞の背中を押す。


「俺はケーキを運ぶのについてきただけだぞ」


「何も持ってないじゃない」


「見守り役だ」


「必要ないわよ」


 清之丞は追い出されながら、二人へ手を振った。


「じゃあ、ごゆっくり」


「その言い方やめろ!」


 縁之丞の声を聞きながら、二人は楽しそうに部屋を出ていった。



 扉が閉まる。


 部屋に静けさが戻った。


 本子はケーキの箱を眺めながら、小さく呟く。


「夫婦だって」


「気が早すぎるだろ」


「だよね」


「ああ」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、また笑った。


 本子は縁之丞の足の間に座ったまま、コントローラーを持ち直す。


「もう一回やる?」


「ああ」


「次は絶対成功させる」


「今度は勝手に突っ込むなよ」


「縁之丞もちゃんと回復してね」


「お前が騒がなければな」


「じゃあ静かに応援する」


「それが一番信用できない」


 本子は笑いながら再戦を選んだ。


 再び、二人のキャラクターが森へ降り立つ。


 協力できているのかは分からない。


 それでも。


 失敗しても一緒に笑える相手がいることを、二人は当たり前だと思っていた。

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