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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第37話 勝負!

 二人はテレビの前へ並んで座った。


 選んだのは、昔から何度も遊んできた対戦ゲーム。


 ルールも操作方法も、互いの得意な戦い方も知り尽くしている。


 縁之丞はコントローラーを握りながら、本子を横目で見る。


「今日は手加減しないからな」


「いつも負けてる人が言う?」


「俺の方が勝ってるだろ」


「記憶を改ざんしないで」


「してない」


「してる」


 互いに譲らないまま、ゲームを開始する。


 画面の中で、二人のキャラクターが向かい合った。



 序盤は縁之丞が優勢だった。


 本子の攻撃を避け、少しずつ体力を削っていく。


「今日は調子いいな」


「まだ始まったばかりだから」


 本子は真剣な表情でコントローラーを握っていた。


 普段の穏やかな雰囲気はどこにもない。


 画面を見つめる目は、完全に勝負する者の顔だった。


 縁之丞がさらに攻撃を重ねる。


「ちょっと待って」


「待つわけないだろ」


「恋人に優しくない」


「勝負に恋人は関係ない」


「じゃあ遠慮しない」


「最初からしてないだろ」


 本子は返事をせず、コントローラーを素早く操作した。


 次の瞬間。


 縁之丞の攻撃を避け、そのまま一気に反撃へ転じる。


「おい」


 本子のキャラクターが、縁之丞のキャラクターを画面の端へ追い詰めていく。


「その技ずるいだろ」


「ゲームにずるいも何もないよ」


「さっきまで恋人に優しくしろって言ってただろ」


「それはそれ」


「都合よすぎる」


「勝てばいいの」


 縁之丞も何とか抜け出そうとする。


 しかし、本子は逃がさない。


 最後の一撃が決まった。


 画面いっぱいに勝利の文字が表示される。


 一瞬の静寂。


「……勝った!」


 本子は満面の笑みで立ち上がった。


 その勢いのまま、隣に座っていた縁之丞へ抱きつく。


「やったー!」


「うおっ!」


 突然のことに、縁之丞は体勢を崩しかけた。


 それでも本子を倒さないように、慌てて身体を支える。


「ちょっと待て!」


「今のずるいだろ!」


「負け惜しみ」


「ずっと端から動けなかったんだけど」


「縁之丞が抜け出せなかっただけでしょ」


「言うな」


 本子は縁之丞の胸元で、嬉しそうに笑っている。


 縁之丞は呆れたように息をついた。


「はしゃぎすぎ」


「だって勝ったもん」


「一回だけな」


「一回でも勝ちは勝ち」


「……しょうがないな」


 そう言いながら、縁之丞は自然に本子の肩へ腕を回した。


 本子も抱きついたまま、画面に表示された結果を眺めている。


 身体が触れていることを、どちらも気にしていなかった。


 昔から。


 勝てば抱きつき。


 負ければ文句を言い。


 そのまま次の勝負を始めてきた。


 本子がようやく腕を離し、縁之丞の隣へ座り直す。


 それでも肩は触れたままだった。


 縁之丞はコントローラーを持ち直す。


「もう一回」


「いいよ」


「今度は絶対勝つ」


「また負けると思う」


「言ったな」


「何回でも相手してあげる」


「その余裕、すぐなくしてやる」


 本子は笑いながら再戦を選んだ。


「次!」


「望むところだ」


 再び、画面の中で二人のキャラクターが向かい合う。


 おうちデートらしいことが何なのかは、まだ分からない。


 けれど。


 こうして隣で笑い合う休日なら、二人は昔からよく知っていた。

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