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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus


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第3話 ただの幼馴染

 中学生になると、縁之丞と本子は、周囲から冷やかされることが増えた。


 二人は毎日、一緒に登下校する。


 昼休みも、気づけば隣にいる。


 休日になれば、互いの家を行き来してゲームをしたり、二人で出かけたりする。


 何も知らない者から見れば、仲のよい恋人同士にしか見えなかった。


「お前ら、付き合ってるの?」


 友人から尋ねられるたび、二人は顔を見合わせて笑った。


「違う違う。幼馴染だから」


「でも、いつも一緒にいるじゃん」


「家が近いから」


「この前、手繋いでなかった?」


「人が多かったから」


「本子、霧島の飲み物を普通に飲んでたよな?」


「昔からやってるし」


「ゲームで勝った時、抱きついてなかった?」


「嬉しかったから」


「霧島も肩組んでたぞ」


「ふざけてただけ」


「お前ら、感覚おかしくない?」


 二人は揃って首を傾げた。


「そう?」


 友人は、呆れたようにため息をついた。


 けれど二人にとっては、本当にそれだけのことだった。



 ある日の昼休み。


 縁之丞と本子は、教室の後ろで机を向かい合わせて弁当を食べていた。


 本子は自分の弁当を食べながら、縁之丞の弁当をじっと見つめる。


「何だよ」


「卵焼き」


「見れば分かる」


「一つちょうだい」


「嫌だ」


「どうして?」


「最後に食べようと思ってたから」


 本子は少し考える。


 そして、縁之丞が飲み物へ手を伸ばした隙に、素早く卵焼きを取った。


「あっ!」


 本子はそのまま口へ運ぶ。


「美味しい」


「俺が最後に食べようと思ってたやつ!」


「知ってる」


「知ってて取ったのかよ!」


「うん」


 悪びれる様子のない本子に、縁之丞は眉をひそめる。


 本子は自分の弁当から煮物を一つ取り、空いた場所へ載せた。


「代わり」


「俺、これ嫌いなんだけど」


「好き嫌いはよくないよ」


「卵焼き返せ」


「もう食べた」


「じゃあ、もう一つ」


「そっちは私が食べたい」


「自分の弁当だろ!」


 二人のやり取りを見ていた友人が、呆れたように口を挟む。


「それで付き合ってないって、無理があるだろ」


「何が?」


 本子が首を傾げる。


「普通、他人の弁当から勝手に取らないだろ」


「縁之丞は他人じゃないし」


「お前も何とも思わないの?」


 友人から尋ねられ、縁之丞は煮物を口へ運びながら答える。


「今さらだろ」


「それが今さらで済む関係がおかしいって言ってるんだよ」


 本子は縁之丞の飲み物を手に取り、そのまま一口飲んだ。


「ちょっと。これ甘すぎない?」


「勝手に飲んで文句言うな」


「私の飲む?」


「飲む」


 今度は縁之丞が、本子の飲み物を受け取る。


 何のためらいもなく、同じ場所へ口をつけた。


 友人はしばらく二人を見つめた後、深く息を吐く。


「もういい。お前らには何を言っても無駄だ」


「何で怒ってるんだ?」


「さあ」


 二人は揃って首を傾げた。



 付き合っているわけではない。


 けれど、ただの友達とも少し違う。


 互いの好きな食べ物を知っている。


 縁之丞が嫌いな野菜も、本子が甘い物を食べると機嫌がよくなることも知っている。


 顔を見れば、機嫌が悪いことに気づく。


 声を聞けば、体調が悪いことも何となく分かる。


 本子が少し歩く速度を落とせば、縁之丞も何も言わず歩調を合わせた。


 縁之丞が落ち込んでいる時には、本子も理由を聞かず隣へ座った。


 人混みでは、はぐれないよう自然に手を繋ぐ。


 飲み物や食べ物を、一口もらうことにも抵抗はない。


 ゲームに勝った本子が、喜んで縁之丞へ抱きつくこともある。


 ふざけた縁之丞が、本子の肩へ腕を回すこともある。


 それでも、二人は何とも思わなかった。


 今さら意識するような関係ではない。


 会話が途切れても、何かを話さなければならないとは思わない。


 何も話さず、隣を歩いているだけでよかった。


 長い沈黙さえ、二人にとっては気まずいものではなかった。


 恋人ではない。


 兄妹でもない。


 ただの友達とも少し違う。


 それでも二人は、自分たちの関係を説明する言葉を、わざわざ探そうとはしなかった。


「幼馴染だから」


 その一言で、すべて説明できると思っていた。


 高校へ進学しても。


 大人になっても。


 きっと、今までと何も変わらない。


 二人とも、そう信じていた。


 ずっと隣にいることが、二人にとっての普通だった。


 その普通に、いつか別の名前がつくことなど。


 この時の二人は、まだ考えたこともなかった。

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