第35話 また一緒に
夜。
二人はそれぞれ家へ帰っていた。
本子は自室へ入ると、小さく息をついた。
「ただいま」
誰に言うでもない一言が、静かな部屋へ溶けていく。
机の上へ紙袋を置き、中から今日買ったぬいぐるみを取り出した。
「ここかな」
本棚の上へ置いてみる。
少し右へ。
少し左へ。
何度か位置を変え、満足そうに頷く。
「よし」
眠そうな目。
力の抜けた表情。
見れば見るほど、誰かを思い出す。
「やっぱり似てる」
本子は思わず笑ってしまう。
「寝起きの縁之丞」
そう呟くだけで、動物園で笑い合った時間が鮮やかによみがえった。
ベッドへ腰を下ろし、スマホを開く。
今日撮った写真が並ぶ。
キリン。
象。
レッサーパンダ。
ふれあい広場。
観覧車。
二人で食べた昼ご飯。
そして。
あの変な顔のぬいぐるみ。
「あはは」
また笑みがこぼれる。
今日は何度笑っただろう。
数え切れないくらい笑った気がした。
◇
一方その頃。
縁之丞も部屋へ戻っていた。
部屋着に着替え、ベッドへ腰を下ろす。
何気なくスマホを開くと、写真フォルダには今日撮った写真がずらりと並んでいた。
「撮ったな」
一枚ずつ眺めていく。
本子が動物を見て笑っている写真。
モルモットを抱いて嬉しそうに笑う写真。
観覧車から見た景色。
そして最後に映ったのは、あの不格好なぬいぐるみだった。
「……似てるか?」
しばらく見つめる。
眠そうな顔。
やる気のなさそうな表情。
朝、起こされた自分を思い出す。
「……否定できないか」
苦笑しながらスマホを閉じた。
本子、本当に楽しそうだったな。
そんなことを考えながら、部屋の天井を見上げる。
◇
二人はそれぞれベッドへ入る。
目を閉じると、今日一日の景色が自然と浮かんできた。
動物たち。
笑い声。
観覧車から見た景色。
夕焼け。
恋人らしいことは、結局よく分からなかった。
恋人ごっこは、思っていたより難しかった。
でも。
一緒に過ごした時間は、本当に楽しかった。
その気持ちだけは、迷いようがない。
別々の部屋で。
別々のベッドに横になりながら。
二人は、まったく同じことを思っていた。
(また一緒に行きたい)
その願いを胸に抱いたまま。
二人は静かに眠りについた。




