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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第31話 お昼ご飯

 園内を歩き回り、時計はちょうど昼を指していた。


「そろそろ昼飯にするか」


「うん」


 午前中だけでも、かなりの距離を歩いた。


 動物を見て笑って、写真を撮って。


 気付けばお腹も空いている。


 二人は木陰のベンチへ腰を下ろした。


 縁之丞は本子を見て言う。


「その前に」


「動物触ったから、しっかり手洗えよ」


「分かってるよ」


 本子は笑いながら立ち上がる。


「ちゃんと洗ってくる」


「ああ」


 軽く手を振り、洗い場へ向かう。


 その後ろ姿を見送りながら、縁之丞も立ち上がった。


「俺も行くか」


 手を洗い終えた二人は売店へ向かい、それぞれ好きな昼食を選ぶ。



 本子はサンドイッチ。


 縁之丞はハンバーガー。


 飲み物も買い、再びベンチへ戻った。


「いただきます」


「いただきます」


 二人はほぼ同時に食べ始める。


 本子はサンドイッチを一口。


 縁之丞はハンバーガーを頬張る。


 しばらく穏やかな時間が流れた。


 本子がちらりと縁之丞の手元を見る。


「それ、美味しそう」


「そうか?」


「うん」


 縁之丞は何の迷いもなくハンバーガーを差し出した。


「交換するか?」


「いいの?」


「ああ」


 本子もサンドイッチを差し出す。


 二人は自然な動作で交換した。


 本子が一口食べる。


「美味しい」


「肉がしっかりしてる」


「だろ?」


 今度は縁之丞がサンドイッチを食べる。


「こっちも悪くないな」


「野菜もいっぱい入ってるし」


「思ったより食べ応えある」


「でしょ?」


 本子は少し得意そうに笑った。


 互いに元へ戻し、そのまま何事もなかったように昼食を続ける。


 お菓子も。


 ジュースも。


 昔から、こうして分け合ってきた。


 だから今さら照れる理由などなかった。



 食べ終えた頃。


 本子が縁之丞の顔をじっと見つめた。


「動かないで」


「ん?」


 本子はバッグからハンカチを取り出す。


 そして縁之丞の口元へそっと手を伸ばした。


「ソース付いてる」


「あ」


 優しく拭き取る。


「はい、取れた」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 本子は微笑みながらハンカチをしまう。


 その仕草も、ごく自然だった。


 縁之丞も特に気にした様子はない。


 幼い頃から、本子は何かと世話を焼いてくれていた。


 転んで膝を擦りむけば絆創膏を貼り。


 口元に食べかすが付いていれば笑いながら拭き取る。


 そんな時間を何度も過ごしてきた。



 その近くでは、恋人らしき男女が昼食を食べていた。


「あ、あーん」


「は、恥ずかしいって」


「一口だけ!」


「分かったから……」


 照れながら口を開ける彼氏。


 嬉しそうに食べさせる彼女。


 二人は顔を真っ赤にしながら笑っている。


 本子はその様子を見て、小さく笑った。


「仲いいね」


「ああ」


「楽しそう」


「そうだな」


 縁之丞も頷く。


 恋人というのは、ああいうものなのだろう。


 二人は顔を見合わせる。


 食べ物を分け合うことも。


 口元を拭くことも。


 二人にとっては、昔からの当たり前だった。


 だから。


 周りから見れば恋人のように見えることにも、本人たちは気付いていない。


 それが特別だとは、今日も思っていなかった。

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