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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第29話 昔と同じ距離

 園内を歩く。


 本子が突然立ち止まった。


「あっ」


「どうした?」


「あれ見たい!」


 本子が指差した先には、人気者の動物がいた。


 縁之丞の腕を掴む。


「早く!」


「引っ張るな」


「逃げちゃう!」


「逃げないだろ」


 二人は笑いながら人混みの中を進んでいく。



 混雑した通路。


 人と人がすれ違い、肩が触れ合う。


 どちらからともなく。


 自然に手を繋いだ。


 何も言わない。


 人混みではぐれないように。


 幼い頃から何度も繰り返してきたことだった。


「やっぱり混んでるね」


「休日だからな」


 本子は繋いだ手を軽く揺らす。


「こうしてると安心」


「俺も」


 それ以上の会話はない。


 静かなまま歩く。


 その沈黙も、二人には心地よかった。



 一通り歩き回ると、本子が大きく伸びをした。


「歩き疲れた」


「俺も」


 ちょうど近くに売店がある。


「ソフトクリーム食べよ!」


「いいね」


 二人は売店へ向かった。


「何味にする?」


「バニラ」


「一緒」


「無難だからな」


「バニラは裏切らない」


 二人は同じバニラを受け取り、近くのベンチへ座る。


 一口。


「美味しい」


「うん」


 歩いたあとだからか、冷たさが心地よかった。


 本子は縁之丞のソフトクリームを見る。


「一口」


「いいぞ」


 本子はそのまま一口食べる。


「やっぱりこっちの方が甘い」


「同じだろ」


「気分」


「便利な言葉だな」


 今度は縁之丞が本子のソフトクリームを見る。


「俺も」


「どうぞ」


 一口食べる。


「……同じ味だ」


「気分だから」


「なるほど」


 二人は笑う。


 しばらく食べ進めていると、本子が思い出したように口を開いた。


「そういえば」


「ん?」


「恋人ってさ」


「うん」


「ソフトクリーム、一つを二人で食べたりするらしいよ」


「へえ」


「テレビで見た」


 縁之丞は少し考える。


「つまり一本を交代で?」


「そういうことみたい」


 二人は自分のソフトクリームを見る。


 そして顔を見合わせる。


「……」


「……」


 少しだけ想像してみる。


「溶けそう」


 本子が真面目な顔で言った。


「確かに」


「あと、自分の食べる分なくなりそう」


「それは困るな」


「一本ずつ買った方がお得だよね」


「俺もそう思う」


 二人は同時に頷く。


「……やめとこか」


「ああ」


 結論は一瞬だった。


 恋人らしいこと。


 それよりも。


 好きな味を、それぞれ好きなだけ食べられる方が、この二人には合っていた。



 ソフトクリームを食べ終える。


 再び園内を歩き始める。


 自然に手を繋ぐ。


 腕を引っ張る。


 飲み物を一口もらう。


 ソフトクリームを分け合う。


 どれも。


 昔から当たり前にしてきたことだった。


 恋人だからではない。


 幼馴染だから。


 本子が小さく笑う。


「やっぱ普通だね」


 縁之丞も苦笑しながら頷いた。


「ああ」


「普通だな」


 二人は顔を見合わせて笑う。


 恋人になっても。


 無理に恋人らしくなる必要はない。


 昔と同じ距離だからこそ。


 二人は今日も、一番自然に笑うことができた。

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