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ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus文庫


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第28話 キリンはでかい

 休日。


 二人は動物園の正門をくぐった。


 家族連れやカップルで賑わう園内。


 本子は入口でもらった園内マップを広げると、目を輝かせる。


「まずはキリン!」


「そんなに見たいのか?」


「見たい!」


 迷いなく指を差し、そのまま縁之丞の腕を引っ張る。


「急ぐ急ぐ!」


「逃げないだろ」


「でも早く見たいの!」


 縁之丞は苦笑しながら後をついていく。


 恋人らしく手を繋ぐでもなく。


 昔と変わらず腕を引っ張られて歩く。


 それが二人には一番自然だった。



 キリン舎。


 高い木の葉を食べるキリンが、ゆったりと歩いている。


 縁之丞は見上げながら呟いた。


「でかいな」


 本子は吹き出した。


「感想が小学生」


「でかいものは、でかい」


「間違ってないけど」


 キリンがゆっくり首を動かす。


「首長いな」


「キリンだからね」


「脚も長い」


「全部長い」


「便利そうだな」


「何が?」


「高いところ届くし」


 本子はまた笑う。


「そこ?」


「そこ」


 しばらく二人は何も話さず眺めていた。


 大きな体なのに、どこか穏やかで優しい動き。


「昔も見たよね」


 本子がぽつりと言う。


「小学生くらいだったか」


「その時も縁之丞、『でかい』って言ってた」


「そうだっけ」


「うん」


 本子はくすっと笑う。


「全然変わってない」


「本子も」


「え?」


「その時も一番最初にキリン見たいって言ってた」


 本子は少し驚いたように目を丸くする。


「覚えてたの?」


「まあ」


「意外」


「忘れるようなことでもないし」


 本子は少しだけ嬉しそうに笑った。


「また来られてよかった」


「そうだな」


 それ以上は何も言わない。


 それでも、不思議と心地よい沈黙だった。



 次は象。


 大きな体でゆっくり歩き、水を鼻で吸い上げる。


「象もでかい」


「それしか言えないの?」


「事実だ」


「もっと感想あるでしょ」


「鼻器用だな」


「急に褒め始めた」


「俺もあれくらい器用なら宿題早く終わる」


「使い方違うと思う」


 二人は笑う。


 さらに進む。


 今度はカバ。


 水辺で大きな口を開けていた。


「カバもでかい」


「もういい」


 本子は笑いながら縁之丞の肩を軽く叩く。


「全部でかいで終わるじゃん」


「実際でかい」


「認めるけど」


 ちょうどその時。


 カバが大きく口を開けた。


「うわ」


「すご」


「思ったよりでかい」


「感想更新された」


 二人は顔を見合わせて笑った。



 サル山では、子ザルたちが元気よく走り回っていた。


「見て見て!」


 本子はスマホを構える。


「かわいい!」


 夢中で写真を撮る。


 一匹の子ザルが木から木へ飛び移るたびに、


「あっ!」


「今の撮れなかった!」


「もう一回!」


 と楽しそうに声を上げる。


 その隣で縁之丞は静かに眺めていた。


「お前の方が楽しそうだな」


「楽しいもん」


 本子は笑顔で答える。


「動物園好きなんだな」


「好き」


「そういえば昔も走り回ってた」


「覚えてる?」


「迷子になりかけただろ」


「あれは迷子じゃないもん」


「職員さんに保護されてたけど」


「……あれは、一時的にはぐれただけ」


「世間では迷子って言う」


 本子は少しだけ頬を膨らませた。


「もう迷子にならないもん」


「そうか?」


「今日は縁之丞がいるし」


 当たり前のように言われて。


 縁之丞は少しだけ照れくさそうに笑う。


「それなら安心だな」



 ペンギンの前では、よちよちと歩く姿に二人で笑い。


 レッサーパンダの寝顔を見て、


「寝てる」


「気持ちよさそう」


 と、小さな声で話す。


 気が付けば、本子のスマホには動物の写真が何十枚も増えていた。


「撮りすぎじゃない?」


「あとで見返すの」


「全部見分けられる?」


「もちろん」


「俺には同じ写真に見える」


「違います」


 本子は得意げに画面を見せる。


「ほら、この子とこの子」


「……分からん」


「全然違う」


「難しい世界だ」



 一度ベンチで休憩する。


 自動販売機で買った飲み物を飲みながら、園内を歩く人たちを眺める。


「思ったより広いな」


「まだ全然回れてないよ」


 本子は園内マップを広げる。


「ほら」


 縁之丞も覗き込む。


「本当だ」


「まだ半分も回ってない」


「あと半日遊べるな」


「うん!」


 本子は嬉しそうに頷く。


「次はどこ行く?」


「本子が決めていいぞ」


「じゃあ……」


 本子は地図を見ながら少し考える。


 そして満面の笑みを浮かべた。


「まだまだ楽しもう!」


「ああ」


 二人は立ち上がる。


 今日は、まだ始まったばかり。


 いつもの二人で。


 いつもより少しだけ特別な一日を、まだまだ楽しむつもりだった。

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