第1話 幼馴染
幼馴染との距離が近すぎて、恋だと気づけない二人のお話です。
毎日一緒に登校して。
休日も遊んで。
手を繋ぐことさえ普通。
そんな二人が、突然「許嫁だった」と知らされ、恋人ごっこを始めます。
恋人らしいことをしているのに。
本人たちは、まだ恋だと思っていません。
近すぎるからこそ分からない。
けれど、離れてみれば大切さに気づく。
そんな、少しじれったくて、温かい幼馴染ラブコメをお楽しみください。
霧島縁之丞と鬼灯本子は、幼い頃から家族ぐるみで付き合ってきた幼馴染だった。
霧島家と鬼灯家。
どちらも古くから続く名家である。
霧島家は、かつて武士として名を馳せた一族。
鬼灯家は、古くから霧島家を支えてきた忍びの一族だと伝えられている。
かつて両家は主従関係にあったとも言われている。
しかし、それは表で戦う霧島家と、陰から支える鬼灯家という役割の違いを示したものにすぎない。
過去も現在も、両家に明確な上下関係はなかった。
互いの得意分野を生かし、持ちつ持たれつ。
何百年もの間、共に歩んできた協力関係だった。
その繋がりは、今も変わらず続いている。
縁之丞と本子の家は、どちらもその分家にあたる。
両親同士も昔から親しく、二人は物心がつく前から、当たり前のように一緒に育ってきた。
春には、両家揃って花見へ出かけた。
桜の木の下に敷物を広げ、大人たちが酒や料理を楽しむ中、二人は夢中になって走り回った。
夏には、家族ぐるみでバーベキューをした。
縁之丞が焼きすぎた肉を、本子の皿へ押しつける。
本子は仕返しとばかりに、縁之丞の皿へ野菜ばかりを載せた。
「肉、焦げてるんだけど」
「ちょっと香ばしいだけだろ」
「じゃあ、自分で食べれば?」
「俺の皿、野菜しかないんだけど」
「健康的でいいじゃない」
「肉を食いに来たんだよ!」
秋には、紅葉狩りへ出かけた。
山道を歩き疲れた本子を、縁之丞が途中まで背負ったこともある。
「重い?」
「別に」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあ、もう少し速く歩いて」
「降ろすぞ」
「ごめんなさい」
冬には、一緒にスキーへ行った。
本子が転びそうになれば、縁之丞が支えた。
縁之丞が勢い余って雪へ突っ込めば、本子が隣で腹を抱えて笑った。
「笑ってないで助けろよ!」
「だって、顔から突っ込むんだもん」
「わざとじゃねえよ!」
「雪だるまみたい」
「今すぐそっち行くからな!」
「来ないで!」
年末年始には、霧島一族と鬼灯一族が温泉旅館を貸し切るのが恒例だった。
本家と分家が一堂に集まり、大広間で宴会が開かれる。
一族の大人たちは酒を酌み交わし、子供たちは親戚中を回って、大量のお年玉を受け取った。
「今年、いくらもらった?」
「教えない」
「俺より多いだろ」
「日頃の行いの差じゃない?」
「絶対、親戚の数は同じだろ!」
「縁之丞は、渡したくない顔をされてたんじゃない?」
「どんな顔だよ!」
そんなやり取りも、二人にとっては毎年の風物詩だった。
互いの家へ遊びに行き、何時間もゲームをした。
小学校へ入学してからは、毎日のように一緒に登下校した。
もちろん、ずっと仲がよかったわけではない。
くだらないことで喧嘩をした。
ゲームの順番でもめた。
楽しみにしていた菓子を勝手に食べられ、数日間口を利かなかったこともある。
「俺のプリン食べただろ」
「名前書いてなかったよ」
「冷蔵庫の一番上に置いてたら、俺のだって分かるだろ!」
「知らない」
「もう絶対、口利かないからな!」
「こっちこそ」
そう言い合った翌朝。
縁之丞がいつもの待ち合わせ場所へ行くと、本子は何事もなかったように立っていた。
「遅い」
「いつもと同じ時間だろ」
「今日は私の方が早かった」
「じゃあ、行くか」
「うん」
謝罪らしい謝罪はしない。
それでも、どちらかが翌朝、いつもの場所へ現れる。
そして、何事もなかったように一緒に学校へ向かう。
それが、二人の仲直りだった。
楽しい時も。
喧嘩をした時も。
季節が変わっても。
二人はいつも、同じ場所にいた。
隣にいることを、特別だと思ったことはない。
ずっと一緒にいることが、縁之丞と本子にとっての普通だった。




