表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずっと普通だった幼馴染と、今日から恋人ごっこを始めます  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/121

第9話 好きって何?

 放課後。


 縁之丞と本子は、駅前のファミリーレストランへ来ていた。


 向かい合って座り、テーブルの上へそれぞれのスマートフォンを置く。


 二人の前には、ドリンクバーで入れてきた飲み物。


 縁之丞は炭酸飲料。


 本子はアイスティーだった。


「で」


 縁之丞がスマートフォンの画面を見つめる。


「恋愛について調べるんだよな」


「うん」


 本子も真剣な表情で頷いた。


「私たち、多分知らなさすぎるから」


「高校生で恋愛を検索から始めるの、どうなんだろうな」


「分からないまま悩むよりいいでしょ」


「まあ、それはそうか」


 二人はそれぞれスマートフォンを手に取り、検索を始める。


『恋愛として好きか分からない』


『幼馴染を好きか確認する方法』


『恋人と幼馴染の違い』


『好きな人ができた時の特徴』


 検索欄へ思いつく言葉を次々と打ち込む。


 しばらくして、本子が検索結果を読み上げた。


「『会えないと寂しいと思う』」


「毎日会ってる」


「休日も大体会うよね」


「寂しいと思う暇がないな」


「次」


 本子が画面を指で滑らせる。


「『相手に触れたいと思う』」


「普通に触ってる」


「手も繋ぐしね」


「本子から抱きついてくるし」


「ゲームに勝った時だけでしょ」


「肩に頭載せてくることもある」


「眠い時だけ」


「十分触ってるだろ」


「……確かに」


 本子は少しだけ考え込み、次の記事を開く。


「『気づけば相手のことを考えている』」


「昔から考えてる」


「どんな時?」


「本子が好きそうな菓子を見つけた時とか」


「ゲームの新作が出た時とか?」


「そうそう」


「私も、面白い動画を見つけたら縁之丞に送りたくなる」


「それって恋なのか?」


「分からない」


「参考にならないな」


 今度は縁之丞が別の記事を開く。


「『相手の写真を見返したくなる』」


「見る必要ないよね」


「目の前にいるし」


「写真も家にいっぱいあるよ」


「赤ん坊の頃からあるな」


「お互いの親が勝手に撮るから」


「じゃあ、これも駄目か」


 縁之丞が次の項目へ進む。


「『用事がなくても連絡したくなる』」


「今しゃべってる」


「学校でもしゃべるし」


「帰ってからも連絡するよね」


「今日見つけた動画とか送るからな」


「それも昔から」


「次」


「『二人きりで出かけたくなる』」


「休日はほとんど一緒だ」


「家族抜きでも普通に出かけるしね」


「じゃあ、それも判断できない」


 二人は顔を見合わせた。


「参考にならないね」


「俺たちが特殊すぎる」


「恋愛の記事って、幼馴染には使えないのかな」


「多分、普通はここまで距離近くないんだろ」


「そうかも」


 二人は揃ってため息をつく。


 恋を知るために検索したはずなのに。


 分かったのは、自分たちの距離感が普通ではないということだけだった。



 本子はアイスティーのストローを指先でくるくると回す。


 氷がグラスの中で、小さな音を立てた。


「縁之丞ってさ」


「うん?」


「誰かを好きになったことある?」


 縁之丞はすぐには答えなかった。


 炭酸飲料を一口飲み、少しだけ考える。


「多分ない」


「多分?」


「可愛いなって思った人はいる」


「へえ」


 本子の声が、わずかに低くなる。


「誰?」


「名前は覚えてない」


「同じ学校?」


「テレビに出てた人だったかも」


「何だ」


「何でちょっと安心してるんだよ」


「してないけど」


 本子は何でもないようにストローへ口をつけた。


「それで?」


「可愛いとは思ったけど、付き合いたいとは思わなかった」


「どうして?」


「知らない人だし」


「確かに」


「付き合いたいって思うのが、恋なのかな」


「多分ね」


「じゃあ、やっぱり恋したことないな」


 本子は小さく頷いた。


 少し迷った後、もう一つ尋ねる。


「告白されたことは?」


「ある」


「え、縁之丞のくせに?」


「何だよ、その言い方」


「本当に?」


「嘘ついてどうするんだよ」


「何回?」


「覚えてない」


 本子の表情が、わずかに曇る。


「何で覚えてないの?」


「全部断ったから」


「告白してくれた子に失礼じゃない?」


「名前は覚えてるよ。回数を数えてないだけ」


「何人くらい?」


「だから覚えてないって」


「三人より多い?」


「多分」


「五人より?」


「何で細かく聞くんだよ」


「気になっただけ」


 本子は不満そうに頬を膨らませた。


 縁之丞は、その理由が分からないまま首を傾げる。


「全部断ったんでしょ?」


「ああ」


「どうして?」


 縁之丞は、何でもないことのように答えた。


「付き合ったら、本子と遊ぶ時間が減りそうだったから」


 本子の動きが止まった。


 ストローを回していた指も、そのまま固まる。


「…………」


「どうした?」


「いや」


 本子は視線を逸らした。


「そういうこと、普通に言うんだ」


「何が?」


「別に」


「何で顔赤いんだよ」


「赤くない」


「店、暑い?」


「冷房ついてるよ」


「じゃあ何で?」


 本子は小さく息を吐く。


「照れるじゃん」


「何で?」


 縁之丞は本気で分かっていなかった。


 本子はしばらく縁之丞を見つめた後、諦めたように首を横へ振る。


「もういい」


「何なんだよ」


「縁之丞は、そのままでいて」


「馬鹿にしてる?」


「少しだけ」


「ひどくない?」


 本子はアイスティーを一口飲み、話を戻した。


「じゃあ、次は私の番ね」


「本子は?」


「私も、恋をしたことはないかな」


「本当に?」


「何、その疑い方」


「本子も格好いいって思った人くらいいるだろ」


「女の子ならいるよ」


「男は?」


「格好いいと思った人ならいるけど、付き合いたいとは思わなかった」


「へえ」


 今度は、縁之丞の声がわずかに低くなる。


「誰?」


「中学の時の先輩」


「剣道部?」


「違うよ」


「何部?」


「覚えてない」


「格好いいと思ったのに?」


「顔だけだったから」


「何だ」


 本子がじっと縁之丞を見る。


「縁之丞も、ちょっと安心した?」


「してない」


「ふーん」


「何だよ」


「別に」


 本子は小さく笑った。


「告白されたことは?」


「あるよ」


「え、本子のくせに?」


「それ、さっきのお返し?」


「うん」


 二人は少しだけ笑う。


「何人?」


「覚えてない」


 今度は縁之丞の表情が硬くなった。


「何で覚えてないんだよ」


「縁之丞も同じでしょ」


「まあ、そうだけど」


「全部断ったし」


「何で?」


 本子は少し考えた後、答えた。


「付き合ったら、縁之丞と遊ぶ時間が減りそうだったから」


 今度は、縁之丞が固まった。


「…………」


「どうしたの?」


「いや」


「縁之丞も顔赤いよ」


「赤くない」


「店が暑い?」


「冷房ついてる」


「じゃあ、どうして?」


 縁之丞は炭酸飲料へ手を伸ばし、一気に口へ流し込む。


「照れるじゃん」


「何で?」


 今度は、本子が不思議そうに首を傾げた。


 縁之丞は何かを言い返そうとした。


 けれど、自分も先ほど同じ反応をしたことに気づき、口を閉じる。


「……お互い様だな」


「何が?」


「何でもない」


 二人は揃って視線を逸らした。


 自分の時間を減らしてまで、誰かと付き合いたいとは思わなかった。


 けれど、互いと過ごす時間なら減らしたくない。


 それが何を意味するのか。


 二人には、まだ分からなかった。



「好きってさ」


 本子がぽつりと呟く。


「種類があるよね」


「家族として好き」


「友達として好き」


「幼馴染として好き」


「恋人として好き」


「全部、同じ『好き』だもんな」


 二人とも黙り込む。


 互いが大切な存在であることは分かっていた。


 一緒にいたい。


 離れるのは嫌だ。


 他の誰かよりも、相手のことをよく知っている。


 けれど。


 それがどの『好き』なのかは分からない。


 本子がスマートフォンを見ながら言った。


「ここに書いてある」


「何て?」


「胸がドキドキしたら、恋らしいよ」


「本子といると落ち着くけど」


「私も」


「じゃあ、恋じゃないのかな」


「でも」


 本子は首を傾げる。


「落ち着く相手と結婚する人もいるよね」


「確かに」


「一緒にいて落ち着くのも、好きってことじゃない?」


「家族といても落ち着くぞ」


「じゃあ、家族として好き?」


「でも、本子は家族じゃない」


「家族みたいなものではあるけどね」


「それだと、また最初に戻るな」


 二人は同時にため息をついた。


 考えれば考えるほど、分からなくなる。


 恋愛とは何なのか。


 恋人として好きとは、どういう感情なのか。


 どうすれば、自分たちの気持ちを確かめられるのか。


 本子はテーブルへ頬杖をつく。


「検索しても、全然分からなかったね」


「俺たちの場合、最初から距離が近すぎるんだよ」


「じゃあ、比べようがないね」


「普通の幼馴染だった頃と、恋人になった後を比べられれば分かるんだけどな」


「恋人になったことがないから、無理でしょ」


「そうなんだよな」


 縁之丞はスマートフォンをテーブルへ置いた。


 しばらく、黙って考える。


 やがて。


 何かを思いついたように顔を上げた。


「だったらさ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ