FILE004 出張 後編
旧都――かつてはこの国で隆盛を極めた場所。清濁併せ呑み巨大な生き物のように膨れ上がっていたが、見る影もなく破裂し、星の終わりのように赤く燃え尽きた。以前の輝きを取り戻そうと復興を試みる者もいれば、混沌を隠れ蓑にする者もいる。
今ここにはありとあらゆる『熱』が欠如している。影が差す死んだ街……。
「誰にも見られませんようにっと」
廃ビルと廃ビルの間、その隣棟空間にオダの転移が誰知れず完了した。大通りでも人の目は少ないが、気を付けながらスッと抜け出した。
今日の出張は飛び込み営業。商談の相手はいわゆる『半グレ』だ。そういった者の寄せ集めが廃ビルのオフィスを占拠し、くだらない小銭稼ぎが行われていることが無法地帯の旧都では珍しくない。そこに『行き場のない宝石』を売り付けに来たのだ。
「ここだ」
何の変哲もない廃ビルだが、その4Fに不法占拠されたオフィスがあるらしい。そういった情報は『あるところ』にはある。部長直属の諜報部隊が入手した情報は事前に確認して頭の中に叩き込んでおく。
オフィスの入口は金属製の重たげなドアで閉ざされていて人の気配は感じられない。ニコッと笑顔を作ってインターホンを押した。
「……はい」
「あんのぉ〜、帝都ヘブンを見てぇ〜、是非とも見ていただきたい商品があるんですけどぉ〜」
……仕方がないだろ。そういった名前のダークウェブ上でやり取りをしているらしいのだ。
「……ここがどういった場所か分かってます?」
「もちろんですぅ~。『磨けば光る』宝石を格安で取引いただければとぉ〜」
と、ニタニタしながら話すとしばらくして扉が開いた
「……どうぞ」
「失礼致しますぅ〜⤴」
オダを迎え入れた男の後ろについて歩く。狭く、しんとした閉塞感のある廊下を通って。
「私ぃ〜、こういった見通しのよくないオフィスの方が好きなんですよねぇ〜。他人の顔が見え過ぎてると働きづらいですよねぇ〜」
「ハハ……そうですね」
といったズレた冗談を披露してると、応接室に到着した。
ソファには2人の男。オダの後ろ、扉の横に控える男がもう1人。「では……」と案内人が扉を閉めた。その全員、帽子やキャップを被ってラフな格好をしている。
「本日はお足元の悪い中お越しいただきありがとうございます」
「いえいえ〜、私雨好きなんですよぉ〜」
脱帽すらせず頭を下げる男達に満面の笑みで話しかけ、立ち上がった2人に名刺を渡した。
「申し訳ない。仕事柄名刺は用意していなくて」
「いえそんなぁ〜、承知の上でございますよぉ〜」
軽々しくも腰が低いオダを見て、皆安心しきっている。それどころか少し侮った目線を向けているようにも感じた。
「それでは早速お話していただけますか?」
「はいはいは〜い、お時間は取らせませんよぉ〜」
オダは鞄から小型の合金製ケースを取り出した。錠を外し、蓋を開けるとピンクトルマリン、タンザナイト、翡翠、トパーズなんとアレキサンドライトまで、色とりどりの原石が品もなく詰め込まれていた。それを見た先方は身を乗り出して眺めている。
「お手に取っていただいて構いませんよぉ〜。純度の高い極上のものなのですが入手ルートがちょーっと薄暗くてですねぇ。でもでもぉ〜、ちょーーーっと『洗浄』して加工すれば何十倍もの値段で売れるでしょうねぇ〜」
「ご自身でされないのですか?」
「やりたいのは山々なんですけど『ルート』が無いんですよぉ〜。それなのに身の丈に合わないものを手にしてしまっていやぁ〜!参りましたっ!」
わざとらしくおでこをペシッと叩くと笑いが起きた。
「悪い話じゃないですねぇ」
「でしょでしょ〜?この緑色の石なんてデマントイドガーネットといって本当に美しいホーステールインクルージョンが見られるんですぅ〜。これを例えばブローチにして帽子なんかに着けるとぉ――」
と言いながら、オダが正面にいる男のニット帽を目にも留まらぬ速さで掠め取って原石をあてがった。
「ほらほらぁ!とーってもバエると思いませんかぁ〜?」
男達はキョトンとしている。
「……あれ?貴方、犬型獣人なのにどうしてちょんちょんと可愛らしいツノがあるんですかぁ?まるで……『オニ』みたいな」
ソファの『2対象』が即座に立ち上がると共に銃を抜く。それと同時に背後にいるドア前の『ナニカ』も素早く銃を取り出す。オダは対照的にゆっくりと、眼鏡を外しながら立ち上がった。
「どうぞやってみて下さい。既に人差し指とピストルの半分が無いのでどうやって撃つのか気になります」
「何いってやが……!!」
引き金に力を込めるとポロポロッと指と金属片が床に転がった。『コイツら』にとってその部位を『指』と呼ぶのかは知らないけれど。
「その特徴は頭部に生える突起。オニのツノ。元からツノのある鹿型獣人なんかも4本角になってブッサイクなことだな。『なりたくてこうなった』らしいが、超人的な身体能力が得られるからといってそんなもん生やしたいかね?」
現状、この『異常』について判明しているのはこれだけだ。だが、何にせよやることは変わらない。
「もう1つクソみたいな特徴があったな!このせいで警察じゃなくて俺が仕事をするハメになった!」
まさしく『またたき』であった。室内にいる3体の対象の胸辺りからじわりと赤いシミが広がって力無く倒れた。いつの間にか縦長の小さな穴が空いた扉の外からもダンと鈍い音が聞こえた。
「お前達は魂を悪魔に売った『鬼人』。人間としては扱われない。オニはオニらしく『特殊災害』として処分されろ」
死骸に囲まれたオダの右手には『禍々しい紅色の斑点』にびっしりと覆われた、惨烈なヒイラギが握られていた。
「『獣爪梅花皮』
——お前達鬼人を始末するための刃だ」




