FILE003 係長マミヤ=トクガワ 前編
「対特3課長!ニャーガ!ミッションスタート!!」
オダが電話口で喋るような余所行きの声で骨董品のような古いPCに向かって話している。手にはゲームのコントローラを持ち、まさに旧人類が嗜んでいた『配信活動』なるものをしている。
……ここはオフィスである。
オニが人心を掻き乱し引き起こした世界大戦。その詳細を旧人類に対して語ることは許されていないが、程々の影響力により過去に干渉することでそれを回避する方策は日夜考えられている。その1つがTTN(タイムトラベルネット回線)を用いた配信活動だ。
ノベルや動画のようなエンタメを提供し、人々を『楽しませる』『考えさせる』ことが、憎悪の感情を低減させる効果があるのではないかと起案された。頼りない方法だが、時空法にギリギリ抵触しない我々の精一杯だ。
オダが特殊なルートから集めたレトロゲームを嬉々として持ち込み「仕事だから」などと言いつつコントローラを握っている。20XX年代当時の技術を使いながら慎重に、かつ積極的に『任務』に取り組んでいるのだ。
今日は特段平和な1日であるため、対特3課全員でモニターを取り囲んでそれを眺めている。
「じゃあ革集めるために牛ぶっ殺します!」
普段のストレスを発散させるようにゲームをするオダの袖をちょんちょんとミミヒデが引っ張る。
「課長、お昼にピザとるから好きな味選んで下さい」
「ん?うん……えーっとぉ、これかなぁ」
パイナップルがのっているハワイアンなピザを指差す。
「いやです。なんでパイナップルのせるんですか。やだ」
「えーダメ?美味しいじゃん……じゃあこれは?」
「ピクルスしかのってないじゃないですか!?バカですか!?もうゲームしてて下さい!」
「課長ォ♡酸味ばかり欲しがってオメデタじゃないですかァ?」
ヒヒヨシに笑われたオダはキョトンとしながらお腹をさすった。
そんな様子を少し後ろから眺めている小柄の女性がいた。
マミヤ=トクガワ係長。狸型獣人の彼女は目を細めて見るととても小柄で可愛らしい女の子なのだが、オダよりもわずかに歳上で3課最年長のレディだ。
見た目に似合わないなんちゃって古語で話すのは、未成年に見られることへのささやかな抵抗。そして、氷のように冷たく鋭利な眼光をどうにか緩和させるためであり、奇妙なギャップを生んでいる。
知略に長けており、作戦の立案、密偵、謀略、工作を得意とする上、戦闘もこなす。初対面のヒヒヨシが自分の腰ほどの身長の彼女に対し「ちょうどイイ高さですねェ♡」とほざいた際、キャプテンばりのオーバーヘッドキックを股間の友達にぶちかまし配属早々病院送りにした逸話がある。
「まっこと平和なことじゃのぉ~」
仲間達がわいわいと騒ぐ様子を朗らかな表情で見守る彼女の下へ、ミミヒデが駆け寄ってきた。
「マミヤさんはピザの希望ありますか?」
「そうじゃの〜、4種類味が選べるものを何枚か頼むかの。マルゲリータと、肉のもの、若人が好きなマヨのものに……やつが欲しがっとるハワイアンなんたらも少しだけええかのう?」
「流石マミヤさん!ゲーム下手くそ妊婦とは大違いのチョイスです!」
「誰がゲーム下手くそか!!」
「あーっ!闇市でようやく見つけたプロコンに油つけんなよー!」
「クフフ……か、課長隙ありですぅ!」
「ギャース!!」
オダ、ミミヒデ、ヒヒヨシ、コンヱの4人が届いた大量のピザを食べながらゲームをしていた。まるで兄弟のようにスマッシュを撃ち込み合っている。
そんな様子をやはり後ろから眺めているマミヤの隣に、大柄な鹿型獣人の男性が静かに座った。
「(マミヤ係長……ピザとナゲットをお持ちしました……)」
ものすごく大きな身体から想像もつかないものすごく小さな声で囁く。何故か口元に金属製のマスクを着けているためさらに聞き取りづらい。
「おお、かたじけない。そちも食べとるか?」
「(いえ……ピザもアルコールも筋肉に良くないので……)」
「まだ若いんじゃから何でもたんと食べよ!……ん?アルコールじゃと?」
4馬鹿の方をよく見るとビールにワインにウイスキーにと、これでもかと並べられている。
「おぬしら!昼間にオフィスで大宴会じゃと!!何考えとる!!!うちの分はどこじゃ!!!!」
マミヤがグラスと芋焼酎の瓶をデスクの下から引っ張り出し、全員と乾杯を交わして一気に飲み干した。
「かぁーっ!!これで風邪気味の喉もスッキリ治るわい!!」
ウェーイと拍手が巻き起こる中、もう一杯をグラスに注ぎ終わった時、内線が鳴った。マミヤはハァとため息をつき、仕方なく受話器を取った。
〘対特3課に依頼です。マミヤ係長ですか?至急応接室Bに向かって下さーい〙
受話器を置いたマミヤはむーっと頬を膨らました後、ドカドカと不機嫌そうにオフィスを出た。
マミヤが応接室の扉を開けると、狐型の少女がソファに座っていた。暗い顔をして俯いていたが、マミヤを見て少し目を見開いた。
「えっ……子供……?」
「これ!れっきとしたレディじゃ!」
嗜められハッとした少女はソファから立ち上がり平謝りしているが、マミヤはそれほど気にしている様子を見せず着席を促した。
「して、どういった依頼じゃ?狸と狐っ子ではあるが遠慮なく申してみぃ」
マミヤが優しく語りかけると少女は思い出すように話し出した。
大人しく優しかった友達のことだ。
いつからかクラスメイトへの悪口がだんだんと増えていったこと。
遂には孤立し、妬みや憎悪のような感情を口に出すようになったこと。
最近はSNSでも誰彼構わず攻撃的なリプライをしていること。
涙を流しながら、すがるようにマミヤに伝えた。
「そちの話は分かった。オニが悪さしとるのならどうにかできる」
対特3課では緊急事態への対応だけでなく、依頼業務も請け負っている。オニ憑きが暴走する前に対処し、事件を未然に防げるケースが多からずとも存在し、疑惑があるものにはマミヤが対応する。空振りも多いものの、オニの根絶を最終目標として見据えた際、依頼業務の重要性は高い。
「ありがとうございます……」
「礼を言うには早い。もしこれがオニ関係なく友達の性根がねじ曲がっとるなら、周りの人間が叩き直してやらんとならん」
マミヤは少女の目を見つめる。
「そちに友達と戦う覚悟はあるか?」
「……やります。私が力になれるなら……!」
フッと笑いマミヤが立ち上がった。
「承知した!オニはうちに任せい!」




