FILE007 コンヱ=クロダ 前編
「マジお前ら早くしろよマジでぇ〜。マジヤバいんだって今日〜。てかマジヤバ道中膝栗毛〜」
異様に高いテンションで後ろ歩きをしながら喋り続けるオダ。その目線の先にやれやれといった表情で3人着いてきている。
「なんであの人は『マジ』と『ヤバ』だけで会話を試みようとしてるんですか?」
「あ、あれがオダさんの好きな『平成?』の会話方法らしいよ?多分……間違ってるだろうけど。て、てかミミ、ポッケから手出して歩きなさい!」
「コンヱ先輩と違って何もないとこでつまづいたりしないですよ」
ミミヒデから見ると、先輩でありながらちょっとおちょくってもいい人。コンヱから見ると、面倒を見てやるべきだがナメたクソガキ。
両者の関係は非常に良好。ノブニャガ的にもオールオッケー。
「ここ、こいつやっぱクソガキ!」
「まあまあ♡こけたらワタクシがだっこしてアゲルから大丈夫♡」
「ぼボ!ボボボボボバババ!!!」
コンヱは防御姿勢を取った。肩にかけている黒いコートのフードをぎゅっと顔に被せてしまうのだ。長身の彼女はこんなものじゃ隠れられないのだが、癖になっている。
モタモタしている3人にやきもきしてオダが小走りで引き返してきた。
「もー!また君達マジでヤバすぎマジサジバーツ!ホンマガチでマジのアジのフライがタルタル」
「うるさい」
オダがテンションMAX有頂天なのには理由があった。
何の変哲もない会話が交わされる休日に見えるが、同日に4人も休みが取れる機会なんて早々無い。その上、その全員が自分の趣味に付き合ってくれるなんてのも課長冥利に尽きる。さらに、最近忙しかったため、その趣味自体久々なのだ。
「皆の衆!何故心躍らんのだね!遥か遠い大昔なのに何故か感じるノスタルジー!!アナログからデジタルへ……埃と煙が漂い、人々に活気が満ちた『ワイルド』から、光と洗練が溢れる『フューチャー』へと変貌する転換点!!憧れを感じないのかね!?」
「うるさい。恥ずかしい」
『歴史探訪』。特に、平成のことは識れば識るほど心が躍る。
最初に興味を持ったのは文明の発展具合だった。オダ達の生きる2XXX年は大戦で文明が破壊され、数多のテクノロジーを失った。わずかに残ったローテクもフルに活用してなんとか生活を成り立たせている。街の風景を一部切り取れば、なんとなく平成初期を思わせる景色がそこにはある。
その共通点に『希望』を抱いているのだ。
「あー楽しみだなぁ!今日行く時代ではプロステの携帯機で何故かポコモンが遊べたらしいよ!マジヤバー」
「い、い、違法!捕まりますよ!マジで!」
彼は黎明期のコンピュータゲームを特に好んでいる。余談だが、その崇拝にも近い憧れが行き過ぎるあまり『疑似リアルタイムプレイ』という奇妙な楽しみ方をしている。
例えば、読者である旧人類の方々に置き換えると、せっかく2020年に生まれているのに、1970年に誕生したと仮定して、その20年後のハタチにようやくスーパーファミコンをプレイする。
自分が平成初期に生まれたと仮定して、その日を基準にしてリリースされたゲームのみをプレイしているのだ。
「そうだコンヱ君!この前ビビンアットマーク手に入れたよ!莫大な修理費用掛かったけど動いたよ!」
「すご!またレトロゲーいじってるんですか!?人生規模の縛りプレイでしかないですよホント……」
オタク仲間としてもったいないとは思いながらも、そういったこだわりこそがオタクの矜持なのだと。それを失ったら我々はただ『コンテンツを浪費するだけの存在』なのだと。
コンヱは自分なりに理解し、陰ながら応援している。
4人が本日訪れた施設『VRTT』。映像、音楽、文献、口伝等、多様かつ膨大な過去のデータを集約し、それを再現した仮想現実世界を体験出来る。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、ほんの少しの痛覚。制限されてはいるものの、感覚の再現もされており、その没入感は『リアル』にマジヤバい。厳密なルールにより行動は制限されているものの、課金により解決できることも多い。
「この施設、ワタクシには『健全』過ぎるんだよねェ♡」
「アバターになると『モノ』自体消失しますもんね」
「お、おトイレ行かなくてもいいからわたしはいいですけど……」
「性欲と尿意なんて現実で発散すりゃいーのよ!はよやろはよやろー?」
それぞれの下品を振り撒きながら、それぞれの体格に合う1人用のポッドに入っていった。この中で眠りに落ちるように仮想現実へログインする。
〘——ログイン完了しました。『2010年』をお楽しみ下さい〙
今日はオダの願望通り。その分奮発してベーシックプランを全員に奢った。安い金額ではないが、多忙な彼はこういうタイミングでしか金銭を使う機会がない。
明日生きてるか分からない仕事。かわいい部下のためなら何より有意義だろう。
「うおー!これが平成の大学かぁ!テーマパークに来たみたいだぜ!テンション上がるなぁ〜!」
「何回も来てるんでしょう?よく飽きませんね」
「飽きないよぉー!毎回違う発見があるしねぇ!今日はいつも通り材料物理科学とテキトーな般教受けた後学食行って1回下宿先帰って暴れまくり将軍の再放送観た後X線構造解析に出席だ!!」
「何が違う発見ですか!いつも通りなんじゃん!」
オダは浮かれながら学舎に入っていった。勉強の何がそんなに楽しいのかミミヒデには理解出来ない。乱世対策部で大卒は少数派だ。実動要員である彼らに教養なんてものは基本的に不要であり、他の業種でも同様だ。
今の時代、学を修めることに大してメリットはない。それなのにオダ課長は大学院まで出て、やりたくもない仕事をしているのだ。
「ミミ、オダさんはもうどっか行っちゃったの?」
コンヱとヒヒヨシも無事ログインし、合流した。
「はい。オッサンなのにスキップして」
「変態だよねェ♡」
この人に言われたら終わりだよ。
「みんなどこ行くのォ?ノープランなんだよねェ♡」
「ボクもです。とりあえず大学のサッカー部に交ぜてもらおっかなって」
「わ、わたしは本でも見に行こうかなって思ってます」
「んー♡コンヱちゃんに着いてこっかなァ♡」
「あわわわわわ!!」
コンヱ=クロダ。うら若き狐型獣人。花の盛りの彼女だが、今すぐにでも蕾に戻ってしまいたい。
対人恐怖症で他人と上手く話せず、周囲と連携が取れない彼女は孤立してしまい、一時期は女子寮の自室からも出られなくなってしまった。
「能力が秀でており利用価値がある」
という無神経極まりないオダの勧誘は『人間関係』というものを求めていないように感じ、当時の彼女にとって気が楽であった。今や、複雑な人間関係に雁字搦めになっていることに彼女自身気付いていない。
精密機器の扱い、ハッキング、演算能力について高く評価されている。現場で指揮を執れる者は数多くいるが、遠隔からあらゆる手段を行使して円滑にナビゲーション出来る希少な人材だ。
そんな『名軍師』が作戦に失敗し、アワアワしている。
(BL同人誌漁ろうと思ってたのにぃ〜!びみしんぼがぁ!こち亀頭がぁ!)
……彼女は趣味が悪かった。床と天井のカップリングでもイケるどころか、エログロしょうもない下ネタ何でもバッチコイなのだ。
今日は比較的ノーマルにいこうと思っていたが、それでさえヒヒヨシ様に見られるわけには……!




