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FILE006 ミミヒデ=アケチ 後編

 ——屋上にて。

 (そろそろ低層に仕掛けたものを誰か作動させるかな?熱源に気付いてたから間もなくだな。扉を開けてもガラスを破ってもドカン!それを合図に屋上の真ん中で演説だぞぉ〜。後でもう1回カンペ見とこ。警察共がてんやわんやしてる最中、華麗にハングライダーで脱出だ。ぐふふ!天才的!)

 


 バサァ!

 冷却機能付きのブランケットを剥ぎ取ると、スキンヘッドで腹が出たシロクマのオッサンが転がっていた。

 

「あ」

「おい、ぶつくさなに言ってんだ」

 オダがその膨らんだ腹を蹴り飛ばした。「ブフォッ!」と声を漏らしながら転がっていった。

 

「サーマルの感度下げたら温度の低いとこなんかバレバレなんだよオッサン。オタクの浅い浅い知識で誤魔化せると思うなよ?無線傍受して爆弾作ってなんなんだテメェは」

 男はふらふらと立ち上がった。案外タフだ。痛みを誤魔化すようにしゃあっ、と気合いを入れて立ち上がった。

 

「ぐっ……!よくぞ聞いてくれた!私はアーティスティックボマー!芸術的な爆弾をこの腐敗した世界に落とすために生まれてきた男だ!」

 ……どうリアクションすれば良いのだろうか。あまりにも熱量に差がありすぎる。


 硬直するオダとカダカツであったが、ただ1人、拡声器を片手に仁王立ちする者がいた。

 

「いい歳してなにやってんだよオッサン!腐敗してんのはお前の頭だろ!アーティスティックボマーの母ちゃん泣いてるぞー!」

「いや、いい、いい。あれ多分オニ憑きじゃないから」

 オダがミミヒデの両肩を抑えて止めた。なんだか気の毒に思えたから。

 

 アーティスティックボマー、縮めてアーボは、スキンヘッドを真っ赤にして震えていた。泣いちゃった!?

「クソッ!当初の計画と全然違うがもういい!これでもくらえ!」 

 そう叫びながらサッカーボールを取り出した。

 

「おお、オッサンサッカーするの?ボクもやるよ?」

「違う!これは爆弾だ!外部からどんなシュートを食らっても誤作動せず、定刻通りに起爆することをコンセプトにした芸術的爆弾!10分後に起爆するようにセットした!本当は憎っくき陽キャスポーツを台無しにするために創ったんだがここで咲かせてやろう!」

 

 そう叫ぶと、人差し指の先でボールをくるくると回した。

「器用なものだろう?爆弾を扱うには繊細で美しい指が必要なんだ」

 アーボの言葉を聞いたオダは何故か急に興奮しだした。

 

「あっ!オッサンあれでしょ!『金属歯車個体2ソンズオブバビディ』の真似してるんでしょ?2001年に発売されたゲームのことよく知ってんねぇ!」

「?何言ってんだ?そんな太古のこと知らねえよ?とにかく、この爆弾は半径50mを跡形もなく吹き飛ばす!爆破されたくなければお前らが処理しろ!」

「ほら!金属歯車の台詞真似してるよ!」 

 アーボは怒り狂って叫びながらオダにボールを投げた。

 

「(こんなもの放っておいて逃げれば良いのでは?)」

「さっすがカダカっちゃん。クレバー♪」

 

 そんなことを話していると、何というタイミングでしょう。タワーの下の方から爆発音が聞こえた。それと同時に登ってきた階段も爆音とともに吹き飛んだ。「なんだあっ」と電源を切っていた無線のつまみをひねる。

 

「おい!何があった!」

〘あっあっ!繋がった!他の課が独断で11階に強行突入するためにヘリからランチャーを撃ち込んだみたいでふ!!それに連動するようにタワーの各所で爆発が起きましたァ!!だ、大丈夫ですか!?〙

 

 なんてことだ。無線でさえ確実な情報伝達は難しい。それを介さない連絡なら尚更だ。伝言ゲームがどこかで途切れてしまったのだろう。

 

「おいオッサン!なんで階段吹き飛ばしたぁ!帰れねえじゃねえかぁ!!」

「うるさいよ!プランがあったの!時間稼ぎたかったの!台無しだよバーカ!……まあいいさ、俺はこのハングライダーで逃げるからな!」

 

 アーボはコートの下に隠していたリュックの紐を引っ張った。すると、バキバキに折れたガラクタがブルンっと放出された。

「あれぇ?壊れてるぅ?」

「課長が蹴った時に壊れたんじゃないですか?」

「まーた俺のせいかぁ」

 

 アーボの顔がみるみるうちに青ざめていく。

「あぁ〜〜〜!!どうしよう!逃げられなくなっちゃったよぉ〜〜〜!!」

「落ち着けよオッサン!爆弾解除すればいいだろうが!カダカツとミミヒデとコンヱは脱出経路探してくれぇ!」

「あぁ、あぁ、そうだな。そうだ……みんなで脱出しよう……」

 

 アーボはガタガタと震える手で工具を出し、サッカーボールの五角形の革を1枚ガタガタと震えながら外す。ガタガタガタガタガタガタ……

「手が震えてコードが切れないぃ〜〜〜」

「何言うてんねんブス!!俺がやるから貸し!!」

 

 オダも冷静さを失って口が悪くなっている。

「赤と青どっち切るん!」

「あああ、あああああ、ああ」

「どっちなんよ!はよ言え!!!」

「赤!赤切れ!!」

 

 その刹那、極限状態にある灰色の脳細胞がフル活性する。


 こいつはテロを企てる凶悪犯……。


 爆弾に異常な執着を持っている……。


 そして、俺と同じ『レトロ好き』だ……。


 そうか分かったぞ!

 

 オダは青のコードを切った。

 

 6分強あった猶予が、残り1分になってしまった。

 

「なんでだよぉおおおおお!!!」

「だって切りたくなかったんだもん!!赤い糸は新一と繋がってるかもしれないでしょうがぁ!!!」

 アーボとオダはパニック状態で号泣している。

 

「もう外にぶん投げよう!!コンヱぇえええええ!!!総員に退避命令ぃいいいいいい!!!」

 叫びながらオダはボールを斜め上にぶん投げた。つもりだった。


 手を離れたボールは勢いよく地面に打ち付けられ、落下防止フェンスに当たり、大きく跳ね上がった後足元に戻ってきた。

「俺球技のセンス絶望的だったんだァアアア!!!」

 

 オダは膝から崩れ落ちた。残り20秒、万事休すか。こんな情けない死に様なんてなぁ。地獄で部長にミンチにされそうだ。死ぬ前にあそこの焼鳥食べたかったなぁ。

「……オダ課長。試合はまだ終わってませんよ」

 

 さあ、今回の主役ミミヒデ選手が華麗な足さばきでオダ選手の足元からボールを掠め取りました!至って冷静にタイムを確認!

 残り12秒!両足でボールを挟み込み宙に浮かべリフティングを始めた!

 残り11秒!奇妙な冒険を彷彿とさせるような秒刻みの実況の中華麗にテクニックを魅せつける!

 残り10秒!空中を踊るボールに表示される残り時間は常にミミヒデ選手の方に向けられています!

 残り9秒!おーっと!熱く見つめ合い相思相愛かと思われたボールを斜め45度に蹴り飛ばしたぁ!!!

 残り8秒!大きな大きな弧を描いてまるで虹が架かるようだ!

 残り7秒!おっとオダ選手!ミミヒデ選手を押し倒し覆い被さった!

 残り6秒!解説のコンヱさん!カダカツ選手!そしてその場にいる全員がはるか上空を飛ぶ日本の八咫烏を見守っているぅ!!!

 

 5……4……3……2……1……

 

 大阪商業区域の上空、弧を描いたボールはそのてっぺんで弾け飛んだ。夜空に咲く大輪の花は……そう綺麗でもなかった。爆風と爆弾の破片がもう降りかかってこないことを確認すると、オダは身体を起こした。すると、本日のMVPがピースサインをしていた。

 

「イエーイ。勝利のV!」

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