FILE006 ミミヒデ=アケチ 前編
〘LEVEL 5 LEVEL 5 緊急事態発生。大阪商業区域にてオニ憑きがテロを実行しウエストピースタワーの一部を爆破。実行犯の構成は不明。現状被害は小規模であるもののさらなる破壊活動を行うとの犯行声明あり。乱世対策部総員に命令、総力を以て速やかに対処せよ。LEVEL 5 LEVEL 5 ――〙
日曜日の夜。日本最大の商業区域は混乱を極めていた。最大級の高さを誇るオフィスタワーの一部が破壊され、黒煙が吐き出されている。鳴り止まぬ非常ベルと警察車両のサイレン。そして人々の阿鼻叫喚。幸い、日曜日のため休日としている企業が多く、平日より人は少ないが、ここは通称『眠れない街』。安息日なぞお構いなしの人間も多い。
「コンヱ君!聞こえるか!大阪商業区域に到着した!俺と、同行しているカダカツとミミのオペレーションを優先し、マミヤさんとヒヒヨシも到着次第作戦に組み入れてくれ!部長や他の課との連携も常時行い、任務完遂の期待値が高いプランを適宜提案せよ!頼むぞ!」
いつもと違い、緊迫した声色でオダが指示を出す。LEVEL 5とは『オニ憑きにより多数の人命が脅かされることが危惧される緊急事態』である。
〘はいぃ!!部長が用意した作戦参謀室に合流いたひまひたぁ!!全力でナビゲヒャアいたひま!!!〙
「ハハハ!緊張がほぐれるよ」
3人はマミヤから送られてきた指示通りに進んだ。逃げ惑う人々で騒然とするルートは避けられており、裏路地を猛スピードで走り抜ける。走る、走る、駆け上がる、登る、蹴り飛ばす、登る。タワーが正面に見えた。が、ここは……。
「タワー横のオフィスビルの屋上に出ましたね。ルートは……直進?」
「あいつが直進と言ったら直進だ。カダカツ、いけるか?」
「(……イメージを下さい)」
「強化ガラスは通常のガラスの4倍ほどの強度だ。目標地点は3階と低階層だから厚さは10mmほどかな?これが2枚あるかもしれない。一番の問題は、この手のガラスは破壊時の飛散防止のために中間膜があり、伸びて粘るということだ。よって、狙うべきは僅かに見えるフレーム部分、狙いが外れたなら割れたガラス面をショルダーで押し込め。こちらの方が10mほど高いから位置エネルギーを利用しろ」
物静かな大男は一層静かになろうとしているように、目を閉じて微塵も動かず聴いていた。
「(承知しました)」
カダカツは屋上のへりにある金属製の柵を3枚いとも簡単に引き剥がした。そのうち1枚を自分の肩のラインに合わせてへし曲げ、簡易的なシールドを作り、同じものをオダにも手渡す。
「え……え……?」
ミミヒデがキョトンとしていると、もふっとフルフェイスヘルメットを被せられ、グローブをその上に載せられた。移動の際、オダがどこかから3セットくすねてきたらしい。
「俺は赤ね。カダカツも被りな」
「(痛み入ります)」
「え……え!?」
カダカツとオダは不格好なシールドを握り込んだまま、ビルの端でクラウチングしている。ミミヒデはその様子を呆然と眺めていた。
「(ミミヒデ坊っちゃん。後から着いてきて下さい)」
そう言い残し、道路を挟んだ先にあるビルに向かって2人同時にスタートを切ってしまった。ようやく状況が飲み込めたミミヒデは向こう見ずな作戦に「もぉ〜!!」と足をダンダン鳴らしてからその後ろを追いかける。前を走る2人は何の躊躇いもなくビルの屋上から飛び出した。
ウエストピースタワー3階、誰もいないオフィス。外の喧騒と対照的にシンと静まり返る空間、今その静寂が破られる。けたたましい音と共にガラス片の津波が倒れ込んでくると、それに乗るように黒い影が飛び込んできた。
エントリーNo.1 ノブニャガ=オダ。猫型。身長185cm、体重はヒ・ミ・ツ。ヒョロヒョロのボディからは想像がつかない怪力を有している。
エントリーNo.2 カダカツ=ホンダ。鹿型。身長バカでかい、体重バカ重い。強化ガラスを引き剥がしたのは7割方この男の功績だ。
エントリーNo.3 ミミヒデ=アケチ。兎型。身長こぢんまり、体重軽すぎ。好きなものはサッカーとプリン。対特3課の最年少は今日も常識を覆されているぞ!
全員完璧な着地を決めた。ガラス片による怪我も最小限。コンヱのルート設計はメンバーそれぞれの特性を加味した完璧なものだったのだろう。
「いやそんなわけないでしょ。こんなん非現実的ですよ」
「でもいけたじゃーん」
その時、コンヱから通信が入る。
〘オダさん!ホンダさん!ミミヒデ!ビルに無事到着しまひたか!?未だテロ実行犯の所在は掴めていませんが、ビルの11階に1つだけ不規則に動く熱源があります!マップ情報を更新したので注意して調査してください!〙
「了解!」
〘そ、それと!爆発があった7階で民間人およそ20名が閉じ込められているみたいです!ロビーの混乱が収まり次第警察が救助に向かうとのことです!〙
「あいよ!人でごった返す前にさっさと目標地点へ向かうぞ!」
階段を全速力で11階まで。流石に息が上がる。カダカツも金属製のマスクからコォーッ……コォーッ……といつもより大きな呼吸音が漏れ出ている。
「それ外したらぁ?かぶれたりしない?」
「(いえ、お構いなく)」
「ハァ……ハァ……どこで買ったんですか?それ」
「(ジムですよ)」
「どんなジムなんですかそれ」
先輩も上司も変わり者ばっかりだ。
そんなことを話しながら調息し、いざ目標地点前に向かう。姿勢を低く保ち、足音を殺してゆっくりと近付く。扉の奥からは人の気配がしない。
「課長、異常ですよ。ボクの耳でも何も聴こえません」
「ふむ」
オダは無言で無線装置の電源を切った。部下2人にもそうするようジェスチャーで指示する。そして、通信端末でコンヱに電話をかけた。
「もしもしコンヱ君。え?何?なんで電話だと緊張するの?おもろ。あのさ、お相手は『サーマル』のこと理解してるみたいだわ。そう……。そう……。あ、あった?屋上に1つ?だっる。無線切ったまま向かうわ。はーい」ピッ
「……カダカツ君、これから君の大好きなトレーニングの時間です。ミミヒデ君もレッツブートキャンプ……」




