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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第三章 風の国編

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第94話 モノクロ ―白黒―

 

 風の都ヴェントから離れた郊外。

 

人里離れた森の奥――獣道を抜けた先に、それはあった。


「ねぇ~。ナギってばーまだなの?」


「……確かに。ずいぶん歩いたな。なぁハク、まだなのか?」


 白い髪を翻しながら彼はこちらを見ることなく答える。思ったより隠し事はしないタイプのようだ。こちらの質問には割と素直に回答してくれる。


「俺もここに来るのは久しぶりだからな。……たしかこの辺りだったはずだ」


 退屈になって魔封剣から飛び出て実体化していたリルはハクの目の前にひらひらと飛んでいく。


「……目の前に来るな」


「じー」


「……」


 ハクとリルが絶妙な距離感で向かい合っている。


「セレスティア様やナギに聞いたときは疑ったけどホントにナギと瓜二つだよねー! 髪型と恰好を入れ替えたら全然わかんないよ!


 リルは無邪気に俺とハクを見比べている。


「……おい。黒瀬凪(くろせなぎ)、コイツをどうにかしろ」


「やだー、ワルぶっちゃって可愛いんだからぁ! 愛しの妹ちゃんを助けにいく優しいお兄ちゃんのクセに!」


 ハクが腰の魔壊剣(まかいけん)の柄に手をかけるとリルは俺の魔封剣(まふうけん)の中に入っていった。


『すぐムキになるとこなんかはナギそっくり!』


(あんまりアイツを茶化すなよリル)


 雑草と苔に覆われた石造りの(ほこら)

 崩れかけた石の屋根、祈りの名残を留める石像。


 一見するとただの廃墟だが、空気だけが異質だった。


「ここが目的地かハク?」


「あぁ。あの中には太古の大昔に《風の神子》と呼ばれる者達が使っていたと言われる、転移装置がある。それを使ってゼロが普段身をひそめるのに使っている廃神殿でいく」


「転移装置ってそんな昔に存在したのか?」


 彼はうなずく。

「あぁ。トウマが再現した転移装置とは原理が違うらしいがな。現代でも再現不可能なオーパーツとのことだ」

 そうハクが静かに言った。

 彼の白い外套が風に揺れ、彼の視線が苔むした奥の扉へ向けられる。


 俺達はその扉の目の前まで移動した。


 ハクは続ける。

「神殿へ行くための特殊な転移装置には多くの魔力が必要になる」


「ゼロがお前を誘ったって言ってたよな。ってことは……」


「あぁ。ヤツはこのヴェントという国の随所にある風車で生まれる魔力の一部を盗んで、この転移装置の稼働に利用しているんだ」


 ハクが扉に手をかけた。

 軋む音とともに、石扉がわずかに開く。


 外から差し込んだ光の光線が、内部の(ほこり)を照らす。


 その奥に――


 魔法陣が刻まれた巨大な転移装置が、光を放っていた。


『うわ……こんな森の中に、こんなのがあったんだ……!』

 魔封剣の中から、リルがひょいと姿を現す。


「ナギ。ついでにハク! すごい魔力が充填されてるよ」


「誰がついでだ。……ゼロが俺たちを招いたんだから当然だろう。つまり、ヤツの準備も整ってるということだ」


 ハクが言い、魔法陣の中央の祭壇の手前に立つ。


「……行くぞ、黒瀬凪。それと、うるさい妖精(ようせい)


「あぁ」

「ムカー!」


 俺は剣を握り直す。

「レイを取り戻す!」


 転移装置が強く輝いた。


 空間が歪み、足元から風が渦を巻く――


 瞬間、俺たちの身体は光に包まれ、空へと吸い込まれていった。




 * * *



 眩い光の粒子が弾け、意識がふっと浮かぶような感覚に包まれた。

 そして次の瞬間――足元の感触が変わった。


 俺たちは転移していた。


「……ここが、空中神殿……」

「そう、ファル=セリオンだ」


 見渡す限り、空と雲。


 俺たちが立っているのは、風化し、ひび割れた石畳が広がる巨大な遺跡だった。

 いくつもの崩れかけた柱と、かつて祈りの場だったと思しき祭壇跡。

 古の建築物の名残が、まるで空に浮かぶ島のように広がっている。


 遥か下――霞むような大気の向こうに、風の国ヴェントの街並みが小さく見えた。

 風車が点在し、川と緑が交差するその景色は、まるで箱庭のようだ。


 すぅ、と風が吹き抜けた。


 ざわり、ざわりと風が柱の隙間をすり抜け、耳元で低く唸る。

 まるで、ここがまだ“生きている”とでも言わんばかりに。


「う、うわ……た、高っ……」


 思わず、俺は一歩引いた。

 足元を見下ろすと、雲の切れ間から底知れぬ空の青が覗いていた。

 その深さと浮遊感に、背筋がじわりと冷える。


『ナギ、顔が青いよ?』


「いや、まぁ、俺……高いところ、ちょっと苦手なんだよ……!」


 リルに茶化されながらも、なんとか気を落ち着けて、石畳の先を見る。

 足元の魔法陣は静かにその光を消し、代わりに風のざわめきが空間を支配していた。


 ハクはそんな俺達を見ると、ため息をついて歩き出す。


「立ち止まっている暇はない。ゼロはこの先で待っているはずだ」


「ああ、わかってるよ……」


(アイツも俺と同じように高い所は苦手なはずなんだけどな)


 俺も彼の後に続く。


 踏みしめるたびに石畳がざり、と乾いた音を立てる。


 廃墟となった神殿は静まり返り、どこか寂しげな空気が漂っていた。

 割れた石柱、朽ちた壁画、崩落した階段――


 そこには、かつてここが栄えていたという痕跡が、微かに残されている。


 まるで時間だけがこの空の上に置き去りにされているかのようだ。


「ここ……人の気配が全然ないな」


「当然だ。太古の昔に現れた魔龍によってこのファル=セリオンの文明は滅びたんだ」


 ハクの言葉に、俺は背筋がひやりとするのを感じた。


 石畳を踏みしめ、崩れた柱の間を抜けていくと――広場のような開けた空間に出た。


 そして、そこで俺たちは“彼女”を見つけた。


「――レイ……!」


 広場の中心。黒い魔法陣で造られた檻の中に、レイが浮かんでいた。


 彼女は目を閉じ、黒い鎖のような力に包まれている。そして、まるで重力を失ったかのように宙に浮き、まるで“眠る人形”のようだった。


『まって二人とも! あれ、ただ黒い力で拘束されているんじゃないよ……!!』


「そういうことだリル!?」


 リルが魔封剣から飛び出して叫ぶ。

「ホントに徐々にだけど、あの黒い鎖みたいなものが徐々にあのレイって子を強く縛り上げていってる! ……このままだと――」


「レイ……!」

 思わず駆け寄ろうとした俺を、ハクが腕で制止した。


「待て、下手に近づくな。あれは――術者を直接叩かないと解除できないものだ」


「でも、このままじゃ――!」


 焦りと怒りが胸に湧く。


 再会したもう一人の“妹”は、声も表情もなく、ただ静かに捕らわれていた。

 その姿に、俺は強く拳を握りしめた。


 必ず、助ける。今度こそ、何があっても。

☆今回の一言メモ☆

リルという存在が、凪とハクが持っている共通点というか同一性を引き出しているように思います。

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