↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
牡羊座の優等星

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/108

牡羊座の優等星⑦

「ところで、何があったんだ?」


ディケヤミィとの運命的な出会いで、すっかり頭の片隅に追いやっていた疑問が、ようやく口をついて出た。


彼女は社殿の奥から紅い蝶々と共に、光の柱の中で現れた。

確かにあの紅い蝶の舞う様子は幻想的で美しいし、目の前の女の子は可愛くてとても魅力的だ。

だが、いくら女の子と蝶の組み合わせが絵になるからといって、派手な美少女とこの廃れた社殿と血のような紅く不気味な蝶々は、明らかに不自然過ぎる。


俺が質問すると、ディケヤミィは"聞いて聞いて!"と言わんばかりに、両手を握り拳にし、肘を曲げた状態で前後に小さく上下に振る。

可愛らしい動作なのに、タイトなミニスカートの裾が揺れ、黄金のお玉が軽く光を反射する様子が、下手な色仕掛けに見えた。


ふと、冒険時代を思い出す。

幼く甘い声で俺に擦り寄って来た可愛い女の子が、世界を侵略する悪の魔女ユユルルだった事を。


今まで楽しく話をして共に戦ったのに、最終局面で突然俺達を裏切って襲い掛かって来たサーシャの事を。


今思えば俺は、ユユルルからも、サーシャからも、幻子からも、ミーシャからにも騙されたのか。

本当に俺の旅って、一体何だったんだろうか…。


「何って選挙(せんきょ)に落選しちゃったのよ〜!」


「選挙?」


俺は眉を寄せた。


ディケヤミィの明るい声が霧の中に弾けるように響くが、その内容は何故か嫌な気分にさせる。


「我々星徒達のリーダーである星徒界長を決める闘いの事ですよ。尤も、星徒界長は最初から最期まで決められているので無意味な事ですが。」


スズスナが薄ら笑いを浮かべたまま、丁寧に答える。

そのワインレッドの細い瞳が、社殿の淡い光を吸い込んで不気味に輝かせ、場所に溶け込まない違和感を強調している。


「ワタクシハ、先日ノ選挙デ能力ヲ封ジラレ、再生出来ズニ落選シマシタ。」


イメドダが鎖を小さくカチャリと鳴らしながら呟く。

長い緑のロール髪が地面を這い、黄金の触角から青白い火花がチリチリと散る。

無機質な声の中に、かすかな屈辱と諦めが滲んでいた。


「お恥ずかしい話ですが私も、護衛の身でありながら選挙になると得意の弓を射るのが困難になりまして……。」


ルパヴェンは白い翼を模した弓を両手で握り締め、肩をすくめる。

小柄な体が更に縮こまり、白いマッシュルームヘアと羽が寂しげに揺れた。


"選挙"か……。

俺が魔女達を相手に血と泥にまみれて戦っていた“占局”とは呼び名は違うが、内容は似ているようだ。


2人は能力に制限をかけられたせいで敗北したようだが、恐らくゲンソウ町みたいにこの最果ての地とは別の場所で、力では無く何らかのルールやシステムが全てを支配しているのかもしれない。


紅い鳥居の列、封じられた能力、選挙——全てがゲンソウ町での出来事と繋がっている気がして、胸の奥が重く淀む。


「星徒の私達だと互角だから……でも、ユーシャ君は有家名だから、星徒相手なら絶対に負けない!」


ディケヤミィが目を輝かせて言うと、イメドダも小さく頷いた。


「ユーシャ様ハ、無敵ノ人、デスカラ。」


おいおい、"無敵の人"って……聞こえが悪いぞ。

確かに今の俺には失う物が失くなって、自暴自棄になりたくなりそうだけど、まだ理性は保てているつもりだ。


星徒ってよく分からないが、その星徒は有家名だと呼ばれる俺より弱いという事か。


つまり、俺の力が必要だと……。


気掛かりなのは、目の前に居る彼女達はその選挙という争いに次々と落選し、この霧と紅い鳥居に囲まれた最果ての地に集められた。


幻子が仕組んだであろう大きな流れの中で、俺はまた“利用される側”に立たされているのだろうか。

胸の奥で、激しい葛藤が渦巻いた。


ミーシャを取り戻したいという希望と、これは新たな罠ではないかという疑念が、激しくぶつかり合う。


俺は本当に世界を救ったのか? 

それとも最初から、幻子の掌の上で踊らされていただけの存在なのか。


虚無感が再び胸を締め付け、息苦しさが募る。

指先が冷たく痺れ、革のブーツの中で足の裏が湿った地面に沈む感触が、妙に現実的に感じられた。


成る程。

大体話が分かったぜ——そう自分に言い聞かせるが、心の底では確信など持てていない。


ただ、目の前の少女達と奇妙な男達の視線が、俺に何かを期待している事だけは、ハッキリと伝わってきた。


まるで俺が便利な道具か、切り札のように扱われている気がして、むず痒い違和感が背中を這い上がる。

が、決して悪い気はしない。


霧がゆっくりと社殿の周りを回り、紅い鳥居の朱が淡く滲む。

遠くで波の音が規則正しく響き、まるでこの世界が息を潜めて俺の答えを待っているかのようだった。


俺はマントの端を強く握り締め、唇を噛んだ。


ここから先、何が待っているのか——希望か、更なる絶望か、まだ誰にも分からない。


——だが、今の俺に出来る事は限られている。


正に今、この最果ての地で、紅い鳥居に囲まれ、霧に閉ざされた廃社の中で、見知らぬ者達の視線が一斉に俺に注がれている。


遅くこの場に居る全員が、ミーシャを取り戻したいという一縷の希望だけが、虚無の底でかすかに灯っているのかもしれない。


「……分かったよ。」


俺が小さく頷くと、彼女達は安堵の息を漏らし、お互いの顔を見合わせた。

その瞬間、フッと場が空気が変わった。


ディケヤミィはイメドダの手を掴むと、ピョンピョンと元気よく飛び跳ねる。

金色のポニーテールが大きく揺れ、黄金のお玉が光を反射してキラキラと弧を描いた。

ミニスカートの裾が翻り、白いマントがふわりと舞う姿は、この廃れた社殿に不釣り合いなほど可愛らしく、生き生きとしていた。


イメドダは鎖をカチャカチャ鳴らしながらも、わずかに口元を緩め、青白い火花を散らす触角が小さく震えていた。

無機質ながらもどこかヒトらしさを感じさせ、一層美しく映える。


一方、スズスナは俯いて肩を震わせているルパヴェンの肩を抱き寄せ、優しく背中を擦る。

先程まで胡散臭く吊り上げていた口角は丸くなり、不気味な雰囲気を漂わせていたワインレッドの瞳には柔らかい光が宿っていた。


白い羽のルパヴェンは、まるで張りつめていた糸が切れたように、安心した様子で小さく嗚咽を漏らしている。


本当に、俺の登場を待ち侘びていたんだ……。


何だか、昔、魔物を討伐するために訪れた町で、村人たちに期待と希望の眼差しを向けられた頃を思い出す。

結果的に騙されたとはいえあの頃の俺はまだ冴えない男だったのに、仲間たちと共に戦い、笑い、傷付きながらも前を向き続ける事が出来た。


この新たな"町"で、再び第二の勇者を始めるのも、悪くないかもしれない——


そんな淡い期待が、胸の虚無の穴をわずかに埋める気がした。


「という訳で、ユーシャ君、蝶想幻子(ちょうそうまぼろし)になって!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。