幕間 水と油
神界。
女神コモン=サモンは、水晶玉を眺めていた。
そこに映っているのは……。
「……ちょっと失礼なただのアザラシなのよね……」
魚を食べる。
泳ぐ。
寝る。
少し前まで、魔王が海へ通っていた。
四天王も海へ行った。
勇者は敵兵を倒しながら、なぜか癒していた。
そして今度は、王と魔王が歩み寄り始めた。
「……どうしてこうなったの?」
コモンは水晶玉を見る。
「人間と魔族は、長きに渡りずっと争ってきた」
どちらかが悪いわけではない。
どちらも、自分たちの暮らしを守ろうとしていた。
ただ。
人間と魔族は違った。
生き方も。
文化も。
考え方も。
「水と油みたいなもの、なのかな……」
コモンは少し考えた。
「混ざらないものは、混ざらない」
水晶玉の中。
アザラシが魚を食べていた。
「……でも」
コモンは首を傾げた。
「世の中には……乳化なんてものもあるのよね」
水と油。
本来なら混ざり合わない二つの物質。
それでも、何かをきっかけに。
境目が曖昧になって。
一緒にいられるものもある。
「……アザラシって、何なの?」
コモンは水晶玉を見つめる。
魔王の隣で眠るアザラシ。
四天王に囲まれても眠るアザラシ。
王と魔王が話し合う、そのずっと前から。
ただ海で暮らしていた。
「……何もしてないくせに」
少し笑う。
「……なにか足りないくらいが、もっと欲しくなるやつだもんね」
コモンは水晶玉から目を離した。
「さて……」
人間と魔族は、これからどうなるのか。
それは、まだ分からない。
ただ。
少しだけ。
何かが変わり始めている気がした。
海では。
アザラシが寝ている。
「……」
寝ている。
本当に、それだけだった。




