第七章 王と魔王と魚の話
人間領。
ネコ=サンは一人、城外を歩いていた。
東部戦線の報告を受けてから、数日。
戦闘は減っている。
だが、終わったわけではない。
「……」
ネコ=サンは足を止めた。
「王よ!!」
「魔族領より使者が来ています!!」
兵士が慌てて駆け寄ってくる。
「……使者?」
「誰だ?」
「……魔王です……」
「……魔王……だと?」
ネコ=サンは少し考えた。
「どうやって城まで辿り着いたというのだ……」
「……一人か?」
「はい、見たところ」
「分かった……通せ」
しばらくして。
城の中庭。
王と魔王が向かい合っていた。
「マーラ=ゼオコだ……魔王と呼ばれている」
「ネコ=サンだ」
しばしの沈黙。
マーラが視線を逸らす。
「その……」
「……魔王ともあろう者が単身で敵地に赴くとは一体何用だ?」
「魚は好きか?」
「……は?」
「好きだが」
「……そうか」
また沈黙。
「魚は、どんなのが好きだ?」
「アジだな」
「……アジ」
「あとサバも好きだ」
「……そうか」
マーラは少しだけ頷いた。
「俺も好きだ」
「そうか」
また沈黙。
ネコ=サンは何故だか少し笑った。
「魔王」
「なんだ?」
「世間話をしに来たわけではないだろう?」
「……そうだな」
マーラは少しだけ姿勢を正した。
「戦争を終わらせたい」
ネコ=サンは黙ってマーラを見る。
「俺もだ」
「……そうか」
「だが」
ネコ=サンは続けた。
「王として、簡単には決断できんのだ」
「分かっている」
マーラは小さく息を吐き、俯いた。
「俺も同じだ」
少しの沈黙。
「最近……魔族領の海岸に、不思議な生物がいるんだ……」
「泳いで、食べて、寝る……それだけだ」
「……」
「見ていると、たまに思う」
マーラは海の方を見る。
「俺たちは、なぜ争っているんだろう……とな」
「人間と魔族は、違うからな」
ネコ=サンも海を見る。
「暮らしも、考え方も違う」
「……ああ」
「だから、互いに分からないことも多い」
「そうだな」
「だが……違うってことが、本当に争う理由になるのか?」
ネコ=サンは少し黙った。
「……分からない」
「……俺もだ」
二人はしばらく黙った。
ネコ=サンが言った。
「話し合いから始めてみないか?」
マーラが顔を上げた。
「……いいのか?」
「話すだけなら誰も困らんだろう」
「……そうだな」
マーラは少し笑った。
「……では、また来る」
「ああ」
マーラは立ち上がった。
「次は……魚を持ってこよう」
「なぜだ?」
「好きなんだろう?」
「そうだが」
「俺も好きだからな」
ネコ=サンは微笑んだ。
「そうか」
マーラは城を出た。
その頃。
海では。
アザラシが魚を食べていた。
「……んまい」
食べ終わると、横になった。
今日も、特に何も起こらなかった。




