第六章 硬い身体柔らかなる時間
魔王城。
四天王が集まっていた。
「東部戦線の報告は?」
セノミが尋ねる。
「終了した」
オミが答える。
「人間側の被害は?」
「なし」
「こちらは?」
「なし」
「……妙だな」
セノミが腕を組む。
「……勇者か?」
「そうらしい」
ハーラミが報告書を見る。
「自軍の兵は全員生存」
「それだけではない」
カマトロンが続けた。
「全員、体の調子が良くなったそうだ」
「……」
四人が黙った。
「勇者の力が、指圧だという話は聞いている」
オミが言った。
「実際に見てみたいな」
「俺も行く」
セノミが立ち上がる。
「私も」
ハーラミも立ち上がった。
「じゃあ私も」
カマトロンが続く。
「……全員で行くのか」
セノミは少し考えた。
「魔王様には?」
「伝えておこう」
四人は立ち上がった。
ちなみに、この四人には魔王軍で正式に通っている二つ名がある。
牙突神撃流のセノミ。
悠久のハーラミ。
刻刻のオミ。
崩城のカマトロン。
ただし、面白がってターマが勝手につけた二つ名は別だった……。
坐骨神経痛のセノミ。
痛風のハーラミ。
骨棘のオミ。
糖尿のカマトロン。
……否定はできなかった。
人間側の陣営。
アレガは一人、椅子に座っていた。
「勇者殿」
兵士が声をかける。
「魔族から使者が来ています」
「誰だ?」
「四天王です」
「そうか」
アレガは立ち上がった。
しばらくして。
四天王とアレガが向かい合っていた。
「お初にお目にかかる」
セノミが言う。
「牙突神撃流のセノミだ」
「悠久のハーラミ」
「刻刻のオミ」
「崩城のカマトロン」
四人が名乗る。
「勇者アレガ=プルシェンコだ」
「存じている」
オミが答えた。
「東部戦線の件も聞いた」
「そうか」
少しの沈黙。
「一つ聞きたい」
セノミが言った。
「指圧とは、どのようなものなのだ?」
「治療だ」
「……戦場で?」
「ああ」
「……敵にもか?」
「勇者だからな」
「なぜ?」
「痛みがあるだろう」
四人が黙る。
「……なるほど」
ハーラミが頷いた。
「分かるような、分からないような話だ」
「施術にきたのだろう?」
「……」
「構わない」
セノミが前に出る。
「頼む」
「前回治療した兵士から聞いた」
アレガが言った。
「これほど身体が楽になるのであれば、四天王様にも受けていただきたいとな」
「……そうか」
セノミが少しだけ目を細めた。
「兵士たちが、そんなことを……」
「それで我々四天王が来たことに驚きすらしなかったのか」
アレガは頷いた。
「では、頼む」
「腰か?」
「流石だな」
アレガが背中に手を置く。
「少し痛むぞ」
「構わん」
「では」
「ぐっ……!」
セノミの顔が歪む。
「そこだ」
「……!」
しばらくして。
アレガが手を離した。
「どうだ?」
「……軽い」
セノミが腰を回す。
「確かに軽いな」
「可動域も広がっている」
アレガが言う。
「……なるほど」
「これなら長距離も――」
「ただし」
アレガが言った。
「無理はするな」
「まだ初診だ」
「……分かった」
セノミは素直に聞いた。
「次、俺も頼む」
ハーラミが立ち上がった。
「足首だ」
「分かった……痛風か」
しばらくして。
「……これは」
ハーラミが立ち上がる。
「痛みが……」
「楽になったか?」
「ああ」
ハーラミは深く息を吐いた。
「これなら、まだ戦える」
「水分を多く取り、プリン体は控えろ」
「……」
「治ったわけではない」
「……そうか」
ハーラミは少し残念そうに座った。
オミがじっと二人を見る。
「俺もやる」
「首だな」
オミが目を閉じる。
しばらくして。
「……悪くない」
オミは首を回した。
「むしろ、よく回る」
「凝りが酷かった」
「そうなのか」
「自覚は?」
「ない」
「……」
アレガは何も言わなかった。
「最後は俺だな」
カマトロンが立ち上がる。
「すまない……」
アレガが少しだけ俯いた。
「私は勇者だが、全てを救えるわけではないんだ……内分泌科では……ないんだ……」
「……お大事に」
カマトロンは素直に頭を下げた。
その頃。
魔王城では。
「……帰ってこないね」
ターマが言った。
「そうですね」
カータが答える。
「何してるんだろ」
「おそらく、勇者に会っているのでしょう」
「そっか〜、勇者の噂はオレの耳にも入ってるよ」
少し間があった。
「……姉さん」
「なんです?」
「治っちゃったらさ〜。四天王の二つ名、また考えなきゃね〜」
カータは書類に目を戻した。
海では。
アザラシが寝ていた。
魚を食べた。
少し泳いだ。
そして寝た。
今日も、特に何も起こらなかった。




