第五章 戦場の指圧師
東部の戦場。
魔族の兵士たちが、次々と倒れていた。
「動けん……」
「俺もだ……」
そこへ、一人の男が歩いてくる。
アレガ=プルシェンコ。
「……お前は」
「勇者だ」
「勇者……?」
「勇者アレガ=プルシェンコだ!」
「……勇者の……あれが……ぷるしぇんこだと……?」
「下ネタ……なの……か?」
「……」
アレガは黙って兵士を見る。
「……?」
兵士は少し考えた。
「……オレ間違えた?」
「肩が悪いな」
「……は?」
「少し痛むぞ」
「いや、何をする気だ!?」
「治療だ」
「……治療?」
「ああ」
アレガは兵士の肩に手を置いた。
「力を抜け」
「待て、なぜ戦わない!」
「なぜ?」
「敵だぞ」
「そうだな」
アレガは兵士の肩に手を置いたまま、淡々と答えた。
「力を抜け」
「……?」
ぐっ。
「いっ……!」
数秒後。
「……あれ?」
兵士が肩を回す。
「痛くない」
「そうだろう」
アレガは次の兵士を見る。
「腰が悪いな」
「……分かるのか?」
「見れば分かる」
「……」
アレガは背中に手を当てる。
「ここだな」
「……っ!」
「力を抜け」
ぐっ。
「……!」
数秒後。
「……軽い」
「そうか」
兵士は立ち上がった。
「本当に治った……」
「そうか」
アレガは次の兵士を見る。
「次は誰だ?」
少し離れた場所。
「……あいつ、敵なのか?」
「たぶん」
「でも、俺たちを治してるぞ」
「……そうだな」
「じゃあ、なんで戦場にいるんだ?」
「……知らん」
その頃。
アレガは別の兵士の腰を押していた。
「……ここだ」
「そこはやめろ!」
「腰が悪い」
「そうだけど!」
ぐっ。
「……あ」
「どうだ?」
「……楽だ」
「そうか」
アレガは立ち上がる。
「次」
「……」
兵士たちは顔を見合わせた。
誰も逃げなかった。
痛みがなくなるのだから。
その日の戦闘は終わった。
死者は出なかった。
負傷者も、ほとんどいなかった。
魔族兵の間に、新たな噂が広がった。
――敵陣に、とんでもない勇者がいる。
その名は。
指圧の勇者、アレガ=プルシェンコ。
その頃。
海では。
アザラシが寝ていた。
今日も、特に何も起こらなかった。




