第十一章 乳化
神界。
コモン=サモンは、水晶玉を眺めていた。
「……」
そこに映っているのは、海岸だった。
マーラとネコ=サン。
二人は並んで海を見ている。
「……人間と魔族、か」
コモンは小さく呟いた。
争っていた。
お互いを知らなかった。
違うことを恐れていた。
それが今では。
「一緒にいるのね……」
少しだけ笑った。
それから、しばらくして。
人間の国。
「マーラ」
「ああ」
「話がある」
「なんだ?」
ネコ=サンは少しだけ緊張していた。
「子供ができた」
「……」
マーラが固まった。
「……本当か!」
「ああ!」
「そうか!」
マーラはしばらく黙っていた。
「……俺たちの……だよな?」
「他に誰がいる」
二人は顔を見合わせた。
そして。
マーラが小さく笑った。
「……嬉しいな!」
「ああ!」
「……だが怖くもある」
「……俺もだ」
「王だからな」
「魔王だからな」
二人は顔を見合わせる。
「……でも」
ネコ=サンが言った。
「この子には、そんなもの関係ないだろうな」
「……そうだな」
二人は静かに笑い、温かい涙を流した。
魔王城。
「子供……です……か?」
カータが目を見開いた。
「うん♪」
ターマが答える。
「マーちゃんと王様の」
「……」
カータは黙って書類を置いた。
「……そうですか」
「姉さん」
「なんですか?」
「驚かないの?」
「驚いていますよ」
「顔に出てないよ」
「出す必要がありますか?」
「ないけどさ〜♪」
ターマは笑った。
「でも、なんか嬉しいね」
「……そうですね」
カータも、ほんの少し笑った。
それから、しばらくの時が過ぎ……。
人間の国。
魔族の国。
それぞれに、少しずつ話が広がっていった。
人間と魔族の間に生まれた子。
最初は戸惑う者もいた。
だが。
「人間なのか?」
「魔族なのか?」
そう尋ねられるたび。
ネコ=サンとマーラは答えた。
「俺たちの子だ」
それだけだった。
神界。
コモンは水晶玉を見つめていた。
「……」
そこには、泣きじゃくる小さな赤ん坊が映っている。
人間とも。
魔族とも。
その両方とも言える。
コモンは少し考えた。
「水と油は、混ざらない」
以前、そう考えた。
でも。
「……混ざらないものが、混ざろうとしたら」
新しいものが生まれることもある。
コモンは小さく笑った。
「乳化……か」
水晶玉の中。
赤ん坊が泣いている。
「……元気ね」
コモンは少し嬉しそうに笑った。
「よかった」
そして、ふと思い出す。
「……あ」
コモンは書類を一枚取り出した。
「そういえば、アザラシにも何かしてあげないとね♪」
「最初に与えた力は……」
長時間潜る力。
寒さへの耐性。
泳ぐ力。
「……全部、もともとできたのよね……あれは反省だわ……」
コモンは少し考えた。
「でも、あの子がいなかったら、ここまでにはならなかったし♪」
水晶玉を見る。
海岸で眠るアザラシ。
「……何か、贈り物を考えましょうか♪」
コモンは書類に向き直った。
海岸。
アザラシは寝ていた。
「……」
魚を食べる。
少し泳ぐ。
そして寝る。
人間と魔族の間に、新しい命が生まれたことも。
それが何を意味するのかも。
アザラシには関係なかった。
「……」
ただ。
今日はいつもより少しだけ、海が騒がしかった。
アザラシは目を開ける。
「……?」
少しだけ見回す。
そして。
「……まあ、いいか」
また寝た。




