最終章 今日もなにも起こらなかった
神界。
女神コモン=サモンは、一枚の書類を眺めていた。
「……決めた♪」
水晶玉を見る。
そこには、海岸で眠るアザラシが映っている。
「あなたには、これをあげる♪」
コモンは小さく笑った。
海岸。
アザラシは寝ていた。
波の音。
潮の匂い。
いつもの海だった。
「……」
そこへ、一人の男がやってきた。
「……いた」
男はアザラシの前に何かを置いた。
金色に輝く魚。
「……?」
アザラシが目を開ける。
魚を見る。
男を見る。
「……誰?」
男は答えない。
アザラシは少し考えた。
「……魚くれる人?」
男は笑った。
そして、その場を離れていった。
アザラシは魚を見る。
金色だった。
「……色違い?」
少し匂いを嗅ぐ。
食べる。
「……んまい」
それだけだった。
神界。
コモンは水晶玉を見ていた。
「……食べた」
少し安心したように笑う。
「よかった」
水晶玉の中。
アザラシが横になる。
「これで、いいのよね?」
コモンは呟いた。
人間と魔族は、今も違う。
それぞれの国があり。
それぞれの暮らしを営む。
マーラとネコ=サンも、それぞれの立場は変わらない。
それでも……。
色々なものが変わらずに変わり始めた。
人間と魔族の間に生まれた子供も。
これから多くの色を見ていくだろう。
違うこと。
同じこと。
争うこと。
分かり合うこと。
そして。
混ざらないものが、融和すること。
コモンは水晶玉から目を離した。
「……生きとし生けるものは」
少し考える……。
「アザラシのように生きろ、か」
「案外難しいものかもね、変わらないってことも」
海岸。
アザラシは眠っている。
金色の魚を食べた。
少し泳いだ。
そして寝た。
世界がどう変わったのか。
人間と魔族がどうなったのか。
自分が何をしたのか。
そんなことは知らない。
ただ。
魚は美味かった。
海は静かだった。
眠るには、ちょうどいい。
アザラシは目を閉じる……。
今日も。
……何も起こらなかった。
【あとがき】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
『典型的なアザラシだった件について』は、アザラシがただ魚を食べて、寝ているだけの物語として始まりました。
気がつけば、魔王が出てきて、勇者が出てきて、四天王が出てきて、人間と魔族が和平を結び……。
最終的には、王と魔王までこんなことになりました。
……どうしてこうなった?
でも、最後までアザラシはアザラシでした。
魚を食べて、泳いで、寝る。
それだけです。
この作品を書き始めたとき、私は小説を書くこと自体が初めてでした。
文章の書き方も、物語の作り方も、手探りの状態。
それでも「アザラシが魚を食べて寝ている話を書いたら面白いんじゃないか?」
そんな軽い気持ちから、この物語を書き始めました。
そして、タイトルの『典型的なアザラシだった件について』も、作者の小説家になろうに対する勝手なイメージでつけました。
「〇〇だった件」みたいなイメージでした꜀(.௰. ꜆)꜄
今思えば、タイトル通りの内容だったのか、途中からかなり遠くへ行ってしまったのか……。
作者にも正直、よく分かりません。
……アザラシは魚を食べて寝ていただけなのに。
この物語を書いている間、たくさんのキャラクターが生まれ、物語がどんどん広がっていきました。
最初はここまで大きな話になるとは、まったく思っていませんでした。
それでも、こうして最後まで物語を書き切ることができたのは、読んでくださった皆さまのおかげです。
拙い構成・文章にも関わらず、ここまで一緒に走ってくださった読者の皆さまに、心から感謝しています。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
また、別の物語を書くそのときは、覗いていただけたら嬉しいです。
――海月まったり




