さっそく一緒に大浴場行こうぜ!
試験結果の貼り出し板に「ルーク・アルノー」の文字を見つけた時の歓喜も束の間。
ルチアは案内された新人用の宿舎へと足を踏み入れ、指定された部屋の扉を叩いた。
「はーい、どうぞー!」
中から聞こえてきた聞き覚えのある声に首を傾げつつ扉を開けると、そこには荷物をベッドに放り投げていたアルドがいた。
「えっ、アルド!?」
「あ! ルークじゃん! マジか、お前と同室なのか!? やったー!」
アルドはパッと顔を輝かせると、大喜びでルチアの肩をガシッと組んできた。
(ち、近い……ッ!!)
男性特有の体温の高さと、ほのかに香る汗と石鹸の匂い。
さらしを巻いているとはいえ、密着した肩の感触にルチアは心臓が跳ね上がりそうになる。
「う、うん! よろしくね、アルド!」
慌てて身を引くようにして距離を取り、ルチアは指定された自分のベッドへ荷物を置いた。
アルドと同室なのは心強いし嬉しいけれど、これからここで四六時中一緒に過ごすとなると、正体がバレないかハラハラしっぱなしだ。
荷物の整理を終え、ほっと一息ついたその時。
「あー、今日の試験で汗びっしょりだ! ルーク、さっそく一緒に大浴場行こうぜ!」
アルドがタオルを首にかけながら、爽やかな笑顔で声をかけてきた。
「え……っ、大浴場!?」
ルチアの血の気が引いた。
当然だが、騎士団の宿舎にあるのは男だらけの巨大な大浴場だ。
一緒に行けば、服を脱ぐどころかさらしを巻いている時点で女だと一発でバレてしまう!
「あ、あのさ……! 私……じゃなくて俺、ちょっと体調が……っていうか、人に裸見られるの、昔からすごく苦手で……!」
顔を青くしながら必死に言い訳をこねるルチア。
するとアルドは一瞬ぽかんとした顔をした後、ニッとニ悪戯っぽく笑った。
「なんだよ、お前意外とウブなんだな〜! 男同士なんだから減るもんじゃないし、恥ずかしがらなくていいのに!」
言いながら、アルドは「ほら行くぞ!」とルチアの腕をグイッと引っ張ろうとしてくる。
(やばいやばいやばい!! バレる……ッ!!)
絶体絶命のピンチに、ルチアの額から滝のような冷や汗が吹き出す。
「や、やめてよアルド……っ! 本当にダメなんだってば!」
ルチアは必死の思いで腕を引っ込めると、手首のあたりを押さえて痛そうな顔を作ってみせた。
「……? どうしたんだよ、ルーク?」
突然の必死さに、アルドも手を止めて首を傾げる。
「……実はさ、昔負った傷が身体にあって。人に見られるのがどうしてもトラウマなんだ。……だから、ごめん。お風呂はみんなが寝静まった後に、一人で静かに入らせてほしい」
俯きながら消え入るような声で嘘をつくと、アルドはハッとしたように目を丸くした。
「そ、そうだったのか……! 悪い、俺全然知らなくて無神経に誘っちゃって! ごめんなルーク!」
「ううん、アルドが謝ることじゃないよ。気遣ってくれてありがとう」
申し訳なさそうに頭を下げるアルドに、ルチアは心の中で(嘘ついてごめんなさい……!)と全力で謝罪した。
◇
——夜中、丑三つ時。
宿舎全体がシンと静まり返り、隣のベッドからアルドの規則正しい寝息が聞こえてくる。
ルチアはそっとベッドを抜け出すと、脱衣用の着替えと手ぬぐいを抱え、音を立てないように部屋を抜け出した。
しんと静まり返った廊下を抜け、大浴場の重い扉をそっと開ける。
湯気が立ち込める広い浴場には、当然だが誰もいない。
「ふぅぁ……助かったぁ……!」
脱衣所で服を脱ぎ、胸に固く巻き付けていたさらしをほどく。
締め付けから解放された胸が大きく息をつき、ルチアはほっと深く吐息を漏らした。
白く滑らかな肌を湯気で包みながら、湯船に足を入れる。
「あぁ……生き返る……」
温かいお湯が、一日中張り詰めていた身体と心を優しくほぐしていく。
入団試験、アルドとの出会い、そしてあの銀髪の団長——怒涛のように過ぎ去った一日を思い返しながら、ルチアはお湯を手にすくって顔を洗った。
(お兄ちゃん……私、なんとか一日目を乗り切ったよ。アルドっていう良い友達もできたし、このままバレずに頑張るからね)
ゆっくりとお湯に浸かり、疲れた身体を癒すルチアだった。




