参ります!
休日が明けてからは、再び厳しい訓練に励む日々。汗を流し、剣を交え、男装の騎士としての立ち振る舞いにもすっかり慣れてきた頃——ついに、新人騎士たちにとって大きな転機が訪れた。
見習い期間を終えた新人たちが、いよいよ各部隊へと正式に振り分けられることになったのだ。
「ルーク! 聞いたか!? 俺とお前、同じ第三部隊だぞ!」
掲示板の前で、アルドが興奮気味にルチアの肩を叩いた。
「本当!? よかった、アルドと同じ部隊になれて心強いよ!」
ルチアは嬉しそうに微笑んだ。見知らぬ部隊に一人で放り込まれるより、気心の知れたアルドが一緒なのは心底ありがたい。
そんなルチアは赤い顔で複雑な表情でこちらを見ているアルドに気づかなかった。
◇
配属が決まったその日、ルチアとアルドを含めた数名の新人騎士たちは、挨拶のために第三部隊の隊長室へと向かった。
第三部隊——主に実戦での突撃や困難な任務を担う、精鋭揃いの部隊だ。
「失礼いたします! 本日配属されました新人騎士です!」
重厚な扉を開け、ルチアたちは緊張した持ち前で室内へと足を踏み入れ、一斉に綺麗な姿勢で騎士の礼をとった。
部屋の奥、執務机に腰掛けていた人物がゆっくりと顔を上げる。
そこにいたのは、鮮やかな青い短髪に、澄み渡る水色の瞳を持った男だった。
鋭い目つき、隙のない引き締まった体躯、そしてどこか獲物を狙う野獣のような雰囲気を纏っている。
彼こそが、第三部隊を率いる隊長——カイル・グランツ。
無駄な私語を嫌い、過酷な戦場でも冷静沈着に指揮を執る真面目さと、一度狙った獲物は逃さない鋭い戦術から、騎士団内で『狼』と称されている男だった。
カイルは水色の瞳で、整列した新人たちを静かに見渡した。言葉数は少なく、その表情から感情を読み取ることはできない。
「……今日から第三部隊に配属となった者たちか」
低く落ち着いた声が部屋に響く。
「我が部隊の任務は過酷だ。半端な覚悟では命を落とす。……精進しろ」
「「「はいっ!!」」」
新人たちが緊張感を持って声を揃えて返事をする。
カイル隊長の視線が、一瞬だけルチアの小柄な体躯に向けられた。しかし、特別な疑いを抱く様子もなく、ただ一人の新人騎士として真っ直ぐに評価している眼差しだった。
(良かった……すごく真面目で厳しそうな隊長だけど、男装を疑われているわけじゃなさそう……!)
サイラス団長のような冷酷な腹ぐろさとは違い、愚直なまでに真面目な上司の雰囲気に、ルチアは密かに安堵の胸を撫で下ろすのだった。
◇
「これより第三部隊の訓練を開始する。……全員、剣を抜け」
配属初日の午後、訓練場にカイル隊長の低く重みのある声が響き渡った。
第三部隊の訓練は、見習い時代のそれとはまるで別物だった。カイル隊長自らが木剣を手に取り、隊員たちと直接手合わせを行うのだという。
「手加減はしない。実戦のつもりで来い」
「はいっ!」
最初に名乗りを上げたのはアルドだった。大柄な体躯を活かした力強い一撃を繰り出すが——。
パンッ!
「……甘い。腰が引いている」
一瞬だった。カイルは最小限の動きでアルドの剣を弾くと、そのまま柄頭で胸元を突き、あっけなく地面に転がした。無駄のない、あまりに完璧で鋭い身のこなし。まさに『狼』の異名にふさわしい動きだった。
「くっ……! 強い……!」
胸を押さえて喘ぐアルドを見て、ルチアの背中に冷や汗が流れる。
(速い……! でも、逃げるわけにはいかない……!)
「次」
カイルの水色の瞳が、まっすぐにルチアを捉えた。ルチアはごくりと唾を飲み込むと、木剣を正眼に構えて一歩踏み出した。
「ルーク・アルノー、参ります!」
叫ぶと同時に、ルチアは持ち前の素早さを活かして踏み込んだ。体格と筋力では圧倒的に不利な分、相手の隙を突く鋭い一撃に全てを賭ける。
キンッ、と甲高い音が響く。
ルチアの剣を受けたカイルの眉が、ほんの僅かに動いた。
(くっ…!踏み込みが浅かった…!)
カイルは反撃の速度を少しだけ緩め、ルチアの太刀筋を確かめるように受け止めた。ルチアは何度も弾き飛ばされそうになりながらも、必死に食らいつき、何度でも剣を構え直す。
「……そこまで」
数分後、カイルが静かに剣を引いた。
息を切らし、膝に手をついて肩で息をするルチアを見下ろし、カイルは表情ひとつ変えずに言い放った。
「パワーは圧倒的に不足している。だが……筋は悪くない。己の強みを理解して振るっている」
「はっ……ありがとうございます……っ!」
「明日からは筋力補強のメニューを倍にする。ついてこられるな?」
「はいっ……! よろしくお願いいたします!」
荒い息のまま力強く頷くルチアを一瞥して、カイルはそのまま次の隊員のもとへと歩み去っていった。
(厳しくて口数は少ないけれど……ちゃんと一人ひとりの動きを見て評価してくれる、すごくまっすぐな隊長だ……!)
「大丈夫かルーク……お前、隊長相手によくあんなに粘れたな……」
ボロボロのアルドに肩を叩かれ、ルチアは汗を拭いながら爽やかな笑顔を浮かべた。過酷な第三部隊での日々は始まったばかりだが、この誠実な上司のもとなら、もっと強くなれると実感したルチアだった。




