番外編 ありがと、お兄ちゃん
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コレットの部屋へ毎日通って物語を語り聞かせていた頃のこと。
すっかり夜も更け、今日も無事に務めを終えたルチアは、心地よい疲労感を抱えながら宿舎の廊下を歩いていた。
「おーい、ルーク! おつかれ!」
向こうから歩いてきたアルドが、ルチアの姿を見つけるとひらひらと手を振った。
「お前宛てに手紙が届いてたぞ! 部屋の枕の所に置いておいたからな!」
「えっ、俺に……? あ、ありがとう、アルド!」
入団してすぐ、無事に到着したことと兄の体を気遣う手紙を出していたのだが、その返事が届いたらしい。
部屋に戻ると、アルドの言った通りルチアの枕元に一通の手紙が置かれていた。差出人の名前を見て、ルチアの胸がぽっと温かくなる。
(やっぱりお兄ちゃんからだ……! 手紙を書くのだって体力がいるのに、わざわざ返事を書いてくれたんだ……!)
病床で伏せっているはずの兄が自分のためにペンを執ってくれたことが嬉しくて、ルチアは期待に胸を膨らませながら封を切った。
だが——羊皮紙を取り出した瞬間、ルチアの動きがピタリと止まった。
「……え?」
そこに収められていたのは、びっしりと細かい文字で埋め尽くされた羊皮紙が五枚。
余白などどこにも存在せず、遠目から見ると紙全体がもはや真っ黒に見えるほどの文字量だった。
『ルチアへ。無事に届いた手紙を読んだが、まず言わせてくれ。お前は一体何を考えているんだ? 自分の身体の小ささを自覚しているのか? 男装がバレたらどうなるか分かっているのか? 騎士団の過酷な訓練に耐えられると思っているのか? 私の代わりにそんな危険を冒すなんて——(以下、説教が延々と続く)』
「うわぁ……めちゃくちゃ怒ってるー……」
ルチアは思わず顔を引きつらせ、苦笑いを漏らした。
最初の一枚目から五枚目の最後まで、ひたすらルチアの無謀さを咎め、体を心配し、無茶をするなと訴えるお叱りの言葉がびっしりと敷き詰められている。
(……とてつもない怒りが伝わってくる……)
けれど、どれだけ説教の言葉が並んでいても、行間から溢れ出ているのはルチアを深く愛し、心配してやまない兄の必死な想いだ。
「ふふっ……ありがと、お兄ちゃん。私は大丈夫だからね」
ルチアは真っ黒な手紙を愛おしそうに胸に抱きしめると、明日も頑張ろうと心に誓うのだった。




