す、すみませんでしたっ……!!
「おいルーク、もう一杯いこうぜ〜!」
「はいはい、アルド。もう十分飲んだから今日はここまで!」
田舎育ちだからか、ルチアはお酒にかなり強い。一方のアルドはあまり強くなかったようで、杯を重ねるごとにどんどん頬が赤くなり、喋り方も怪しくなっていた。
(これ以上飲ませたら、自力で歩けなくなっちゃうな……)
そう判断したルチアは手際よく会計を済ませ、千鳥足のアルドの腕をとり、肩を貸すようにして店を出た。
男装をしているとはいえ、中身は華奢な少女だ。ガタイの良いアルドの体重を支えるのは一苦労で、自ずと二人の距離が密着する。
「う〜……ありがとな、ルーク……」
「いいってば。ほら、足元気をつけて」
ふらつくアルドを支えながら歩いていると、首元にアルドの温かい息がかかった。アルドがポツリと呟く。
「……お前、なんか……いい匂いがするな……」
「っ……!」
心臓が一瞬跳ね上がったルチアだったが、慌てて声を整え、からかうように笑った。
「おーい、セクハラか? 酒臭い声で何言ってんだか」
「へへ……悪ぃ悪ぃ……」
アルドはへラッと笑うだけで、ルチアが「女」であることには全く気づいていない様子だ。ルチアは冷や汗を拭いながら、なんとか騎士団の宿舎までたどり着いた。
◇
「ふぅ……やっと着いた……!」
部屋へ入り、アルドをベッドへ寝かせようとした、その時——。
アルドの足がもつれ、引っ張られるようにルチアもバランスを崩してしまった。
「うわっ……!?」
ドサッと大きな音を立てて、ベッドの上に倒れ込む。
気がつけば、ルチアがアルドの上にのしかかるような形で「押し倒して」しまっていた。
(やばっ……! 押し倒しちゃった……!?)
顔を真っ赤にして慌てて跳ね起きようとしたルチアだったが、下から聞こえてきたのは規則正しい静かな寝息だった。
「……すー……すー……」
「……なんだ、もう寝てる」
一瞬で爆睡したアルドの姿に胸を撫で下ろし、苦笑いしながら離れようとした——その瞬間。
「ん……どこ行くんだよ……」
ガシッと、アルドの太い腕がルチアの腰に巻きついた。そのままグイッと引き寄せられ、ルチアはアルドの胸の中に抱きすくめられてしまう。
「きゃっ……!? ちょ、アルド!?」
「すー……」
「こいつ……! 寝てるのに力が強い……っ!!」
解こうとしてもビクともしない腕力。無理に暴れてアルドを起こすわけにもいかず、抵抗を試みたものの、最終的には諦めるしかなかった。
(まあ……服も着てるし、こいつは私を男だと思ってるんだから、変なことにはならないよね……)
心地よいアルドの体温と疲労感に包まれ、ルチアもいつの間にかそのまま深い眠りについてしまったのだった。
◇
翌朝
「……う、うわああああああっ!?」
部屋中に響き渡るアルドの叫び声で、ルチアはパチッと目を覚ました。
「ん……なに……? うるさいよ、アルド……」
目をこすりながら、ルチアはベッドの上でゆっくりと体を起こした。
まだ半分夢の中にいるルチアの口から漏れたのは、寝起きの、どこか無防備で甘く色っぽい声。さらに乱れた髪と緩んだ襟元から覗く首筋に、一足先に目が覚めていたアルドは思わず言葉を失った。
(っ……!? な、なんだ今の声……!? ていうか、なんで俺はこいつを抱きしめて寝てたんだ……!?)
目の前で眠そうに目をこする「男友達」の姿に、アルドは顔を真っ赤にして、ドクドクと激しく打つ自分の心臓を必死に抑え込む。
「お、お前、なんで俺のベッドで寝てんだよっ!?」
顔を真っ赤にしてベッドの端まで跳び退き、パニック状態で叫ぶアルド。
その大声に、少しずつ目が覚めて頭が冴えてきたルチアは、「ふぁ……」と小さく欠伸を噛み殺しながら呆れ顔でアルドを見つめた。
「あのなー……昨日、お酒を飲みすぎて歩けなくなったアルドをここまで運んできたの、誰だと思ってんの?」
「えっ……あ」
「ベッドに寝かせようとしたらアルドが倒れ込んできて、起こそうとしたらすごい力で抱きつかれて離してくれなかったんだよ。力ずくで抜け出そうとしたけど全然ダメだったんだから」
ルチアが一から順を追って呆れ混じりに説明すると、アルドの顔は赤から一転してサーッと青ざめていった。昨夜のぼんやりとした記憶がフラッシュバックしたらしい。
「す、すみませんでしたっ……!!」
アルドは速攻でベッドの上に正座し、勢いよく頭をこすりつけた。あまりの見事な土下座っぷりに、ルチアは思わずクスクスと声を上げて笑ってしまう。
「ふふっ、別に気にしてないよ。無事に帰ってこられたんだし。それに意外と普通に寝れたからね」
どこか柔らかく笑うルチア。
朝の光を浴びてキラキラと輝くその笑顔に、アルドは息を呑み、ドキンと大きく胸を打たれた。
(……っ!? な、なんだよ今の笑い方……。なんで俺は同性のルーク相手に、こんなに胸がバクバクしてんだ……!?)
「じゃあ、俺、顔洗ってくるね」
ルチアは寝癖のついた髪を整えながらベッドを降り、軽やかな足取りで部屋を出て行った。
パタンと扉が閉まり、静まり返った部屋。
一人残されたアルドは、ベッドの上に正座したまま、赤くなった顔を両手で覆ってがっくりと頭を垂れた。
(あいつ、男だぞ……? ずっと一緒に訓練してきた同期だぞ……? なのに……なんであんなにいい匂いがして、なんであんなに可愛く見えたんだ……!?)
自分の正気を疑い、底知れぬ困惑の渦に呑み込まれていくアルドだった。




