アルド、ただいま!
姫様を見送り、サイラス団長との冷や汗ものの対話を終えたルチアは、自分の部屋へと戻ってきた。
扉を開けると、部屋の中では同期のアルドが剣の手入れをしていた。
「おっ! お帰り、ルーク!」
ルチアの姿を認めるなり、アルドは手入れ用の布を置いてガタッと立ち上がった。
「アルド、ただいま!」
「お前さ、ここ数日ずっとどこ行ってたんだよ! 朝から晩まで王宮の方にいたり、団長室の近くで見かけたり、すごく忙しそうだったろ。もう仕事はいいのか?」
心配と好奇心が混ざった視線を向けられ、ルチアは思わず苦笑いを浮かべた。
(コレット様の護衛任務は外交に関わる極秘事項だったから、一番身近なアルドにすら言えなかったんだよね……)
「うん! 団長からちょっとした任務を頼まれていたんだ。いろいろ心配かけちゃってごめんね。無事に終わったよ」
ルチアは明るい声で答えると、胸の前でキュッと拳を握りしめて笑ってみせた。
「明日からまた、いつもの訓練に戻れるよ。よろしくね、アルド!」
「おう! 当たり前だろ! お前がいねーと素振りも組み手も気合いが入らねぇんだよ。体鈍ってるんじゃないか?明日はビシバシしごいてやるから覚悟しろよな!」
ニッと歯を見せて笑うアルドの気さくさに、ルチアの心はすっかり解きほぐされていく。
(サイラス団長に正体がバレた時はどうなるかと思ったけれど……なんとかこのまま続けられそうで良かった)
窓の外を見上げると、王都の夜空には美しい星々が瞬いていた。
冷酷で恐ろしいけれど秘密を守ってくれたサイラス団長、自分を心から信頼してくれたコレット様、そして隣で笑ってくれる心強い仲間のアルド。
自分を守るため、そして愛する家族と騎士団での大切な場所を守るため、明日からの訓練へと思いを馳せるのだった。
◇
数日後、ついに待ちに待った日がやってきた。
入団してから、初めての休日だ。
「よーし、ルーク! 今日は思いっきり食って飲むぞ!」
朝から私服に着替えたアルドが、満面の笑みでルチアの部屋の扉を叩いた。
私服姿のアルドは、いつもの騎士甲冑姿とはまた違った爽やかな好青年の雰囲気を漂わせている。
ルチアも動きやすい服を身にまとっているが、首元にはしっかりと声を偽装するチョーカーを装着した。
「うん! アルド、おすすめのお店があるの?」
「おうよ! 先輩に教えてもらった、肉料理がめちゃくちゃ美味い酒場があるんだ。休日の昼間から行くのが最高なんだってさ!」
二人は並んで宿舎を出ると、陽光が心地よく差し込む王都の街へと繰り出していった。
数日前、コレットと一緒に歩いた市場の賑わいとはまた少し違い、休日の街は家族連れやカップル、酒場を目指す男たちで活気に満ちあふれている。
「ここだ! 『赤獅子亭』!」
アルドに案内されたのは、香ばしい肉の匂いが漂う大きな酒場だった。
店内に入ると、まだ昼間だというのに大勢の客で賑わっている。
「いらっしゃい! 騎士団のお兄ちゃんたちかい? 奥のテーブルへどうぞ!」
愛想の良い給仕の店員に案内され、二人は奥の席に腰掛けた。
「すいません、この店名物の『骨付き肉のハーブ焼き』を二人前と、特製スープ! あと、えっと……」
アルドが注文を済ませると、ルチアはホッと息をつきながら店内を見渡した。
(休日に、こうやって友達とお出かけしてご飯を食べるなんて……故郷にいた頃は想像もできなかったな)
「なあ、ルーク」
向かいに座ったアルドが、肘をテーブルについて身を乗り出してきた。
「お前、最近なんか吹っ切れたような良い顔してるよな。訓練初日に団長と打ち合いした後なんて、酷い顔だっただろ?」
「えっ……そ、そうかな?」
「おう。なんかさ、度胸がついたっていうか……サイラス団長に睨まれても、前より堂々としてる感じがするんだよな」
アルドの鋭い観察眼に、ルチアは冷や汗を流しながらも苦笑いを浮かべた。
(そりゃあ……正体がバレて、色々あったからね……度胸もつくよ……)
「自分でも、少しずつ騎士団の生活に慣れてきたのかなって思ってるよ。……アルドやみんなが親切にしてくれるおかげだよ」
「へへっ、なんだよ改まって! お前が良い奴だからだろ!」
照れくさそうに頭を掻くアルド。
ちょうどそこへ、焼き立てでジューシーな匂いをさせる大きな肉料理とスープが運ばれてきた。
「うわぁ……! すごく美味しそう!」
「よし、食おうぜ! いただきます!」
二人で顔を見合わせ、出来立ての料理に手を伸ばす。
口いっぱいに広がる香ばしい肉汁とジューシーな味わいに、ルチアの頬が自然とほころんだ。




