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祠の建設と祭りの準備

私たちは、村に戻り、一部始終を村長に話した。

村長は村人たちを集め、意見を聞いた。

川に水が戻ったせいか、反対は出なかった。


ただ、箱の選定でゴンザが口を開いた。


「骨を入れる箱な……、うちの村の箱は全部鉄くぎを使っている。

だから持たんぞ」

とゴンザは言った。


「それだとコストがかかるわね」

と姫様は頭をかいた。


「多少のコストなら、大丈夫ですよ」

と村長は胸を叩いた。


「村長……。悪いけど、その考えには同意できない。

コストを下げられるなら、下げておいたほうが良いわ」

と姫様は言った。


「あのね。うちの死んだおじいさんが、竹を釘にするところがあるらしいと言ってたわよ」

とおばあさんは言った。


「たしかに、それなら可能そうじゃ。さっそく竹の釘を作ってやってみるよ」

とゴンザは答えた。


その後、上流にちょうどいい大きさの洞窟を見つけ、解体した箱を運び入れ、組み立て、中に大蛇の骨を安置した。

そして入り口に結界を示す、縄を張った。


その後、人払いをして、姫様は身を清め、洞窟に入った。

姫様は箱の前で胡坐をかく。

目を閉じる。

そして、精霊と交信を始める。


私は洞窟の前で待機していたが、

洞窟の中から、

冷気にも似た、清らかな空気が流れ出てくることに気が付いた。


自然と、涙が流れた。

死につつあった精霊が、息を吹き返した。

そう感じた。


そして私の中に、大蛇の記憶が流れ込んでくる。

長い長い年月を生きた記憶。

ただ淡々と長い月日を生きた記憶が流れ込んでくる。


精霊は、

また生きる事を求められた。


そう私は感じた。


精霊は、

恐らく永遠ではない。

精霊も、

エルフと同じように滅び、朽ち果てる。

しかし精霊は、

信仰という力を得ると、

再び蘇る。


この精霊は生きたかったのだろうか?


悠久の時を生きるエルフより、

さらに悠久の時を生きる精霊達。


彼らが死に絶えるなら、

それは、

もう彼らは生きたくないのではないだろうか。


そんな事を思った。


姫様が洞窟から出てきた。

少し疲れた表情をしていた。


私はつい姫様に聞いてしまった。

「精霊は、生きたかったのでしょうか?」


「ごめんなさい、

それは考えない事にしているの」

と姫様はつぶやいた。


私は姫様の瞳の奥に、

王族と巫女という立場が背負わされる、

逃げ場のない代償の重さを見た。


……


私たちは、村に戻り、精霊を祀ったことを報告した。


祭りが行われるのは、1か月後。

それまで、水流を増やすため、設置する筒の本数を増やすことにした。


問題なのは、湖だった。

それほど長い間ではないとはいえ、

湖が出来たところには、それなりの生態系が生まれていた。

水を100%戻すと、新しく生まれた生態系が崩れてしまう、

それは自然の摂理に反しているかもしれない。

姫様はそう言った。


村では議論が紛糾した。


「もともと、あの水は村のモノ。

全てを取り返すべきだ」

と村の長老は長いひげを触りながら言った。


「しかし、長老。

もともとあの川は水の流れが強い。

少し増やすだけでも十分じゃろう」

と村長は答えた。


「全てを取り返すべきだ」

村の長老は譲らない。


「……あの長老、頑固で有名なんですよ。

一度決めたらテコでも動かない。

せっかくうまくいきそうなのに」

とドンが私に言った。


沈黙が村を支配する。

長老には、村長でも叶わない。


姫様が手をあげる。

姫様に注目が集まる。


「長老さん、

あなた言ったわね。

あの水は村のモノ。

本当にそうかしら……。

長老の言う通り、

村のものなら、

なぜ神は水を止めたの?」

と姫様はじっと長老を見つめた。


「そんなもの、ワシが知るわけない」

と長老は顔を真っ赤にした。


「そうよね。

あなたが知るわけがない。

そして、

もちろん私も知らないわ」

と姫様は言った。


重苦しい沈黙―――


「お前は何が言いたい」

と長老は怒鳴った。


「あなた。

その歳になっても、

礼儀も知らないの?

私はこの村の部外者だけど、

この村の異変に気が付き、

すぐに手を打ったわ。

言うならば、村の恩人よね。

あなたは長老という立場でありながら、

四年もの間、

何をしてきたの?」

と姫様は、瞬き一つせず、

視線を逸らさぬまま言った。


長老は、

唇を噛みしめ、何も言えなくなった。


重苦しい沈黙が流れる。

逃げ場を探すように、広場に集まった者たちはーー

目を伏せ、

ちらりちらりと、

周りを確認する。


典型的な、

ことなかれ主義の態様だった。


「私は、

そこの長老のように、

権威を振りかざす気はないわ。

ただ、この村の異変に気付き、

そして、誰も行わなかった調査をし、

その状況を打破したわ。

そして川の主の遺体を祀り、

精霊の依り代とした。

そしてその過程で精霊と会話をしたわ」

と姫様は言った。


視線が姫様に集まる。


「その上で断言する。

水は最大でも半分程度になさい。

理由はわからない。

ただ、

全てがこの土地の精霊の御心によるものなら、

私をこのタイミングでこの土地に招き入れたのも、

理由があるはず。

そして私は、

その方法でしか、この村を守れないと理解している」

と姫様は冷めた瞳で言った。


広場がざわつく。


「もし、半分以上戻すなら、私はこの土地を諦めるわ。

あとは勝手にして、

さぁお決めなさい。

村長―――

こういうものは、村の総意で決めるものよね。

ほとんどの場合、住民全てによる投票で多数決で決めるけど、どう?」

と姫様は、村長を横目で見た。


「そ、それが良い。そうしよう」

と村長は言った。


「ジュナ……、半量までに留めた場合の、メリット・デメリット。全量流した場合の、メリット・デメリットを村人に説明して」

と姫様は、私の耳元でささやいた。


私は村人たちに、とりあえず今わかっている限りのメリット・デメリットを伝えた。

そして村人から、水流が多かった時代のことや、どれくらいの利用があるかを聞けた。

不安そうだった村人たちも、状況を整理したことで、どちらを選ぶかがハッキリしたようだった。


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