戻る緑と祭り
投票は全ての住人が行い、全員一致で、最大で半分までの方で決まった。
姫様は、長老までもが賛成した事に驚いた。
姫様は投票のあと、
長老に会いに行った。
「なんだ娘、
ワシを笑いに来たのか」
と長老は視線を外した。
「いいえ、違うわ。
たんなる頑固な爺さんだと思ってたけど、
違うのね」
と姫様は長老をじっと見つめた。
「いや……、
たんなる頑固じじぃじゃ」
と長老は杖を力なく握った。
「私は知っている。
多くの頑固じじぃは融通が利かないだけの爺さん。
でもあなたの場合、
それしかないと、覚悟を決めているからだった。
でも状況を整理して、理解して、別の道が見えたから、
50%という案に乗ったのでしょ」
と姫様は尋ねた。
「まぁ、あんたの言う通りかもしれんな。
歳を取って、経験はあるから、
村に貢献しようと思ってな。
嫌われ者になっても、守る決意をしたが、
今回のは、あんたの言い分が正しく見えたんじゃよ」
と長老は力なく笑った。
「爺さん。やるじゃない」
と姫様は笑顔で、長老の背中を叩いた。
「おいおい。老人はいたわるもんじゃろ」
と長老はあごひげをさすった。
「そんなに、頭が回るなら、まだまだ現役よ」
と姫様は再び長老の背中を叩いた。
……
それから何度も上流に向かい、筒の本数を増やした。
そして、水量は以前の3分の1まで回復した。
そして、川の流れが戻ったことで、全体にうっすらと緑が回復しはじめた。
以前はまったく姿を見せなかった鳥たちも、姿を見せるようになった。
そして一か月がたち、祭りが始まった。
もともと、
この祭りは、村に何も娯楽がないからという理由で、開始された祭りらしい。
だから、いろんな祭りの寄せ集めのような、なんとも不思議な祭りだった。
まずは、
村人たちの隠し芸大会が始まった。
老若男女すべてが、隠し芸を披露することが決まっている。
ドンは縄抜け、
村長は逆立ちしたままの腕立て伏せ、
おばあさんはおたまにじゃがいもを入れてのジャグリング、
長老は杖を使った武術の型
となかなか、本格的だった。
そんな中、姫様と私は、古代エルフ語を使った歌を披露することにした。
(エルスミーファ、アルスミーファ、ファラスミーファ……)
姫様が歌い始めると、川の水面がキラキラと輝きだした。
(エルスミーファ、アルスミーファ、ファラスミーファ……)
私も歌に加わる。
河原の植物についていた水滴が、静かに天へと向かって行く。
水滴が日の光を乱反射し、辺りをキラキラと輝かせる。
(エルスミーファ、アルスミーファ、ファラスミーファ……)
天を薄く雲が遮り、
一筋の光が、姫様と私を照らす。
水滴が二人の周りを漂い、
光の反射で私たちを輝かせる。
(エルスミーファ、アルスミーファ、ファラスミーファ……)
歌い終わると、
村人たちが私たちに手を合わせていた。
涙を流すものもいた。
……
それから、
祭りは料理や酒の振る舞い、
ダンスや音楽となった。
50世帯ほどの小さな村なので、
屋台などもでないけど、
素朴で温かみのある祭りだった。
少しお酒で赤くなった村長が、
姫様の所に来た。
「歌すごく感動したよ。
本当に何から何までありがとう。
村を代表して感謝したい」
と村長は頭を下げた。
「私は私にできる事をしたまでよ」
と姫様は言った。
「ところで祭りなんだけど、こんな感じで良いのか?」
と村長は尋ねた。
無理もない。
これで精霊を喜ばせるというのは、
少し意味がわからない。
「今の祭祀っていうのは、儀式化しているから、わからないと思うけど、
祭祀の原初的な形というのは、祀る対象の認識、祀る根拠、そして守られる者の感謝があれば、成立するの」
と姫様は言った。
「祀る対象の認識というのは、大蛇様、水の精霊様でいいんだよな」
と村長は尋ねた。
「そうよ」
と姫様は答えた。
「祀る根拠というのは、水の恵みへの感謝、水害から守ってもらう事の感謝みたいなことか?」
と村長は尋ねた。
「そ、そうね、そんな感じで合ってるわ」
と姫様は、少し考え、言った。
「そして守られる者の感謝ってのが、この祭りなのか?」
と村長は尋ねた。
「そうなるけど、なにか不服?」
と姫様は、じっと村長を見た。
「不服って事はないんだが、生贄みたいなのはいらないのか?」
と村長は尋ねた。
「精霊が要求するなら、必要だけど、別に要らないわ」
と姫様は答えた。
「しかし、供物は祭壇にあげたけど、すぐに食ってしまっただろ。
あれでは供えたことにならないのでは?」
と村長は首をかしげている。
「あれはね。供物を精霊と共に食べるという儀式なのよ。
だからまず精霊に供えて、食べてもらってから、食べるの」
と姫様は言った。
「時間が短かったけど、あんなもので良いのか?」
と村長は考え込んでいる。
「そうね。
私の感覚からすると、一瞬で終わるわ」
と姫様は答えた。
村長は納得したのか、会釈をして、戻っていった。
「姫様、お疲れではないですか?」
と私は姫様をじっと見た。
「多少疲れたわね」
と姫様は笑った。
「もう戻られます?」
と私は尋ねた。
「そうね……、
戻ろうか」
と姫様は言った。
私はうなづき、
軽く挨拶をして、借りている家に戻った。
姫様の横顔を見ると、やはり少し疲れが見えていた。
無理もない。
姫様ほどの高貴なお方が、
まったく見知らぬ地で、
こんなにハードな生活を送っているのだから。
私は考えた。
なぜ姫様や私たちが、この世界に飛ばされたのか。
考えてもわからない問題を考えた。
「姫様。私たちは、なぜこの世界に飛ばされたのでしょうか?」
と私は尋ねた。
姫様は黙ったまま、歩き続けている。
十歩ほど歩き、こちらを振り向いた。
「さぁね。
ただハッキリしているのは、世の中には意味のある事と、ない事がある。
それだけよ。
この飛ばされたことが、意味がある事なのか、ない事なのかはわからないわ」
と姫様は頭をかいた。
意味のある事と、ない事があるか……、
どうせなら、全てを意味ある事だと、捉えたいけど、それだとダメなのかな。
私はそんな疑問を持った。
川の音が、遠くで変わらず流れていた。




