四十一日目(一)
朝、目を覚ました私は、いの一番に自分のヤシの実に残っていたジュースを飲み干した。伸びをしたのはそれからだった。頭痛がしたが、その割に気分は爽快だった。
「おはよう、イサナ。さて、思い出作り、まずは何から始める?」
おはよう、とマヅチに返しかけた私だったが、彼の言葉に押し止められた。
まずは? 思い出作りを始めたのは昨日じゃ……
「ねえ、マヅチ。今、何て?」
マヅチは小首を傾げた。
「ん? いや、だから何から始める?」
「私たち、昨日花輪を作ったよね」
それで三人でよくわからない結婚式を……あれ?
私は拠点を見回した。
マヅチが怪訝な顔で私を見つめている。
「ねえ、マヅチ……レンジュは?」
それに花輪もない。
マヅチは目を丸くし、私に駆け寄って私の額に手を当てた。
「熱は……ないみたいだな」
「マヅチ?」
私はだんだん不安を覚えてきた。いらない歯車が存在しているかのような、もしくは必要な歯車が消えているかのような、そんなもやもやが雲のように私の心中に発達していった。
マヅチは小さく息を吐いてから、とても落ち着いた声音で言った。
「レンジュは、死んだ。昨日海中の洞穴で見ただろ」
海中の……洞穴?
私の脳裏に、海水の満ちた暗い洞穴の映像が浮かんだ。いや、どちらかと言えばそれは思い出したという感覚だった。そしてその奥には、微かな波にゆっくりと揺らめくチェックのシャツ。海に没した洞穴の中で、それは壁に背を預けるようにして座っていた。
「レンジュ……」
そうだ。レンジュは、死んだんだ。
私の肩を温かく包むものがあった。
「幸せな夢だったか?」
優しく尋ねるマヅチに、私は涙と共に頷いた。
私たちの思い出作りは、ハンモック作りから始まり、蔓籠製作、寝床の改良と、目が眩むような速度で進んでいった。どれも失敗を繰り返しながら、迫りくる難題を二人で知恵を合わせて何とか乗り越えることの達成感を知った。
光陰矢の如し、まさにあっという間の数週間だった。マヅチも私も、髪がだいぶ伸びた。マヅチが私の意識を過去や未来から『現在』に引き戻してくれたのは、きっと一日の体感時間を減らす目的もあったのだろう。マヅチと思い出作りに没頭したおかげで、この期間、私が負の感情に脅かされることはほとんどなかった。
ある朝、次は何をしようか、樹間に固定された蔓のハンモックに揺られながら考えていると、眼下のマヅチがふと呟いた。
「花の、薫り……」
目を閉じている彼に倣って私もそっと瞼を下ろした。微かに、空気中に芳香が漂っているのがわかった。
数日後、私たちはまさに空前絶後の奇跡に遭遇した。




