四十日目(一)
翌日のよく晴れた朝、私たちが思い出作りと銘打って最初に行ったのは、花輪作りだった。
事の始まりはとても単純で、朝食を取りながら二人で何をしようか頭を絞って案を出そうとしたところ、何も思いつかない私をからかうように、マヅチが「女の子らしくお花の輪っかを作りたいとでも言ったらどうだ?」と言ったので、私は素直に「じゃあそれで」と答えた。
熱帯の地にはおびただしいほど多種の植物が生育しており、この島の密林もその例に漏れず、花輪の材料を探すには申し分ない適地と言えた。この島に咲き誇る花々がそれぞれにもつ色、模様、形はどれも個性豊かで、私の頭で考え得る無限の彩色を悉く実現させることができた。そのため、この日の花輪作りにおいて花を探す工程が最も楽しい時間だったとも言えた。
私は燃え盛る炎のように、または妖艶な踊り子のように熱烈に踊るグロリオサの花や、華やかなオレンジ色のオオゴチョウの花を主役に決め、それらの色を引き立てるための花たちを手折って帰った。結局、ついにレンジュから名を教えてもらうことのなかった花が大半を占めた。トランペットの形をした白く美しいチョウセンアサガオの花は、致命的なまでの猛毒を有するがゆえにマヅチからの許可が下りず、少しだけ残念だった。
花輪作りの心得があった私は、マヅチに手順を教えながら作業を進めた。
私は手先を動かしながら、懐かしい記憶を思い出していた。まだ幼稚園児の頃、私はしばしば母親と近くの公園に赴き、同じようにタンポポの茎を編み込んで花輪を作っていた。当時、すでに私という存在の異質さを示す傾向は現れ始めていたが、その時はまだ幼い子供にありがちな独特な感性として、特に目立つようなこともなかった。思えば、母親とのまともな思い出らしい思い出は、遥か時を隔てたその頃の記憶くらいしか私の中には残っていなかった。
「なんかさ」
マヅチが不意に沈黙を破った。どこか照れ臭そうに目を細め、私と視線を合わせようとしなかった。
「俺がこんな花の前に座ってちょこちょこと花輪を作ってるのって……似合わなくないか?」
「ええっ!? 今さら恥ずかしがってるの? 最初に言い出したのはマヅチでしょ」
「いや、それはそうなんだけど……まさか本当にすることになるとは思わなかったっていうか」
やっぱり冗談だったんだ。
私は内心ほくそ笑んだ。
「それにこれ、なんか幼稚じゃないか?」
「そんなことありません。大人でも趣味でやってる人はいるんだから」
「そ、そうなのか……」
「それに、私たちまだ十四だよ? まだまだピチピチの子供だよ」
私が一つ目の花輪を完成させ、二つ目の制作に入ってしばらくすると、マヅチが「ふぅ」と吐息をついた。
「ほら、やるよ」
マヅチはそっぽを向いたまま、私に花輪を差し出した。
マヅチの作品を見た私は、なぜ彼が恥ずかしがっていたのか、何となくわかってしまった気がした。
「すごい……」
思わず感嘆の声が出るほどだった。
彼の作った花輪は、寒色の花をベースにして編み込まれ、母や私が作ったものとは比較にならないくらいに美しかった。彼の色彩感覚の優美さは、意図してするまでもなく私の目に強く焼きつけられた。
私は彼の恥じらいを面白がる気持ちと、彼がプレゼントしてくれたという嬉しさの気持ちを両方胸に秘め、心からお礼を言った。
お互いの花輪ができた時には、思いのほか太陽が傾いていた。
マヅチがまた思い出したように私に薬を飲ませ、私たちは談笑しながら夕食の支度をすべく拠点を発った。
帰路に就く頃にはすでにところどころ夕焼け色の斜光が差していたが、マヅチが言葉巧みに怪談を話し出したおかげで、私は何度も足を止めて黄色い声を上げた。拠点に戻ってきた時にはとっぷりと日が暮れていた。
私は高揚した気分を抑えることができなかった。はしゃぎたい衝動を我慢するのが耐え難い苦痛だった。
今晩はパンの実の日だからかもしれない。パンの実とは、パンノキに生る大きな果実で、火を通すと、果実であるにもかかわらずパンの食感、イモのような味となる。パンの実は、果実しか食べられないこの島で唯一、主食足り得る食材だった。つまり、甘みと酸味ばかりで飽き飽きとしていた果実を、私たちにおいしく感じさせてくれる貴重な存在なのである。
私は浮き浮きとした足取りで焚火に近寄り、取ってきた薪の一部を追加した。
ふと、何気なく傍らの樹木に目をやった。そこにはつい数時間前に作った三つの花輪が枝に掛けられていた。
なぜ、私たちは三つ作ったのだろうか……
疑問に思ったのはほんのひと時のことだった。
「ねえ、マヅチ!」
竈に火を移していたマヅチは肩越しに振り返った。
「ん?」
「私たち三人で、模擬結婚式、行わない?」
マヅチは竈の方に顔を戻した。竈の中をいじる彼の次の言葉が出てくるまで、少しだけ間があった。
彼は笑いながら言った。
「三人ってどういうことだよ?」
「だから、私とマヅチとレンジュの三人に決まってるでしょ!」
マヅチは私に背を向けたまま沈黙した。
「ねえ、マヅチ、やろうよ。せっかく花輪、三つ作ったんだし。これも思い出作りの一貫として」
まだマヅチは返答をしなかった。
「ねえ、マヅチ。どうして黙ってるの……?」
マヅチの様子はどこかおかしかった。彼の背中からは、少しピリピリしている印象を受けた。
「どっちだ?」
ようやくマヅチは言葉を返してくれた。
だが、残念ながらその意味は私にはわからなかった。
「どっちって? 何が?」
「いや、だから……」
竈の火が十分に大きくなったところで、マヅチは振り返った。
彼はおかしそうに笑いながら言った。
「結婚式なら、イサナは当然新婦なわけだろ? そしたら俺とレンジュのどっちが新郎になるんだよ?」
私ははっとした。
「た、確かに……!」
私はしばらくあごに手を当てて考えた。どちらか一方が新郎なら、もう一人は神父になるのだろうか。
私は寝床の上で胡坐を掻いてくつろぐ彼に訊いた。
「ねえ、レンジュは新郎か神父さんか、どっちがいい?」




