二十九日目(一)
連日の悪夢で、私は人の死というものをよく理解した気がした。
その日の夢でも、マヅチは死んだ――すっかり痩せこけた骨と皮だけの遺体となって。夢の中の私は彼の死を受け入れられず、信じられなかったが、それが現実だと心のどこかで悟った私は、その夢でも獣のような叫び声を上げて頭を狂わすことで、刹那的な自己防衛本能を満たしていた。
その後の私がどうなるのかはわからない。夢はいつも私の気が触れて叫び出すところで終わる。でも、その先の私の未来が微塵も残されていないことだけは、手に取るようにわかっている。
きっとそれが、人の――マヅチの死、なのだろう。
午後になると、私はレンジュに密林最奥部に生えるホオズキという薬用植物を採ってきてほしいと依頼された。
すでに一度採ってきたことのある植物だったため、周辺でしばらく橙色の実を探すようなことにはならなかった。所要時間は、往復でおよそ一時間弱といったところだった。
密林内が日暮れの様相を呈し始めた頃。水辺でしばらく待っても、レンジュは私の採ってきた実を受け取りに現れなかった。
彼は拠点で無表情のまま何かの実を砕いていた。またいつものようにマヅチのための薬でも作っているようだった。
奥まったところにある寝床で横になっているはずのマヅチの様子を窺いたかったが、拠点に近付くことを厳禁されている以上、レンジュの目の前でこれ以上足を踏み出すことはできなかった。
私はやや距離の空いたところからレンジュに向かって手を振った。
彼は私に気付くと、自分の背後――マヅチの方を一瞥してから、足音を忍ばせて私の方へ歩み寄ってきた。
私の前まで来たレンジュは、真っ先に人差し指を口に当てた。そして押し殺した声で言った。
「ごめん、受け取りに行くの忘れてた。さっき、ようやくマヅチが熟睡できたところなんだ」
私は依頼された実を彼に渡すと、『絶対に声をかけない』という厳重注意付きの許可を得て、離れた位置からマヅチの様子を見させてもらった。
彼はぐっすりと眠っていた。穏やかな表情を浮かべ、一時的なものなのかもしれないが、咳も止まり、苦痛を忘れられている様子だった。
拠点には、何週間ぶりかの静寂が訪れていた。自然に返った森はにわかに活気を取り戻し、再び神聖な空気を醸していた。
これを機に、マヅチの容体が快方へ向かってくれるといいんだけど……
レンジュが私に与えてくれた時間はたったの一、二分だった。もっと近くでマヅチの寝顔を見たいという願望が心の中に湧き始めた頃、私はレンジュに手を引かれた。
「ようやくあいつが眠れたんだから、起こさないように俺たちももう寝よう」
「うん……熟睡できれば体力も回復するもんね」
マヅチが熟睡できたのは確かにいいことのはずなのに、私の中には未だに妙な不安が燻っていた。
「でもまだ予断を許さない状態だから、何か次の手を打たないと」
私の胸の不安をかき混ぜるように彼は呟いた。
やはり、まだちゃんと快復するのには時間がかかるようだった。それにしても、もうマヅチが病気になってから二週間以上が経過している。マヅチの体力が後どれくらい保つのか、そこが気がかりだった。
私は不安を抱えたまま水辺の寝床へ帰った。




