激情の果てに
9月も後半にさしかかり・・・。
私はあれから毎週のように月野のお店に寄っている。
週に一回は月野の顔を見ないとダメになってて。
ほんとに月野中毒になってしまったみたい。
会いたい気持ちが抑えられないんだ。
今日も閉店間際にお店に向かう。
そうすればいつも最後は二人っきりになれるから。
あの時間が今はなにより幸せで、癖になってる。
いつものように地下の階段を下りると・・・
あれ?中からかすかに話し声が聞こえる・・・。
もしかして今日はお客さんがまだいてるのかな?
私はそーっと扉を押した。
あっ・・・!私のいつも座る場所に別の女の人が座ってる。
ここからだと横顔しか見えないけど、OLさん風の綺麗な人・・・
月野とお喋りをしながら時折笑い合ってる・・・
月野が優しい顔で笑ってる・・・
ずきんっ・・・
何これ・・・胸が痛い・・・
もしかして私嫉妬してるの?
でもきっとそう・・・。
私意外の女に優しく笑いかけないで
私の月野に気安く話し掛けないで
心の奥から押し上げて出てくる負の感情。
黒い悪魔。
苦しい・・・まるでその悪魔が私の胸を裂いて外へ飛び出そうともがいているみたい。
私ダメだ、このままここにいたらまた我を失いそう。
今日はこのまま帰ろう・・・
「あれ?碧衣?」
あっ・・・月野が私に気付いてしまった。
でも私・・・
開きかけたドアを元に戻して思わず駆け出していた。
今はダメだ、きっと月野にまた狂気を向けてしまう気がする。
しばらく一人になって心を静めなくちゃ・・・
なのに・・・
「碧衣ー!どうしたんですかー?」
どうして追いかけて来るの・・・?!
今はダメなのに。
私は振り返らずにそのまま走り続ける。
けど・・・
追いつかれてがしっと腕を掴まれた。
それでも振り返らない。
「はぁ・・・はぁ・・・碧衣、何で逃げるんですか?」
と息を切らしながら言う。
「・・・・」
「他にお客さんがいても・・・全然居てくれていいですよ?遠慮したんでしょう?」
「・・・・」
月野への想いが強くなり過ぎてる・・・
全然つり合いがとれてない。
私ばっかりがこんなに好きで、私ばっかりがこんなに苦しい。
私だけを見て・・・他の女を見ないで
言いたいけど言えない。
私たちはそんな関係じゃないから・・・。
自分の感情も言えないで、ただひたすら待ち続けるなんてもう無理。
もう嫌だ、こんなにつらいのは。
耐えられない・・・
「私・・・しばらく月野と会わない」
「え?」
「月野の顔見たくないの」
「・・・・」
私の腕から月野の手が力を無くしたようにストンと離れる。
「どうして?」
「・・・もう月野のことどうでもよくなったかも」
私どうしてこんなひどいこと・・・
好きなのに・・・
月野を傷つけたいって思ってる自分がいる。
私の苦しさを少しでも分かってほしいと月野に自分勝手な傷を与えてる・・・
なんてひどい悪魔なんだろう。
「本当にそう思ってるなら・・ちゃんとこっちを見て言って下さい」
私はゆっくりと振り返り月野の顔を見た。
「!」
月野なんて顔してるの・・・とても傷ついた顔・・・
悲しげな表情に影を落としてる・・・。
私はほんとに月野をこんな顔にしたかったの?
けど自分の心に余裕がなくて、本当の気持ちを言うことが出来なくて・・・。
「ごめんなさい・・・しばらく私の事は放っておいて」
そう言って私は月野に背を向け走り始めた。
私を追いかける足音はもうしなかった・・・
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朝晩が少し涼しくなってきた今日この頃。
10月に入り、だんだんと秋らしい気候になってきた。
「もう10月なんて早いね」と隣で歩いてる碧衣っちに話し掛けた。
「ほんと早いね・・・」
今日は二人で夕食の買い出しに出てる。
そういえば碧衣っちが来てからもう6ヶ月目突入したんだよね。
早いなぁ。日が経つの。
碧衣っちは最初からできるメイド・・・じゃないできる執事だったから仕事の成長ぶりはあまり目立たなくて。
ただ、要領に慣れてくれたとかそういうのだけ。
最初から卒なくこなせるとかほんと羨ましいよ。
私はいまだにドジしちゃうし、その度に響に呆れられてるし。
いつになったら一人前のメイドになれるんだろ・・・。
理想にはなかなか近づけない。
「あたし碧衣っちみたいになりたいなぁ」
「え??私はキャロになりたいって常々思うけど」
「あたしになんてなっても何も得しないよ?」
「それはこっちのセリフ」
なんだか今の会話がやけに自虐的で滑稽に思えてきて二人で笑った。
「人はやっぱり自分にないものを持ってる人に憧れるのかな」と碧衣っちが少し遠い目をして言う。
「それはそうかも。どうしても羨ましくなっちゃうからね」
「恋愛もそうかな?」
「うーん。恋愛は違うんじゃないかな」
「どういう部分で?」
「恋愛は人それぞれ価値観が違うし、今言ってた自分にないものを持ってる人に惹かれる人もいれば、自分に似てる人に惹かれる人もいる」
「そっか・・・」
と碧衣っちは少し物憂げな表情をした。
「?碧衣っち何か最近元気ないね。ツキノンと何かあった?」
「実は今少し距離を置いてて」
「どうして??」
「想いが強くなり過ぎてちょっとしんどくなっちゃって。ちょっと疲れたかな・・・しばらく心を休憩させたい感じ」
と言う碧衣っちは少し寂しそう。
「そっかぁ・・・」
碧衣っちも色々思い悩んでるんだね・・・。
そんな碧衣っちを見てたらふと思いついた。
「たまには気分転換に他の人とご飯行ったりするのもいいんじゃないかな?」
「えっ・・・キャロがそんなこと言うなんて意外」
「そう?でも、そうしたら色々見えてくることがあるかもしれないなって」
「ふむ・・・それはそうかもしれない。確かに私は今視野が狭くなってるかも。周りがちゃんと見えてない気がする。
・・・たまには悠真でも誘ってみようかな?今はあいつとはいい友達関係になれてるし。」
そうそう。悠真くんやっと想いを断ち切って、いい友達関係を碧衣っちと築いてるんだよね。
前とは違って碧衣っちのこと、姐さん姐さんって呼んでて、友達のノリに変わってる。
悠真くんってある意味ほんとすごい人。
普通そんなうまく切り替えられたりできないと思うし。
まぁあたしの知らないところでそこまでなるのにだいぶ苦しんだのかもしれないけど。
「今日ちょうどあいつ来る日だし、声掛けてみるよ」
「うんうん。気分転換してきて♪」
それで少しでも碧衣っちの気分が晴れるといいな。
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夜になり・・・
「姐さん、けっこういい飲みっぷりしますね~」
「そう?これでも今日は加減してるんだよ。」
さすがに悠真の前でベロベロに酔っぱらうわけにはいかない。
何しでかすかわからないしね。
「それで加減??やっぱ碧衣さんはカッコイイっすわ~」
「悠真は弱いよね、もう顔赤くなってるしさ」
と目の前でぽわーんとした顔になってる悠真に向かって言った。
「いやぁ、おれまだ二十歳になったばっかだし、そんなガンガン飲めてないんで、まぁこれから鍛えて碧衣さんよりも強い酒豪になるつもりですがね~」
「あはは、まぁほどほどにね」
悠真はやっぱおもしろいキャラだな。
お酒の相手にはちょうどいい。
陽気に楽しく飲める。本当にいい気分転換になってるかも。
ずっともやもやしてた気持ちが今はなくなってるし。
それから悠真と二軒目をはしごしてしまった。
普段二人で話すことなんてめったになくて、今日は妙に色々は語っちゃったりして。
私は月野のことばかりに頭を集中させ過ぎてたのがよくなかったのかもしれない。
もう少し気持ちを分散しないといけないのかも。
そしたら少しは余裕が生まれる。そんな気がした。
悠真が席をはずしているときにふと携帯を見ると着信が入っていた。
一体誰だろう??
えっ・・・月野からだ。3件も入ってるし・・・
あれ以来お店にいかなくなってもう3週間も経ってしまった。
私の言った言葉に従ってくれたのかなんなのか月野からも今まで何も連絡来なかったし・・・
急にどうしたんだろ・・・
もしかして私の様子が気になって・・・とか?
そうだったら少し嬉しいけど・・・
気になったのでとりあえず掛けてみることにした。
ぷるるるる・・・・
『もしもし・・・』
あっつながった!よかった・・・。
「月野・・・どうしたの?」
こんな風に話すのあのとき以来だから少し緊張するし、気まずい感じもある。
なんせあんな別れ方したままだから・・・。
『どうしたの、じゃないです。あれからずっと待ってるのに、一度も来てくれないから・・・』
えっ・・・
ほんとに気にしてくれてたんだ?
途端に嬉しい気持ちが湧きあがってくる。
『もう本当に僕のこと、どうでもよくなったんですか?』
あっ・・・あのとき私が言った嘘・・・
本当の事言えてないままだった。
けど今なら話せるかもしれない。
少し距離と時間を置いて、私の心も落ち着いたし。
「・・・今から行っても大丈夫かな?それとももうお店閉めちゃうかな?」
『いいですよ、マスターに言って碧衣が来るの待たせてもらいます』
「ほんと??ありがとう」
と私が言った瞬間、
「あれ?碧衣姐さん電話中?」
と悠真が戻ってきた。
『・・・今誰かといるんですか?』
あっ・・・聞こえちゃったかな?
「うん、響さんの友達と飲んでて」
別にただの友達だし、問題ないよね。
『・・・へーそうなんですか』
あ、あれ?月野の声色が急に変わったような?
なんだか少し怒りを含んでいるような・・・?気のせい?
『やっぱり今日は来なくていいです』
と冷たい口調。
「えっ!何で??」
だんだん胸がざわざわし始める。
嫌な予感で。
『僕にかまわず引き続き、二人でゆっくり楽しんでください、じゃあ』
プツン・・・・
き、切られた・・・!?
なんか最後の方かなり怒ってるような口調だった・・・
何で???
他の男の子と二人でいたから??
だって私と悠真、もうただの友達なのに・・。
それに月野は私のことまだそんなに・・・
「碧衣さん?どうしたんっすか~?」
「・・・悠真、私そろそろ帰るね」
「あーそうですね、今日はかなり長居しちゃいましたし、じゃあ行きましょうか」
「うん・・・」
心がざわつく。焦りと不安で。
早く会いに行かないと、ダメだ。
そんな気がする。
私は居酒屋を出て悠真と別れた後、お店に向かってダッシュした。
このはやる気持ちは今は抑えられない。
本当の気持ちを早く伝えて誤解を解きたい・・・。
月野が怒っている理由だって知りたい・・・。
一刻も早く、月野の元へ行かなくちゃ!!
MOON REBARに到着して・・・
よかった!看板は『close』になってるけどお店の明かりはまだついてる!
月野がいる証拠だ。
毎週のように来てたからずいぶん久しぶりに思える。
月野に会うのも・・・
ドアの前で一つ深呼吸をしてから入った。
いつものように月野はカウンターに立っていて、私に気付くと・・・
今日はにっこり笑ってはくれなかった。
代わりに冷めたような目でこっちを見てる・・・。
なんか怖い・・・いつもと全然違う。
「あの、月野、待ってくれてたんだね、ありがとう」と控えめな感じで私は言った。
「来るような気がして・・・帰れませんでした」
その口調はいつもと違って冷たい・・・。
私はとりあえずいつもの席に座る。
「今日はどうされますか?」
氷のように冷たい声・・・
「いつもので・・・」
「かしこまりました」
なんだろう、この空気感。
ピリピリしてる・・・
やっぱり月野怒ってる・・・
それもこの様子じゃかなり・・・。
「どうぞ」
と無表情で置かれたマリンスノーのカクテル。
「あ、ありがとう・・・」
口に含むとその味は、いつもより苦い感じがした。
まるで今の月野の心を表しているかのような・・・。
「月野・・・何をそんな怒っているの?」
私は思い切って聞いてみた。
「分からないんですか?」
「・・・うん」
「碧衣が嘘をついたから」
「え??」
「僕の事しか見ないって言ったのに、他の男を見た」と鋭い目つきでこっちを見る。
え!!
「そんな!見てないよ!あいつはただの友達だし」
って弁解する私の言葉は今は月野の耳には届いてないように見えた。
だって月野の顔つきがだんだん変貌してきたから、
あの狂気のような顔・・・まさかまた悪魔が出てきた・・・?!
「それに、いきなり僕の前から消えた。目の前から消えないって言ったのに。碧衣は嘘ばっかりつきますね」
「そ、それは・・・」
「それで僕がどんなに悲しい思いをしたか分かりますか?分かってないですよね。
僕の事なんて忘れて他の男とよろしくやってるくらいですから」
「!!」
月野は突然カウンターから出てきて私の隣に立った。
そして私を冷たい目で見下ろす。緑の目が妖しく光ってる・・・
ドクンドクン・・・怖い・・・
恐怖で鼓動が変に早くなる。
「カクテル、もっと飲んで下さい」
とテーブルのマリンスノーが入ったグラスを持って私に差し出す。
「え?」
「早く」
う・・・なんだか今の月野は恐ろしくて逆らえない・・・
言われた通りに、受け取って口に含む。
「お味はどうですか?」
と冷ややかに言う。
「い、いつもより苦いかも・・・」
と私は正直に言った。
「やっぱり・・・なんか作ってる感覚がいつもと違った気がしました。」
「えっ・・・」
「碧衣のせいですよ。僕の心を乱したから」
と私のことを見下すような目で見つめる。
「・・・」
その目に射抜かれて私は動けなくなる。
「味見させてください」
・・・味見・・・?
「僕の心の味」と少し口を開ける。
え・・・な、何??
とまどうあたしの目の前に月野の顔が素早く迫って・・・
「・・・んっ・・・!!」
あたしの目が見開く。
な・・・!!・・・嘘・・・でしょ・・・??
私の口にまるで噛みつくかのようにキスを・・・!!
「んんん・・・!!!」
ああ、ほんとに味見されてる・・・
「・・・・・」
ダメだ・・・力が抜ける・・・
こんなの普通じゃない・・・
いつもの月野じゃない狂気な月野の行動だ・・・
言い様にされちゃダメ・・・
なのに体が言うことを聞かない。
抵抗できない・・・
「はぁ・・はぁ・・・」
やっと月野が私から口を離してくれて、その隙に私は立ち上がって月野から急いで離れる。
今の月野は危険過ぎる・・・。
「碧衣は僕のことが全然分かってないみたいですね」
妖しく笑いながらじりじりと詰め寄ってくる。
「月野、おかしいよ、元に戻って!」
「僕をおかしくさせたのは誰?」
あっ!いつの間にかもう後ろは壁だ・・・!
月野がそれぞれの手を私の顔の横に付いて、まるで私を包囲するような体勢になる。
ち、近いよーーー!それにこの体勢・・・!
もう逃げられない!
悪魔に変貌した月野に迫られてるのに
ドキドキして死にそう・・・
顔も体も熱くなってくる・・・
「この口のせいです。可愛い口して残酷な嘘をつく」
と私のあごを掴んで持ち上げる。
うう・・・痛いよ・・・
「反省するまで罰を与えないと」
と言って私のあごを掴んだまま、そこへ顔を近づけてきて・・・
「んんっ・・・!!」
また激しくキスを・・・
ダメだ・・・だんだん頭がふわふわしてきた・・・
酔ってきた・・・?
カクテルのせい?
それとも月野のせい・・・?
結局こんな狂気をぶつけられても月野に逆らえないのは、
好きだからだ。
狂おしいぐらい好き過ぎて逆らえない・・・。
私もきっと正常じゃなくなってる。
こんな状況なのに私ドキドキしてて全身が熱いんだから・・・。
そんな私から少し口を離し、
「反省しましたか?」と言った。
「・・・」
ボーっとして言葉が出せない・・・。
「まだ足りないみたいですね」
「んっ・・・」
もう許して・・・
でないと私、気が変になってくる・・
ううん、もうなってる・・・
もうこのままめちゃくちゃにされてもかまわない・・・
心も体も・・・
「その表情、ヤバいですね、また理性が飛びそうです」
・・・ってもう半分飛んでるじゃないかー!
「月野はひどい男だね・・・。私の事好きでもないのにこんなことして・・・」
私の気持ち振り回して弄んで・・・ほんとに悪魔だよ・・・。
それなのに何一つ嫌いになれない。
もう私は救いようがないくらい月野に堕ちちゃってるみたい。
なんだか急に力が抜けてへなへな~と床に崩れ落ちた。
まだ体が熱くてドキドキいってる・・・。
「碧衣はまだ分かってないみたいですね」
あれ?少し機嫌治った?口調が穏やかに・・・
月野が片膝をついて、私と同じ目線になる。
「いくら僕でも、好きでもない人にこんなことしたりしませんよ」
「え?」
「もうとっくに好きになってます」
今なんて・・・?
「僕の心の中にはもうあなたしかいません」
「・・・嘘」
「嘘じゃないです、これがその証拠・・・」
そうして今度はさっきと違って優しくキスをしてくれた。
「信じてくれますか?」
「・・・・・」
月野が私のことを好きに・・・?
それはずっと夢見てたこと・・・。
ずっとずっと待ち続けてた言葉。
「月野、もう一回好きって言って?」
「碧衣が・・・好きです」
やっと聞けた・・・
もう胸がいっぱいで何も喋れない・・・
その分感情が私の目からあふれ出す。
「碧衣はけっこう泣き虫ですね」
「・・・女の子だもん」
「そうでした」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
しばらくたって・・・
「さっきは乱暴なことしてごめんなさい」と私の手をとって立ち上がらせてくれた。
「びっくりしたよ・・・」
「だって僕はかなり嫉妬深くて独占欲が強い男なんです。だから・・・」
「?」
私の耳元に口を寄せて、
「これから覚悟してくださいね。今度こんなことがあったら、キスぐらいじゃすみませんから」と囁いた。
どきっ
月野の言葉は心臓に悪い・・・
だけど今は幸せが強過ぎてもうどうなっていいような気持ちになってる。
「もう、嘘はつかないでくださいね・・・」
「え?」
「僕以外の男を見ないでください。・・・それともう僕から離れたりしないで」と私をまっすぐ見て言う。
「・・・うん。約束する。」
私がそう言うと・・・
・・・月野やっと笑った・・・。
いつもの優しい笑顔・・・。
その笑顔を見るとすごく安心する。
目の前の月野が全部私のものになったんだ・・・。
なんだろ、まだ実感が湧かない。
それってもう私から月野に触れていいってことだよね?
こんな風に・・・。
月野の手をふいにとって握る。
「月野の手冷たい・・・」
「じゃあ碧衣が温めてくれますか?」
「え?」
「僕の体ごと全部」
と言って私を引き寄せる。
そして耳元で
「今夜ここにずっといましょうか?いつかの台風のときみたいに・・・」
どきっ
「だ、ダメだよ・・・マスターに叱られるよ」
「何で?」
「お店の中で・・・その・・・あんまりイチャついたりしたら・・・」
「黙ってればバレません」と言って私の耳元にキスをした。
「あっ・・・」
ま、また悪い月野が出て来たような・・・
ドキドキドキ・・・
台風のときよりも今夜はずっとずっと甘くて熱い夜になりそうだ・・・
でももう止められない、この激情は・・・誰にも




