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満月の烙印

今日は鳴くんと月野と3人で映画を観に行く日。


私神崎碧衣は緊張する心を抑えながら待ち合わせ場所に向かった。


まだ知り合って一か月半ぐらいの人たちとこんな風に出掛けるなんて私にとったら正直きついこと。


なんせ人付き合いがすごく苦手だから。

前に勤めてたところではそこの人達と一度も出掛けたことなかったし・・・。


だけど紅咲家のメイドのキャロや、鳴くん、そして月野とは、自分でも意外なほど早く打ち解けることができてると思う。

それは私の力じゃなくてみんなが私に歩み寄ってくれてるから。


みんなほんといい奴ばかり。月野も最初は恐ろしいと思ってたけど最近は妙に親近感が湧いてきて・・・。

なんとなく私と似てるところが多いし・・・。

なんだか少し気になる存在ではある。



「あっやっぱり碧衣が一番かー」と鳴くんがやって来た。


鳴くんはなんだかまぶしい存在。

いつも明るく笑顔を絶やさないし、周りをそのオーラで包み込むような、そんな太陽オーラを持ってる。


今ここにいないキャロは、なんだか子犬みたいな癒し系で周りがほっとけないっていう風に思わせる天使オーラを持ってる。私は自分が可愛い格好とかするのは嫌いだけど、可愛いものを見るのは好きだ。だからキャロを見るのは好き。


「みんな早いですね」と月野が時間ギリギリに現われた。


月野は・・・独特なオーラを持ってる・・・。

黒いオーラ。だけど話すとそのオーラが少し和らぐ。

つまりなんか不安定なんだ。濃くなったり和らいだり。

どSのときは暗黒のような色。私はその月野だけはどうしても苦手。


「みんなそろったしレッツゴー」と鳴くんが私たちを引っ張ってくれた。


「碧衣のお勧めの映画楽しみですね」


「期待してて、超怖いから」



私も今日は意外に楽しみだった。


映画は一人で見るのが好きなんだけど、たまには誰かと見るのも悪くない。






映画館に着いて・・・。



映画館はやっぱり落ち着く・・・

静かで照明が暗くて・・・



ふと隣を見ると月野の横顔があった。



あ・・・意外と隣の席と近いんだな。


なんだろ・・少し胸がざわつくというか・・・。

こんな感覚になるのは久しぶりかも・・・。



月野はなんだか女の人みたいな顔してる・・・

美しいという言葉が当てはまってるかもしれない。



「何でしょうか?」

とイキナリこっちを見た。


どきっ


ち、近い・・・。


あたしは急いで前に向き直った。


「?」



なんだろう・・・胸の鼓動がうるさい・・・。


今の私の態度不自然だったかな・・?




そのときブザーが鳴り響いた。


あっ始まる。照明が真っ暗になるからもう月野の姿もそんなに見えない。


少しホっとする・・・。


どうして?・・・私・・・意識してる?




映画が終了して・・・。


「やっばーめちゃくちゃ怖かった・・・今日夢に出そう」と鳴くんが珍しくげっそりした顔をしてる。


「そんなに怖かったですか?」と私が聞く。

私には普通レベルだったんだけどな。


「碧衣って強いね~ツキノンは?怖かったよね?」


「いえ、序の口ですね」


「マジ~!やっぱ二人強者だよ~」


あっまた月野と意見があった。

ほんとよく合うなぁ。



「この後どうします?」と月野。


「あっいつものとこ行っちゃう?」と鳴くんがちょっとイタズラっぽい顔をする。


いつものとこってどこだろう?


「いいですね、今日はキャロさんがいないから残念がるかもしれませんが」


「確かに~でもまぁどうせしょっちゅう顔合わせてるんだからいいっしょ」



「二人とも話が見えないんだけど?」


「あーすみません。とりあえず来れば分かります」


「碧衣もきっと気に入るよ♪」と楽しそうに笑う鳴くん。



私は?マークを頭に付けたまま二人に付いて行った。




どうやらここが『いつものとこ』らしい。

なんだか可愛らしいカフェ・・・。

名前もホワイトラビットっていうみたいだし・・・


こんな可愛いお店が二人の行きつけ?

鳴くんはまぁ分かるとしても月野は意外。



行きつけの理由は入ってみて分かった。



「いらっしゃいま・・・」


あれ?見たことある顔が前に・・・って響さん?!


白いボタンシャツに黒いベスト、黒の蝶ネクタイ・・・どう見てもウェイターの格好だ。

いいな、その格好。私そういう格好好きだ。自分も着てみたくなる。



「謎が解けました?ここ響さんのバイト先なんですよ」と月野が種明かしする。


そういうことか。それで行きつけなんだ。


しかし見事に女性客ばっかり・・・


ん??


なぜかみんな同じ場所に視線を送ってる・・・

それを辿ると・・・


響さんのところ・・・?



そういうことか!



確かにここまで整った顔立ちでスタイルのいいウェイターはあまり見たことがない。

そりゃあ注目されるわけだ。



なんだかキャロが気の毒に思うけど、気にしてないんだろうか?

あまりそんな話を聞いたことないし、私が見る限り二人はいつもラブラブで相思相愛に見える。

なんというか深い絆で結ばれてるような・・・。


だからきっと大丈夫なのかな?



「新入りを連れて来たのか」と響さんはちょっと不機嫌そう。


「うん、だってこれからは何回も来ることになるだろうし、早めに連れてきとかなくちゃね」


これからは何回も・・・


鳴くんの言葉に少し心が嬉しく感じてる。



「まぁいっけど、もう慣れたし」と響さんはあきらめたような顔をして席に案内してくれた。


中もかわいいインテリアになってる。

壁紙もピンク色の中に白いウサギがいっぱい。

白いイスの背はウサギの耳みたいに両サイドがちょっと長くなってる。


可愛い・・・



「碧衣は可愛いもの好きなんですか?」


あっ気付かれた・・・。

少し恥ずかしい・・・

だって私には似合わないでしょう?


「身に着けるのは嫌いだけど、見るのは好き・・・」


どうか笑わないでほしい・・・。



「へ~女の子だね」


「可愛いとこあるじゃないですか」


あっ笑わなかった・・・嬉しい。

心が安心する。



私のこと少し知ってもらえた。


二人のことも知りたい・・・。


聞いてみようかな?



「二人は何に興味があるの?」


「うーん、おれはインディーズのバンドかな。気に入ったらすぐライブとか行くんだ」


「へ~」

鳴くんは音楽が好きなんだ。


「僕は今天文部に入ってるのもあって星ですね」


「えっ・・・」


「何ですか、その反応は?」


「い、いやちょっと意外だったから」


まさかそんなロマンチックな言葉が出てくると思わなかった・・・。

てっきりもっと黒い系の・・・



「どうして星に?」


「鳴くんには前にも言ったんですけど、闇の中でも染まらず光る星になぜかとても惹かれるんです」


「・・・それって人間も?」


「え?」


あっ・・・変な質問しちゃった・・・


「ううん、何でもない。・・・じゃあ星には詳しいんだ?」


「多少は詳しくなりましたよ」と微笑む。


そんな表情してほんとに好きなんだな。



相手のこと色々知るのって楽しいかもしれない。

意外な発見があるから。



そして知るたびに仲良くなっていくような気がするから。








「今日は楽しかったね」と鳴くん。


もうすっかり夜だ。辺りは真っ暗。

お別れの時間。


なぜだろう・・。少し寂しい気がするのは。

仕事の時はこんな風には思わないのに。


今日は意外と楽しかったからかな?


「私も楽しかった・・・ありがとう」

と二人に言うと、二人ともにっこり笑ってこっちを見た。


なんだか嬉しそう・・・どうして?


「碧衣が楽しんでくれてよかった♪」と鳴くん。

「ほんとよかったです」と月野。


私が楽しかったから二人も喜んでるの?



なんだかそれってとても心が暖かくなるな・・・。



「じゃあおれこっちの方向だから、まったね~」と鳴くんが手を振って去って行った。



「じゃあ駅まで一緒に行きましょうか」


「うん」



駅までの道、月野と二人きり・・・


あれ??また胸がざわめき始めた・・・。


変な感じ・・・




空を見上げると真ん丸のお月様が闇色の空にぽつんと浮かんでる。


今日は満月か・・・。




「もうだいぶ慣れましたか?」隣を歩く月野が聞いてくる。


「うん。仕事にも人にも慣れてきた」


「それはよかった。じゃあもう個人レッスンは必要ないですね」


「!」


どきっ・・・



その言葉を聞くとドキッとする・・・

あのときのこと思い出してしまうから・・・。



「も、もう大丈夫だよ」


「そうですか・・。それは残念」



「えっ・・・」


ドキドキドキ・・・



何これ、心臓が早鐘のように・・・。




「頼めばまたしてくれるの?」


「え?」



わ、私ったら何言ってるのーー??

なんか勝手に口が・・・。



月野はクスっと笑って

「お望みならば?」



あっマズイ・・・なんだかさっきとオーラが違ってきてる?!


黒く染まりだした・・・この闇空みたいに・・・




ドクン・・・ドクン・・・

これは恐怖の音




「どういうレッスンがいいですか?」


「えっ・・・」


「もう初歩的なのはクリアできてますし・・・」

とこっちを見る目はさっきと違う・・・。

妖しい色に変わってる・・・



まさか私の苦手な月野が出てきたんじゃ・・・?




月野は長い間空を見上げている。

もしかしてあの満月を見ているのだろうか?




そして何か思いついたように、


「ねぇ、少し痛みはありますがかなりレベルの高いレッスンはどうでしょうか?」


い、痛み??



「や、やだ。痛いのは嫌。」


私はMじゃないんだから!

ってかどんなレッスンなの?痛みがあるって・・・。

想像もつかないんだけど・・・。



「でもそれを受けると僕とすっごく仲良しになれますよ」と言い、スッとあたしの目の前に移動してきた。


あたしは驚いて立ち止まり月野を見る。緑の瞳が光っている。

改めて見るとやっぱり美しい・・・。




すっごく仲良し?月野と・・・?



なんだか頭がクラクラしてきた・・・。




月野の妖しい笑顔があたしを動揺させる。

やっぱりこのオーラは苦手。

あたしの正気が奪われそうになる・・・。


ほらもう今も身動きができなくなってる・・・

まるで呪縛にでもかかったかのように。

どうしてこんなにこの月野に弱いんだろうか・・・。




「そのレッスン受けますか?」


「・・・・」


「沈黙は肯定とみなします」



ダメだ・・・逆らえない。




「あなたの肌、月明かりに照らされてとても綺麗・・・その白い肌、そっくりだ」



え?そっくり?


茫然とするあたし・・・





「あっ!!」


首元に激痛が・・・


「や、やめ・・・痛っ・・・」



何?何が起こってるの?


月野の顔があたしの首元に・・・



いやだ・・・早く終わって・・・!

気が変になりそう!!





「レッスン終了です」とゆっくり顔をあたしの首元から離しこっちを見つめる。



途端にガクガクガクとあたしは震えだす。


目の前の月野の顔があまりに狂気に満ちた顔だったから。


今日観たホラー映画よりも数倍リアルで怖い。



「碧衣泣いてるの?」


「・・・・」


「可愛い」


そう言ってさっきと同じ首元に今度は優しくキスをした。


「・・・・」


声が出ない・・・


「またレッスンしてほしくなったらいつでも言ってください」


「・・・・」


「今度はもっとレベルの高いものを考えておきますから」

そう言って妖しく笑い、私の元から去って行った。




私はヘナヘナ~とその場にしゃがみ込む。


頭が整理できてない・・・



だけどこの痛みはリアルだ。

夢なんかじゃない。


痛くてとても熱い・・・。



これは何?


仲良しの烙印とでも言うの?



こんなの異常だよ・・・!



それなのにどうしてだろう・・・

心の奥底では喜びの感情がかすかにある・・・



私月野に堕ちたの?

黒い吸血鬼に心を吸い取られてしまった?



空を見上げるとさっきの満月が黒い雲に覆われ姿を消していた・・・。







それから家庭教師の日がやってきた。


私はまた月野に近寄れなくなっていた。

でもそれは前みたいに恐怖からではなく、近寄るとまた胸がざわついて苦しくなるから、それで距離をとるようになってしまった。


あの満月の日の烙印は私にかなりの効力をもたらせたらしい。


行動とは裏腹、心は月野の方へ吸い込まれるように強い力で引っ張られているような。


だけど、そのまま身をゆだねてはいけない気がして、なんとか踏みとどまってる。


そんな私とは逆で月野はいたって普通で、みんなでいるときはいつも穏やかな表情で、黒いオーラも弱まっている。



あまりに変化がないからあの日の事が嘘みたいに思える。

だけどちゃんと私の首元に刻まれてる。

それが唯一の証明。


なかったことにはしない。



ただどうしてあんなことをしたのだろう。

私はあの日からずっと考えてる。

だけど答えは出ない。



愛情からしたものではないことは確かだ。

月野は私の事をそういう風には見てない。

それだけは分かる。



じゃあどうして?








ある日の夕方・・・



「碧衣っちって肌白くて綺麗だね」


「え?」


二人でお庭の手入れをしているときにキャロがこんなことを言って来た。


そういうキャロこそ白くて透き通った肌をしてる。

ほっぺなんてふわふわでつい触りたくなる。



ん??


白い肌?



何かが引っ掛かる・・・



なんだろう?




「そういえばツキノン、色白な子が好きとか言ってたよ」と私に笑いかける。


月野は色白な子が好き?



それ、私前にもどこかで・・・



「今日は一緒に差し入れ行ってもいい?」


「・・えっ、あっうん!ぜひ」




そうして今日はキャロと一緒に鳴くんの部屋に向かった。



いつものように4人での談話が始まる・・・



そういえばキャロが居る時って月野、いつもと少し違う。

いつもより優しい顔をしてるんだよね。

特にキャロと話すとき・・・。



それって付き合いが長いからだと思ってたけど・・・



もしかして・・・?


でもキャロには響さんがいるし・・・。



一度頭に付いた疑惑はなかなか消えなくて、だから今日は月野をよく観察してみることにした。



そしたら・・・




どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。


何度も見てる・・・キャロのことを。


私には向けたことのない熱い目で・・・。



そうだったんだ、月野はキャロのこと想ってるんだ。


叶わぬ想いと知りながらもひそかに想ってるんだ・・・。



心がショックを受けるのと同時に、

あたしの頭にある疑問が浮かび上がる。




それなら・・・あのときの・・・




『・・・その白い肌、そっくり・・・』




烙印を付ける瞬間に月野は確かにこう言った。

そのときの月野はどこか遠くを見ているような目をしてた・・・。



「!!」


まさか・・・まさか・・・!!



突然の確信。


途端に負の感情があふれて私の体中をめぐっていく・・・


そうしてついに一つの答えに辿り着いてしまった。





私は・・・キャロの代わりにされた・・・?




「碧衣っち?どうしたの?なんか顔、青ざめてるよ?!」


自分でも分かる・・・血の気が引いていってる。

あまりのショックで・・・。


だけどそれと同時に制御できない程の怒りの感情が湧きあがってきてる・・。


だめだ、このままここに居たら私はまた・・・


「今日は用事があるから、定時で帰るね!」

と私は素早くドアから出た。



キャロ心配そうな顔で私を見てたな・・・。


でも今は自分の事しか考えられない。



あのままあの場所に居たら、キャロにまでひどい仕打ちをしてしまいそうだったから・・・完全な八つ当たりを。




だけどこのままでは帰れない・・・




あの男・・・



絶対に許さない!!!







屋敷の裏門で、

私は月野を待ち伏せしていた。



黒装束を身につけた残酷な吸血鬼が私の前を通り過ぎようとしたそのとき、


「月野、ちょっと話がある」と声を尖らせて呼んだ。


月野は驚いた顔でこっちを見る。


暗くて私の姿に気が付かなかったらしい。



「驚きました・・・。てっきりもう帰ったかと」


「おまえを待ってたんだよ」


「?なんかキャラ変わってません?」


「うるせー。つべこべ言わずについて来い!」



私は屋敷の近くにある公園に向かって足早に歩く。


「一体何ですか?」


そのヒョウヒョウとした顔が今はすっごくムカつく。


私がこんなに心乱されているというのに。


ますます許せない。




「よくも私の事コケにしてくれたな」


「え?」


「この烙印・・・」と私は首元の襟をめくって月野に見せる。


「・・・それが何か?」



「これは私に付けたんじゃねーよなぁ?おまえの中では」


「・・・何を言ってるのか理解できませんが?」


「とぼけたって無駄。もうバレてんだよ。私とは違う誰かに付けた気でいるんだろ?」


「・・・・」


月野のオーラが急に陰って来た。


ようやくおでましか。

月野の中に眠る悪魔。


抑え込んだ感情がそんな風に悪魔となって出て来てるんだろう?


ある意味悲しい悪魔だよな・・・。



「あなたは勘がけっこういいみたいで」


鋭い目つきであたしを見据える。


だけど今の私はキレてて、恐怖を感じない。



「最低な男だよ、おまえは」


「なぜ?喜んでいたんじゃないんですか?だって自ら望んできたでしょう?」と不敵に笑う。



私が望んでたのはそんなんじゃない・・・


ただ・・・もっと仲良くなりたかった・・


それだけだったんだ・・・




バシっと私は月野をぶった。憎しみを思いっきり込めて。



殴ったら少し怒りが治まってきて、代わりに抑えてた悲しみが湧き出てきた。



「・・・・」



「・・・どうして泣くんですか?」



「・・・悲しいからだよ・・・」



「何が・・・?」



「・・・月野が大事なのは鳴くん、そしてキャロ・・・。じゃあ私は?」


「・・・」


「・・・私はどうでもいいの?」


「・・・・」


「私はまだ出会ったばかりで、月野の心に一つも近づけていないかもしれない・・・。

だけど私だって心を持った人間だし、こんなことされたら傷つくんだよ」



悲しい・・・くやしい・・・


こんな風に月野の前で泣きたくなんかなかった。



「・・・・」


「誰かの代わりになんてされたら傷つくんだよ・・・」



涙が止まらない・・・情けないけど子供みたいに泣きじゃくってしまってる。



惹かれ始めてたから余計にこんなことされて傷ついたんだ。


どうも思ってない人間にされたんだったらこんな風にはならない。

こんな風に涙は出ない。


「うう・・・ぐす・・ぐすん・・」





ふわっ・・・



え??



「ごめんさない・・・ごめんなさい・・・」



月野が私を包むように抱きしめてる・・・



そして何度も何度もごめんなさいを繰り返した。





黒い悪魔が・・・消えた?



月野は私が泣き止むまで優しく抱きしめてくれていた。



やっと落ち着いて、二人でベンチに座る。



「また・・・僕は周りが見えなくなるほど闇に染まっていたみたいです・・」と夜空を見上げながら月野がつぶやくように言った。


今日も輝くような満月が浮かんでて、まるでこっちを見てるみたい。



「また?」


「前にもあったんです・・・感情を抑え込むといつもこうなってしまう。それで後で思いっきり後悔するんです。ダメですね、僕は。全然変われてない・・・」


「そう簡単に変わることなんてできないよ・・・それがある意味自分なんだから」


「はい・・・でもできる限りの努力はしないと」


「うん・・・」


そうだね、努力しようと思うだけで少し変われてるようにも思うし。



「ほんとうにあなたを傷つけてしまってすみませんでした。」

と真剣な顔でこっちを見る。


「・・・分かってくれたならもういいよ」


「ありがとう・・・これからは感情が暴走しないよう気をつけますので」


「うん・・・けど気持ちは伝えないの?伝えず我慢してたらまた暴走しちゃうんじゃ?」



月野は首を横に振り、


「いえ、今度ばかりは伝えません」ときっぱり言った。


「?」



今度ばかり?



「自力で風化させます」


「うーん・・・でも心配だなぁ」


月野はほんと危なっかしいから。



「碧衣は優しいですね」



どきっ・・・


月野が優しい顔でこっちを見てる。

そんな顔で見られるの初めてかも・・・。



「てなわけで、このことは内緒にしてて下さいね」


「うん、分かった」


「二人だけの秘密ですよ?」


「う、うん」


そんな顔をのぞきこまないでほしい・・・。



「ところでやっぱり何かお詫びがしたいんですが?」


「えっ・・・いや、もういいよ、ほんと」

こんな痕はすぐ消えちゃうだろうし・・・。



「それじゃせめて早く治るおまじないを」


「?」



え!!!!


月野があたしの首元の痕にそっとキスをした。

あのときよりも優しく・・・



「あっ・・・」


しかも・・・


「こうすれば早く治るっていいますしね」



舐めた・・・・



かぁぁぁぁぁ・・・



よ、よかった暗くて・・・

こんな顔見られたら屈辱だよ!





それにしてもなんだかとても穏やかな空気。

言いたいこと全部言って心もすっきりしてるし、月野の本音も聞けた。




二人で満月の浮かんだ夜空を見上げていると

少しだけ打ち解けられた・・・そんな気がした。




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